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カスハラ対策に活かす「断り方」 ―不満を深刻化させないDESC法―⑹

長澤さおり

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テーマ:カスタマーハラスメント対策・クレーム応対

【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第6回】

カスハラ対策に活かす「断り方」 ―不満を深刻化させないDESC法―

ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。

これまでの連続コラムでは、正当なクレームとカスタマーハラスメントの線引き、傾聴と心情理解、そして声にならない不満に気づく初期応対についてお伝えしてきました。

では、お客様のお話を十分に伺い、そのお気持ちも受け止めた。
それでも、ご要望に応えることができない場合には、どう伝えればよいのでしょうか。

「申し訳ございませんが、できません」

できないことを「できる」とお伝えすることはできません。
けれども、同じ「できない」という内容でも、伝え方によって相手の受け止め方は変わります。

相手を尊重することと、すべての要求を受け入れることは同じではありません。

今回は「DESC法」を手がかりに、相手の気持ちを尊重しながら、できること・できないことを誠実に伝える方法を考えます。

応対によって、正当なクレームを深刻化させない

第2回では、正当なクレームとカスタマーハラスメントの線引きについてお伝えしました。

最初は正当なご意見やご要望、いわゆる「ホワイトクレーム」であっても、応対の仕方によって不満が重なることがあります。

例えば、事情を説明せず「規則ですから」と突き放す。
話を十分に聴かず「無理です」と遮る。
あるいは、その場を収めようと曖昧な約束をする。

すると、もともとの不満に、

「その言い方は何なのですか」
「できると言ったではないですか」

という、応対そのものへの不満が加わります。

それが強い抗議となり、場合によっては、要求や言動がグレー、さらにはブラックに当たる段階へ発展する可能性もあります。

ホワイトをグレーにしない。グレーをブラックにしない。そのためにも、不用意な断り方で新たな不満を重ねないことが大切です。

もちろん、不適切な応対があったとしても、暴言や脅迫などが正当化されるわけではありません。
また、伝え方を工夫すれば、すべてのカスハラを防げるわけでもありません。

ここで考えたいのは、通常のクレームに向き合う段階で、私たちの応対によって防げる深刻化を防ぐことです。

「できません」だけで終わらせない

規則上できない。
安全上できない。
ほかのお客様との公平性からできない。
現場の権限では判断できない。

クレーム応対では、ご要望に応えられない場面があります。
そのとき必要なのは、何とかして要求を受け入れることではありません。

できない理由を説明し、相手の気持ちに向き合い、できることがあるかを考えることです。

「できないこと」は変えられなくても、「どのように伝えるか」は変えることができます。

そこで一つの方法となるのが、「DESC法」です。

DESC法とは?

DESC法は、自分の考えや要望を、相手を尊重しながら整理して伝えるコミュニケーション方法です。

今回は、次の4つの流れで考えます。

D:Describe(描写する)
E:Express(気持ち・考えを伝える)
S:Suggest(提案する)
C:Choose(相手の返答に応じた対応を考える)


