なぜ病院・クリニックに医療接遇研修が必要なのか? 患者様満足度・医療安全・信頼につながる接遇力
2026年10月1日、カスタマーハラスメント対策が企業の義務
―お客様を大切にすることと、従業員を守ることは両立できる―
【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第1回】
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
「お客様から厳しい言葉を受けても、接客の仕事なのだから我慢しなければならない」
「理不尽だと感じても、断れば会社の評判が悪くなるかもしれない」
「責任者を呼ぶと、自分の応対力が足りないと思われそうだ」
お客様と接する現場では、このような思いを抱えながら、
一人で懸命に応対を続けている従業員もいらっしゃるのではないでしょうか。
これまでのコラムでは、
「目配り・気配り・心配り」(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232341)、
「一期一会」(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232641)、
「三方よし」(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232456)などを通して、
「人を大切にすること」について考えてきました。
その根底にあるのが、ホスピタリティです。
ホスピタリティとは、相手の心をプラスにするために、自ら考え、自発的に働きかける姿勢や
行動のことです。
相手の立場に立ち、
「どうすれば安心していただけるだろう」「何をすれば喜んでいただけるだろう」と考え、
行動する。
一方で、
相手を大切にすることは、理不尽な言動や要求まで受け入れることではありません。
お客様を大切にすることと、従業員の安全や尊厳を守ることは、
決して相反するものではありません。
むしろ、その双方を大切にできる組織をつくることが、
これからの企業に求められているのではないでしょうか。
2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が義務化
2026年10月1日から、
カスタマーハラスメントを防止するために必要な措置を講じることが、
事業主の義務となります。
カスタマーハラスメントを、
従業員個人の「接客上の悩み」や「応対力の問題」として終わらせるのではなく、
組織として従業員を守る仕組みづくりが求められます。
企業には、
カスタマーハラスメントに対する方針の明確化と周知、
相談体制の整備、
発生後の迅速かつ適切な対応、
被害を受けた従業員への配慮、
再発防止
などが求められます。
特に重要なのは、制度を「つくる」だけで終わらせないことです。
例えば、相談した上司から、
「それくらい自分で応対してください」
「あなたの接客にも問題があったのではないですか」
と言われてしまえば、従業員は次から相談できなくなるかもしれません。
相談窓口を設置するだけではなく、
「どの段階で報告するのか」
「誰が引き継ぐのか」
「どのような場合に対応を終了するのか」
まで、現場で判断できる状態にしておくことが重要です。
すべてのクレームがカスタマーハラスメントではない
カスタマーハラスメント対策を考えるうえで、忘れてはならないことがあります。
それは、
「クレーム=カスタマーハラスメント」ではない
ということです。
商品に不具合があった、
長時間待たされた、
説明と実際のサービスが違っていた。
そのような場合に、お客様が説明や問題解決、再発防止を求めることは当然あります。
正当なご意見やクレームには、
真摯に耳を傾ける必要があります。
そこには、
組織内の社員・スタッフだけでは気づきにくい、
自社の商品やサービス、接遇、仕組み等を見直すための大切な気づきが含まれていることがあるからです。
一方で、
暴力や脅迫、侮辱、人格否定、土下座の強要、執拗な言動、長時間の拘束など、
社会通念上許容される範囲を超えた言動まで、従業員が我慢して受け入れる必要はありません。
厚生労働省では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、
①顧客等の言動であること
②社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
③その言動によって労働者の就業環境が害されること
という三つの要素をすべて満たすものとしています。
では、正当なクレームとカスタマーハラスメントを、
現場ではどのように見極めればよいのでしょうか。
この「線引き」については、次回のコラムで具体的な事例を交えながら詳しくお伝えします。
カスハラ対策と接遇力向上は、どちらも必要
カスタマーハラスメント対策と接遇研修を組み合わせる際には、注意したいことがあります。
「接遇を良くすればカスハラは起きない」
「カスハラを受けたのは、従業員の接客が悪かったからだ」
と考えないことです。
