運送業界の労務トラブル事例

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:労務トラブル

ドライバーの労働時間の算定方法は、独自のものがあるため、運送事業者のドライバーに対する労務管理は、かなり難しいのが実態です。運送業における労務トラブルの多くは、過重労働が引き起こしており、運送事業者は継続的な職場環境の改善を行う必要があります。
この記事では、運送業における労務トラブルの事例を見ながら、改善策のヒントを解説します。

過重労働が引き起こす労務トラブル

運送業は、私たちの快適な生活を支えるインフラと言ってもいいでしょう。
Amazonや楽天など、ECサイトによる購買が急増するなか、運送業の重要性が近年声高に叫ばれるようになってきました。AIやIoTなど、最先端の技術が語られる一方で、運送業のようなアナログな業界は、今後も生き残っていくと予想されています。

日本は人口減少社会に突入しています。今後、労働人口が減少するなか、どのようにしてドライバーを確保していくのか、運送事業所は頭を抱えている状態です。求人広告を出しても応募者がいないという傾向が見られるほか、ドライバーが高齢化しており、事業が継続できるかどうか危うい状況まで追い込まれている運送事業者も出ています。

その原因の一端は、「拘束時間の多さ」にあります。
特に長距離ドライバーは深刻であり、健康維持のためにも改善が求められています。運送業の労務トラブルの多くは、労働時間に起因した過重労働です。詳しくは後ほど解説しますが、しっかりと覚えておきましょう。

このような社会状況も影響して、運送事業者は、ドライバーの労務管理を適切に行い、ドライバーの定着を図っていく必要があります。そうしなければ、ドライバーの離職が相次ぎ、事業が早晩立ちゆかなくなるでしょう。

運送業における労務トラブルの事例

運送事業者が直面する労務トラブルで主要なものは全部で3つあります。

ひとつは「労働時間」でしょう。
運送事業者が最も頭を悩ませているのが「労働時間」の管理であり、どのようにすれば改善できるのか、有効な手立てが見えず、立ち止まっているのが現状です。運送事業者に落ち度があれば、ドライバーが離職後に残業代を請求される恐れがあります。

運送事業者が守るべきものに「改善基準告示」があります。
これは運送事業者の労働時間に対する義務を示したもので、拘束時間の上限や労働時間の算定の方法、休息時間などについて定めています。

これによると、ドライバーの1日の拘束時間は原則13時間、最大でも16時間です。さらに、1日15時間を超えるのは1週間に2回までという制限があります。

ここでポイントとなるのは、拘束時間の算定の方法です。
「ダブルカウントされる時間がある」など、独特のルールがあるので、詳しいことは、労働法の専門家である社会保険労務士のほか、労働基準監督署の監督官などに聞くとよいでしょう。

また、運送業における労働時間は、「作業時間」と「手待ち時間」であることもよく覚えておきましょう。よく「手待ち時間」を労働時間ではないと言い張る運送事業者が見られますが、決してそうではありませんから、注意が必要です。そして、休息時間は、勤務終了後、原則として11時間以上、少なくとも継続して8時間以上を確保しなければなりません。

次は「過重労働」です。
運送業は、労働災害が非常に発生しやすい業界。労働基準監督署は、常に労働法が守られているか目を光らせていることはしっかりと覚えておきましょう。過重労働対策は、これまで述べた「労働時間管理」のほか、健康維持対策が含まれ、継続的に行うことが求められています。

労働安全衛生法において、健康診断が義務化されていることもあり、運送事業者は、6か月以内に1度、ドライバーに対して健康診断を実施する必要があります。もし、その結果、業務に携わることができない状態になった場合、就業場所の変更や深夜運転の回数減など、然るべき措置を取らなければなりません。

近年、ドライバーによるさまざまな事故が報道されていますが、過重労働が元凶になっているケースも散見されるため、注意してもしすぎることはないでしょう。

さらに、健康に問題があるドライバーには、医師による面接指導を受けさせることで、継続的な健康管理を図っていくことが求められていることもしっかりと意識しておきましょう。
とはいえ、運送事業者の多くは小規模であるため、産業医がおらず、ドライバーに対する健康確保措置が手薄な状態。その場合は、地域の保健センターに問い合わせると役に立つアドバイスがもらえるはずです。

労働災害が発生しやすい運送業

最後は「メンタルヘルス」です。
過重労働のほか、パワハラやセクハラなど、職場環境に伴う心理的負担により、メンタルヘルスを害するケースが散見されます。

「メンタルヘルス」への対策は、一日で終わるものではなく、継続的な取り組みが求められます。具体的には、ドライバー本人はもちろんこと、管理監督者や総務担当者などに対し、「メンタルヘルス」における対策の重要性を常に訴えかけていくことが必要です。

もしメンタルヘルスを害したドライバーが出た場合、運送事業者は職場復帰のための方法を考えなければなりません。「治ったから戻せばいい」という考えでは、抜本的に職場環境は変わらないため、改善は覚束ないでしょう。

繰り返しますが、運送業は、労務トラブルが発生しやすい業界です。労働時間と職場環境、健康対策などに配慮しながら、労務管理に対して日常的に意識を高めていくことが大切です。

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鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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