ホスピタリティマネジメントとは? ―「よろこんでもらうよろこび」が人と組織を強くする―
【ホスピタリティマネジメントを考える・第2回】
人が自ら考え、動く組織とは?
―マズローの欲求階層説から考えるホスピタリティマネジメント―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
前回のコラムでは、「ホスピタリティマネジメントとは何か」
(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5234294)についてお伝えしました。
ホスピタリティとは、
「相手の心をプラスにするために、自ら考え、自発的に働きかける姿勢や行動」
そして、その根底にあるのが「よろこんでもらうよろこび」というホスピタリティマインドです。
これを一人ひとりの感性や資質だけに任せるのではなく、組織全体で育み、実践できる環境をつくる。
それが、私の考えるホスピタリティマネジメントです。
では、社員や職員に「自ら考え、行動してほしい」と願うとき、
組織やリーダーには何が求められるのでしょうか。
今回は、心理学者アブラハム・マズローの「欲求階層説」から、
働く人の心と組織づくりについて考えます。
マズローの欲求階層説から「働く人の心」を考える
マズローの欲求階層説は、人間の欲求を階層的に捉えた考え方で、一般的に次の5段階として知られています。
第5段階 自己実現の欲求
第4段階 承認の欲求
第3段階 社会的欲求
第2段階 安全の欲求
第1段階 生理的欲求 
食事や睡眠など、生きるための「生理的欲求」。
安心して過ごしたいという「安全の欲求」。
仲間とつながり、所属したいという「社会的欲求」。
自分の存在や行動を認めてもらいたいという「承認の欲求」。
そして、自分の能力や可能性を生かし成長したいという「自己実現の欲求」です。
これを職場に置き換えると、「もっと主体的に」「もっとやる気を」と求める前に、
組織が整えるべき土台が見えてきます。
「食事をゆっくり取ってね」に込めていたこと
以前のコラムでも、ANA客室乗務員時代の経験についてお話ししました。
私がチーフパーサー・パーサーとして国際線の長距離便に乗務していた頃、
同乗クルーの客室乗務員に、「食事はゆっくり取ってね」と声をかけることを大切にしていました。
忙しい機内で、少しの限られた時間しかありませんが、
食事をする時はきちんと取ってほしい。
深夜の長距離便で、一人ひとりの休息時間は限定的ですが、
休めるときにはしっかりと身体を休めてほしい。
今振り返ると、
これはマズローの土台にある生理的欲求を満たすことにもつながっていたのだと感じます。
空腹を満たす。休息を取る。
当たり前のことですが、その同乗クルーの当たり前を大切にすることは、
「あなたを大切にしています」というリーダーからのメッセージにつながります。
お客様に良いサービスを提供するためにも、まず働く人が心身ともに良い状態であること。
これもホスピタリティマネジメントの土台です。
「大丈夫?」は、相手に関心を寄せているというメッセージ
もう一つ、私が大切にしていたのが、「大丈夫?」という声かけです。
この「大丈夫?」という言葉は、
ANAの組織文化を紹介した書籍『ANAの口ぐせ』でも取り上げられています。
頼んだ仕事が、一人の負担になっていないか。
「大丈夫? ヘルプを出そうか」
指示を出して終わりではなく、その後も気にかける。
「任せたけれど、あなたのことをちゃんと見ていますよ」というメッセージでもあります。
また、仕事だけではなく、相手自身のちょっとした変化に気づくことも大切にしていました。
「少し顔色が悪いようだけれど、大丈夫?」
「なんだか声がいつもと違うね。風邪をひいた? 大丈夫?」
時には、「髪型を変えたね」と小さな変化に気づき伝えることもあります。
日頃から相手に関心を寄せて見ているからこそ、「いつも」との違いに気づくことができます。
以前のコラムで、「愛の反対は、無関心である」という考え方をご紹介しました。
(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232177)
職場でも同じではないでしょうか。
相手の存在に関心を寄せる。変化に気づく。そして、言葉にして伝える。
それは、
「私はあなたに関心を寄せています」
「あなたのことを大切に思っています」
というメッセージになります。
こうした日々の小さな関わりも、
働く人の安心感や「自分はここにいていい」という感覚につながっていくのだと思います。
「ここが自分の居場所だ」と思える組織へ
人は安心が得られると、人とのつながりや所属を求めます。
職場でいえば、
「私はこの組織の一員である」
「ここには自分の居場所がある」
と思えることです。
挨拶をする。
名前を呼ぶ。
話を聴く。
意見をすぐに否定しない。
そして、一人の人間としてその存在を尊重する。
こうした日々の関わりが、
「私は受け入れられている」という安心感を生み、
組織への信頼や愛着にもつながっていくのではないでしょうか。
認めずに「もっとやる気を出して」は難しい
さらに大切なのが「承認の欲求」です。
「ありがとう」
「助かりました」
「よく気づきましたね」
「あなたにお願いしてよかった」
人は、存在や努力、行動を認めてもらうことで、
「自分は必要とされている」
「自分の仕事には意味がある」
と感じることができます。
ここを飛ばして、
「もっとやる気を出してください」
「主体性を持ってください」
「会社にもっと貢献してください」
と求めても、人の心は簡単には動きません。
自分が尊重され、認められ、受け入れられていると実感してこそ、
「もっと役に立ちたい」「この組織に貢献したい」という気持ちが生まれやすくなる。
それが仕事への意欲やモチベーション、自ら考えて行動する力へとつながっていきます。
心理的安全性の高い職場を、リーダーはつくれる
「こんなことを言ったら怒られるのではないか」
「間違えたら責められるのではないか」
そのような不安のある職場では、
人は自分を守ることを優先し、意見やアイデアを出しにくくなります。
一方で、
「分からない」と言える。
「助けてください」と言える。
自分の意見を伝えられる。
失敗についても一緒に考えられる。
こうした環境は、心理的安全性の高い職場づくりにもつながります。
心理的安全性とは、
単に「優しい職場」「何を言っても許される職場」ということではありません。
お互いを尊重しながら、必要な意見や疑問を安心して伝えられる環境です。
部下を受け入れる。
話を聴く。
存在を認める。
努力や良いところに気づき、言葉にして伝える。
リーダーの日々の関わり方によって、職場の安心感を高めることはできます。
上司から認めてもらえないときは「自分で自分を認める」
とはいえ、すべての職場で十分な承認を得られるとは限りません。
そのようなときには、自分で自分を認めることも大切です。
「今日はここまでできた」
「あの場面では、相手を思って行動できた」
「昨日より少し成長した」
「今日も一日、よく頑張った」
他者からの承認だけに自分の価値を委ねず、
自分自身の努力や成長に気づき、自分で自分を認める。
それも自分の心をプラスにし、次の一歩を踏み出す力になります。
「自ら考え、動く人」は、命令だけでは育たない
安心できる。
自分の居場所がある。
存在や努力を認めてもらえる。
そうした土台があってこそ、
「もっと成長したい」
「自分の力を生かしたい」
「この組織のために何ができるだろう」
という自己実現への意欲
も生まれやすくなります。
ホスピタリティも、
「もっと気を配りなさい」
「主体的に行動しなさい」
という指示だけで生まれるものではありません。
自分が大切にされているから、相手も大切にしたい。
自分が認められているから、誰かの役に立ちたい。
その心が、「この方のために何ができるだろう」と自ら考え、
行動するホスピタリティにつながっていくのだと思います。
人を大切にすることから始めるホスピタリティマネジメント
ホスピタリティ&マナー・ラボでは、
接遇マナーだけではなく、コミュニケーション研修、管理職・リーダー研修などを通して、
人を大切にし、人が自ら考え行動できる組織づくり
を支援しています。
「社員にもっと主体性を持ってほしい」
「職場のコミュニケーションを良くしたい」
「管理職の部下との関わり方を見直したい」
こうした課題を考えるとき、社員だけに「変わってほしい」と求めるのではなく、
人が安心し、受け入れられ、認められ、成長できる環境になっているか
という視点から、組織を見つめ直すことも大切ではないでしょうか。
ホスピタリティマネジメントとは、単に「感じの良い人」を育てることではありません。
人を大切にすることで、人が育つ。
人が育つことで、組織が育つ。
そして、その組織から、周囲へのホスピタリティが生まれていく。
私は、そのような循環をつくることも、ホスピタリティマネジメントの大切な役割だと考えています。
次回、第3回では、ダニエル・キム博士の「成功の循環」をもとに、
「関係の質」が思考・行動・結果をどのように変えていくのか、
人と人との関係から組織づくりについて考えてまいります。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。よろしければぜひご覧ください。
https://www.hospitality-m-l.com/