大切なのは、アルファベットを覚えることそのものではありません。

事実と気持ちを整理し、「できない」で終わらせず、「では、何ができるのか」まで考えて伝えることです。

D:Describe―まず、事実を整理して伝える

感情や評価ではなく、確認できている事実や状況を整理して伝えます。

例えば、

「ただいま確認いたしましたところ、○○のため、本日のご案内は難しい状況でございます」

と、現在の状況を具体的にお伝えします。

ここで、

「ですから、先ほどから申し上げているように……」

と相手を責めるような言い方をすると、内容が正しくても対立を生みやすくなります。

まずは、相手とこちらが共通して確認できる「事実」から伝えることが大切です。

E:Express―相手への配慮や、こちらの思いを伝える

相手の気持ちへの理解や、こちらの考え・思いを伝えます。

「せっかくお申し出いただいたところ、ご希望に添えず心苦しく思っております」

「お急ぎのところ、ご希望に添えず申し訳ございません」

ここでも、第4回でお伝えした「心情理解」が生きてきます。

要求には応えられなくても、「困っている」「残念に感じている」「何とかしてほしい」というお気持ちまで否定する必要はありません。

要求を断ることと、相手の気持ちを否定することは別のことです。

S:Suggest―「できない」の先に、できることを提案する

ここが、クレーム応対では特に大切だと私は考えています。

「できません」で終わるのではなく、

「では、私たちに何ができるだろう」と考えることです。

例えば、

「本日は難しいのですが、明日でしたらご案内できます」

「こちらの方法では承ることができませんが、○○であれば対応が可能です」

「私の判断ではお答えできませんので、責任者に確認させていただきます」

など、できる範囲で具体的な代替案や、次の行動を示します。

もちろん、必ず代替案があるとは限りません。
その場合は、できないことを曖昧にして期待を持たせず、理由と対応できる範囲を丁寧に説明します。

できないことを無理に引き受けるのではなく、「できること」を探して伝える。

これは、お客様を大切にしながら、組織や従業員を守ることにもつながります。

C:Choose―相手の返答に応じた対応を考える

提案に対する相手の返答を受けて、次にどう対応するかを考えます。
可能であれば、選択肢や、それぞれの場合の見通しも示します。

「本日は難しいのですが、明日の○時でしたらご案内できます。あるいは、○○という方法もございます。いかがなさいますか」

相手が希望された場合は、手続きや次の流れをご案内する。
どちらも難しい場合は、ほかに確認できることがあるか、対応できる範囲を改めて説明する必要があるかを考えます。

一方的に結論を押しつけず、相手の意向を確認しながら、次の対応につなげることが大切です。

ただし、安全や法令、組織として譲れないルールについては、選択肢を示せず、明確にお断りしなければならない場合もあります。

DESC法は、何でも相手の希望どおりにするための方法ではありません。相手を尊重しながら、こちらの考えや限界も誠実に伝えるための方法です。

「断ること」と「拒絶すること」は違う

「断ったら、もっと怒られるのではないか」
「要望に応えられないと、接遇として良くないのではないか」

と感じる方もいらっしゃいます。

けれども、接遇やホスピタリティとは、何でも「はい」と受け入れることではありません。
できないことを曖昧に受け入れれば、ほかのお客様との公平性が損なわれ、従業員にも無理が生じます。

必要なのは、「NOを言わないこと」ではなく、「NOをどのように伝えるか」です。

できないことは明確にする。そのうえで、相手の気持ちには向き合い、できることがあれば提案する。
この両方を大切にします。

ANA時代に学んだ「最後の印象」の大切さ

私がANAで客室乗務員として勤務していた頃、お客様から厳しいご意見をいただいたことがありました。

お話を伺い、お客様のお気持ちを受け止めながら、できることとできないことをお伝えしたうえで、最後に私はこのような趣旨の言葉をお伝えしました。

「ご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。いただいたご意見は、私どもで必ず共有させていただきます。また私たちが変わったかどうかをご確認いただくためにも、ぜひまたご搭乗いただければと思います」

すると、そのお客様は表情を和らげ、

「ちゃんと聴いてくれて安心したよ。また乗るよ。ANAのファンになったよ」

とおっしゃってくださいました。

もちろん、必ずこのような結果になるわけではありません。
また、すべてのご要望に応えることができたわけでもありません。

それでも、相手のお話を真摯に聴き、できないことはきちんとお伝えし、そのうえでできることに働きかける。
そして最後まで相手を大切にする姿勢を示す。

「何を断ったか」だけではなく、「どのように向き合い、どのような印象を残して終えるか」も大切なのだと実感した経験です。

DESC法は「型」だけ覚えても使えない

DESC法を研修でお伝えすると、4つの手順を覚えることに意識が向きやすくなります。

けれども、実際のクレーム応対では、相手の言葉や感情は台本どおりには進みません。
同じ「できません」という内容でも、相手の状況や気持ちによって、適切な伝え方は変わります。

そのため研修では、現場で起こり得る事例をもとに、

「どのように心情理解を示すか」
「どこまでできるのか」
「どのような代替案を提示するか」
「どの段階で上司や責任者につなぐか」

を考え、ロールプレイングを通して練習していきます。

知っていることと、感情が動く場面で実際に言葉にできることは違います。


当ラボのカスタマーハラスメント対策研修では、断り方・代替案の伝え方・引き継ぎを実践し、従業員と管理職が共通の判断で動けるよう支援しています。

通常のクレーム応対を続けるべきではない場面もある


傾聴する。心情を理解する。できることを考え、必要な説明をする。

それでも、要求の内容や手段・態様によっては、伝え方だけで収めようとせず、組織としての対応へ切り替える必要があります。
危険な言動がある場合に、DESC法の手順を最後まで続ける必要はありません。

正当なクレームには誠実に向き合い、不当な言動からは従業員を守る。この両方が、カスタマーハラスメント対策です。

では、どの段階で切り替えるのでしょうか。

次回の第7回では、カスハラ対応へ切り替える判断と、その際に大切にしたい組織としての対応
について考えてまいります。

研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ 公式ホームページ
https://www.hospitality-m-l.com/

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長澤さおり
専門家

長澤さおり(マナーコンサルティング)

ホスピタリティ&マナー・ラボ

元ANA客室乗務員の経験を生かし、接遇・ビジネスマナー・コミュニケーションなど幅広い研修を実施。ホスピタリティを軸に人財を育成し、顧客・患者様満足度の向上と、相互に尊重し合える組織づくりを支援します。

長澤さおりプロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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