社会通念上許容される範囲を超えた言動の責任を、
応対した従業員に負わせてはいけません。
その一方で、
最初は通常の問い合わせや不満だったものが、
説明不足や不適切な初期応対によって、必要以上に大きなクレームへ発展することはあります。
だからこそ、
防ぐことのできる不満の深刻化は、誠実な接遇と初期応対によって防ぐ。
そして、許容される範囲を超えた言動には、個人で抱え込まず組織として対応する。
この二つを分けて考えることが大切です。
今後の連載では、不満を深刻化させない接遇や通常クレームへの応対についても、具体的に取り上げていきます。
従業員を守る姿勢が、会社への信頼につながる
私自身、ANAの客室乗務員として勤務していた当時、
機内迷惑行為に対する会社のルールが明確に示されたことで、
「会社が私たちを守ろうとしてくれている」と感じた経験があります。
それまでは、お客様から不適切な発言や身体接触を受けた場合などにも、
客室乗務員やチーフパーサーが、その場の状況に応じて判断する場面がありました。
当時を振り返ると、
対応する客室乗務員の経験値や考え方によって、
受け止め方や対応にも違いがあったように思います。
例えば、酔ったお客様から不適切な言動があった際にも、
「お客様、お酒の飲みすぎですよ」とやんわりとかわすことのできる客室乗務員もいれば、
その言動を深刻に受け止める客室乗務員もいました。
当時は、「お客様が大切です」という意識が今以上に強く、
多少の不適切な言動であっても、「酔ったお客様のすることだから」と、
ある程度は寛容に受け止めなければならないという空気感が、
なきにしもあらずだったように思います。
もちろん、その場の状況に応じて柔軟に対応することは大切です。
一方で、当時の私たちには、
「どこまでは現場で応対し、どこからは会社として毅然と対応するのか」
という共通の判断基準が十分に明確ではなく、
どの対応が適切なのか迷うこともありました。
その後、
会社として機内迷惑行為に対する考え方や判断基準、対応手順が明確に示されたことで、
「これは我慢することではない」
「この段階で報告し、組織として対応してよい」
と判断しやすくなりました。
個人の経験や考え方に委ねるのではなく、会社として判断基準を示すこと。
それが、働く人の迷いを減らし、安心して行動できることにつながるのだと、
私自身が実感した経験です。
そして何より、
「従業員を大切にしてくれる会社なのだ」という会社への信頼や、
ANAで働くことへの誇りや愛着もより深まりました。
会社が従業員を守る姿勢を明確に示すことは、
働く人の安心だけでなく、会社への信頼や誇りにもつながるのです。
安心して働けるからこそ、目の前のお客様にも心を向け、
正当なご意見には落ち着いて誠実に応対することができます。
お客様を大切にすること。
従業員を大切にすること。
そして、企業が持続的に成長すること。
この三つをつなぐ視点も、これからのホスピタリティマネジメントには必要なのではないでしょうか。
カスタマーハラスメント対策を現場任せにしないために
2026年10月の義務化に向けて、自社の体制を一度確認してみてはいかがでしょうか。
・正当なクレームとカスタマーハラスメントの判断基準があるか
・困ったときの報告先と、上司が引き継ぐ基準が明確か
・一人で抱え込ませず、複数名で対応できるか
・言動や要求、対応時間などを記録できるか
・悪質な場合の対応方針が決まっているか
・対応後、被害を受けた従業員を支える仕組みがあるか
大切なのは、誰がその場にいても、一定の基準で組織につなぎ、従業員の安全を確保できる状態をつくることです。
カスタマーハラスメント対策は「知る」から「できる」へ
ホスピタリティ&マナー・ラボでは、
2026年10月の義務化に向け、
一般従業員向けの「カスタマーハラスメント対策&接遇・クレーム応対研修」と、
管理職・リーダー向けの「カスタマーハラスメント対策・組織対応力向上研修」
をご用意しています。
カスハラの基礎知識だけではなく、
お客様心理、
不満を深刻化させない接遇、
通常クレームへの初期応対、
カスハラへの切替判断、
上司への報告、
安全確保、
記録、
対応終了、
事後フォロー
まで、ケーススタディやロールプレイを交えながら実践的に学びます。
一般従業員が「いつ、誰につなぐのか」を理解し、
管理職が「何を基準に判断し、どう従業員を守るのか」を共有する。
お客様に誠実に向き合うことと、働く人を守ること。
その両方を実現できる組織づくりを、今から進めていきませんか。
本コラムでは、
2026年10月のカスタマーハラスメント対策義務化に向けて、
全6回のシリーズで、企業と現場に求められる考え方や具体的な対応についてお伝えしていきます。
シリーズ第2回では、 「正当なクレームとカスタマーハラスメントをどう線引きするか」について、 具体例を交えながら考えていきます。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
http://www.hospitality-m-l.com/


