「関係の質が良い」とは、仲が良いことだけではない ―必要なことを伝え合い、受け止め合える組織へ―④
【ホスピタリティマネジメントを考える 連続コラム|第5回・最終回】
ホスピタリティを「個人の心」から「組織の文化」へ
―日々の小さな関わりが、人と組織を育てる―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
これまで4回にわたり、ホスピタリティマネジメントについて考えてまいりました。
ホスピタリティを個人の感性や資質だけに任せず、組織全体で育むこと。
人が自ら考え、動くための、安心・所属・承認という心の土台。
そして、互いを信頼し、支え合い、必要なことを伝え合える「関係の質」。
前回は、ANAでの経験を通して、相手を大切にするからこそ必要なことを伝え、その言葉を互いに受け止められる関係についてお伝えしました。
(「関係の質が良い」とは、仲が良いことだけではない ―必要なことを伝え合い、受け止め合える組織へ―)
では、そのような関係を、一部の人の心掛けで終わらせず、職場全体に育てていくためには、何が必要なのでしょうか。
最終回となる今回は、日々の小さなホスピタリティを、組織の習慣、そして文化へとつなげることについて考えてまいります。
「大切にする」という思いを、日々の行動に表す
「人を大切にする組織でありたい」
その思いを掲げることは大切です。
けれども、そこで働く人が「自分は大切にされている」と感じるのは、どのようなときでしょうか。
朝、顔を見て挨拶をしてもらった。
忙しいときに、「何か手伝いましょうか」と声を掛けてもらった。
自分の話を、途中で遮らずに聴いてもらった。
仕事を終えたときに、「お疲れさま。助かりました」と言ってもらった。
そのような、日々の具体的な関わりの中ではないでしょうか。
私はホスピタリティを、「相手の心をプラスにするために、自ら考え、自発的に働きかける姿勢や行動」とお伝えしています。
挨拶は、相手の存在を認めること。
傾聴は、相手の考えや思いを尊重すること。
感謝は、相手の存在・働きかけを受け止め、言葉にして返すこと。
また、「あなたはどう思いますか」と意見を求めることや、「力を貸してください」と頼ることも、相手の力を認め、信頼を伝える関わりです。
【「大切に思っています」という気持ちは、相手に届く言葉や行動になってこそ、伝わっていきます。
第2回でお伝えした安心感や承認も、このような日々の関わりを通して育まれていくのだと思います。
リーダーの普段の姿が、職場の「当たり前」をつくる
こうした関わりを組織に広げていくうえで、大きな意味を持つのが、管理職やリーダーの普段の姿です。
「挨拶を大切にしましょう」と伝えている上司が、自分から挨拶をする。
「何でも相談してください」と伝えている先輩が、相談を受けたときに手を止めて話を聴く。
「気づいたことは言ってください」と伝えているリーダーが、指摘を受けたときに「言ってくれてありがとう」と応える。
その積み重ねによって、働く人は「ここでは、本当にそうしてよいのだ」と感じられるようになります。
反対に、相談するたびに面倒そうな表情をされたり、意見を伝えるたびに否定されたりすれば、言葉では歓迎されていても、声を上げることをためらうようになるかもしれません。
職場で何が大切にされているかは、掲げられた言葉だけではなく、日々の行動や、声を上げた人への応え方からも伝わります。
第3回でご紹介したANAの管理職の方は、自ら「皆さんの力が必要です」と伝えられました。
その姿は、新人だった私の心に残り、後に私自身がクルーを頼り、力を借りるときの大切な経験となりました。
リーダーがすべてを完璧にできる必要はありません。
自分から挨拶をする。分からないことは尋ねる。助けてもらったら感謝する。自分に不十分な点があれば、受け止めて改める。
その姿を見せることも、人を育て、関係を育てることにつながるのではないでしょうか。
小さな実践を、共有し、振り返る習慣へ
一人の行動を組織全体へ広げるには、「良い心掛けですね」で終わらせず、日々の仕事の中で続けられるようにすることも大切です。
例えば、職場で「相談しにくい」という声があるなら、まずは相談を受けたときの関わり方を、皆で考えてみる。
すぐに話を聴けるときは、手を止めて相手を見る。
今は難しいときも、「あとで」だけで終わらせず、「この仕事が終わる15時頃に、こちらから声を掛けますね」と伝える。
そのように、自分たちの職場で「人を大切にする」とは、具体的にどうすることなのかを考えるのです。
そして、朝礼や短いミーティングなどで、実践して気づいたことを共有する。
「声を掛けてもらって、早めに相談できました」
「手伝ってもらえたので、落ち着いてお客様に応対できました」
「話を聴いてみると、自分が思っていたこととは違う事情がありました」
こうした経験を言葉にすると、小さな行動が相手や仕事にどのような影響を与えたのかが見えてきます。
うまくできなかったときも、誰かを責めるためではなく、次にどうすればよいかを考える。
忙しさのために声を掛ける余裕がないのであれば、仕事の分担や助け合い方も見直す。
実践する。共有する。振り返る。そして、次の行動につなげる。
この繰り返しによって、ホスピタリティは「知っていること」から「日々、行っていること」へと変わっていきます。
大切なのは、挨拶や感謝の回数だけを増やすことではありません。
その行動が相手にどう届いたのかを考えながら、続けていくことです。
一部の人の頑張りを、皆で支え合う文化へ
いつも周囲に気を配る人。
困っている人に気づき、手を差し伸べる人。
誰かの仕事を、そっと補っている人。
そのような人の存在に、職場が支えられていることがあります。
けれども、その人にばかり負担が集まっていないでしょうか。
「気づいてくれるから」「引き受けてくれるから」と、いつの間にか任せきりになっていないでしょうか。
ホスピタリティマネジメントでは、助けてもらう人と同じように、助ける人自身も大切にされていることが必要です。
支えてくれたことに気づき、感謝を伝える。
負担が偏っていれば、分担を見直す。
いつも助けている人も、困ったときには安心して「助けてください」と言える。
そのように、支える側と支えられる側が固定されず、互いに補い合えることが大切なのだと思います。
また、必要なことを伝える役割も、一部の上司や先輩だけが担うものではありません。
第4回でお伝えしたように、立場にかかわらず気づいたことを伝え、伝えられた側も受け止める。その関わりを、組織全体で育てていく必要があります。
誰か一人の優しさや責任感に頼るのではなく、皆で人を大切にできる関係と仕組みをつくる。
そこに、ホスピタリティを組織として育む意味があると考えています。
「よろこんでもらうよろこび」が、次の人へ受け継がれる
新人の頃、先輩に気にかけてもらってうれしかった。
困ったとき、声を掛けてもらって安心した。
自分を頼りにしてもらい、「役に立ちたい」と思えた。
そうした経験は、やがて自分が誰かに関わるときの土台になります。
「あのとき、こうしてもらってうれしかった」
「今度は自分が、後輩にそうしてあげたい」
私自身、ANAで先輩方から受け取ったものを、その後の後輩やクルーとの関わりの中で生かしてきたのだと思います。
大切にされた経験が、誰かを大切にする行動につながる。
その行動が相手に届き、「ありがとう」という言葉や笑顔が返ってくる。
そして、「また誰かの役に立ちたい」という気持ちが生まれる。
私がお伝えしている「よろこんでもらうよろこび」は、このような日々の関わりの中にもあります。
組織文化は、一度の呼び掛けや研修だけで完成するものではありません。
何を大切にするのかを共有し、行動に表す。
その行動に気づき、認め合う。
うまくいかないときには振り返り、皆で考える。
そして、新しく加わった人にも、その意味を伝えていく。
その積み重ねが、「この職場では、こうして人を大切にする」という当たり前を育てていくのではないでしょうか。
ホスピタリティを「個人の心」から「組織の文化」へ。
第1回でお伝えしたこの言葉が、全5回を通して考えてきたホスピタリティマネジメントの中心です。
まずは今日、一緒に働く人との関わりを、一つ振り返ってみませんか。
感謝を、言葉にして伝えられているでしょうか。
誰か一人に、頑張りを任せきりにしていないでしょうか。
必要なことを伝えてくれた人の声を、受け止められているでしょうか。
その小さな問いから、職場でできることが見えてくると思います。
ホスピタリティ&マナー・ラボでは、
接遇・ホスピタリティ研修、コミュニケーション研修、管理職・リーダー研修などを通して、
人を大切にし、人が自ら考え、行動できる組織づくりを支援しています。
私はこれからも、「よろこんでもらうよろこび」を原点に、
働く人を輝かせ、人を幸せにし、組織を強くするという視点を大切にしてまいります。
全5回をお読みいただき、ありがとうございました。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ


