人が自ら考え、動く組織とは? ―マズローの欲求階層説から考えるホスピタリティマネジメント―
【ホスピタリティマネジメントを考える 連続コラム|第3回】
組織は「関係の質」から変わる
―成功の循環から考えるホスピタリティマネジメント―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
これまで2回にわたり、「ホスピタリティマネジメント」について考えてきました。
第1回では、一人ひとりのホスピタリティマインドを個人の感性や資質だけに任せるのではなく、
組織全体で育み、日々の行動から組織文化へつなげていくこと。
https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5234294
第2回では、マズローの欲求階層説を手がかりに、
人が自ら考え、行動するためには、「安心できる」「受け入れられている」「認められている」と感じられる土台が大切であることをお伝えしました。
https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5235072
では、そのような一人ひとりが集まり、互いの力を生かし合うためには、何が必要なのでしょうか。
今回は、「関係の質」という視点から、
人と人との関係が思考や行動、そして組織の成果をどのように変えていくのかを考えてみたいと思います。
優秀な人を集めるだけでは、強い組織にはならない
高い知識や技術を持った人が集まれば、必ず良い組織になるのでしょうか。
困っていても周囲に助けを求められない。
分からないことを質問できない。
必要な情報が共有されない。
違う意見を言いにくい。
そのような職場では、一人ひとりが高い能力を持っていても、
その力を組織として十分に生かすことは難しくなります。
反対に、
分からないことを聞ける。
困ったときには助けを求められる。
互いの強みを認め、必要なときには支え合える。
そのような関係があれば、
一人ではできないことも、チームとして成し遂げられることがあります。
「どのような人がいるか」だけではなく、「その人たちがどのようにつながっているか」も、 組織の力を左右するのです。
人と人との「関係」も、組織の大切な資本
近年、人材を組織の価値を生み出す「人的資本」と捉える考え方が重視されています。
では、その人と人との「間」にあるものはどうでしょうか。
安心して相談できる。
困ったときには助け合える。
感謝を伝え合える。
異なる意見にも耳を傾けられる。
互いの力を信じ、頼ることができる。
こうした信頼やつながりも、組織にとって大切な財産ではないでしょうか。
一人ひとりの能力を育てるだけではなく、その力をつなぎ、生かし合える関係を育てること。
私は、それも人を大切にする組織づくりには欠かせない視点だと考えています。
「関係の質」から始まる成功の循環
組織づくりを考えるうえで参考になる考え方の一つに、ダニエル・キム氏の「成功の循環モデル」があります。
このモデルでは、
【太字】
「関係の質」
↓
「思考の質」
↓
「行動の質」
↓
「結果の質」
↓
さらに「関係の質」へ
という良い循環が示されています。
興味深いのは、最初に「結果」ではなく、「関係の質」が置かれていることです。
組織では、
「もっと成果を上げよう」
「もっと主体的に動こう」
「クレームを減らそう」
「患者様満足度を高めよう」
と、結果や行動から変えようとしがちです。
もちろん、目標を持つことは大切です。
その一方で、
思うように人が動かない、組織が変わらないと感じるときには、
「その行動を生み出す、人と人との関係はどうだろう」と考えてみることも必要ではないでしょうか。
「皆さんの力が必要です」と言った管理職
私がANAの客室乗務員として、まだ新人だった頃のことです。
ある日のフライトでご一緒した管理職の客室乗務員は、
普段はデスクワークが中心で、約1か月ぶりのフライトでした。
フライト前のプリブリーフィングで、その方はクルー全員にこのように伝えられました。
「久しぶりのフライトで、慣れていないこともあります。私が何か見落としていることや、抜けていることがあれば、どんどん言ってください。皆さんの力が必要です。今日はどうぞよろしくお願いします」
新人だった私は、とても驚きました。
管理職という立場の方が、自分のできないことや不安なことを率直に伝え、
部下である私たちに「助けてください」「皆さんの力が必要です」と言われたからです。
ところが、周囲の先輩方はそれをとてもにこやかに、
そしてどこか誇らしげに「任せてください」と受け止めていました。
フライトが始まると、
皆がその方を支えようと、自分で考え、声を掛け合い、自然に動いていたことを覚えています。
もしその方が、「私は大丈夫です」「分かっています」という姿勢でいらしたら、どうだったでしょうか。
周囲のクルーは何かに気づいても、
「これを言ってもよいのだろうか」
「管理職の方に指摘するのは失礼ではないだろうか」
「きっと分かっていらっしゃるだろう」
と、言葉を飲み込んでいたかもしれません。
けれども、実際はまったく逆でした。
その日のクルーはにこやかで、どこか嬉しそうに、楽しそうに仕事をしていました。
「この方を支えよう」
「自分にできることをしよう」
そのような思いが、言葉にしなくてもチーム全体に広がっていたように、今では感じます。
人に頼ることは、弱さではない。
「あなたの力が必要です」と伝えることは、相手を信頼し、その力を認めることでもある。
そして私は今、もう一つ思うことがあります。
強いリーダーとは、弱みを見せない人ではなく、必要なときに自分の弱みや不完全さを認め、「皆さんの力を貸してください」と言える人でもあるのではないでしょうか。
自分一人ですべてを背負うのではなく、仲間を信頼し、その力を借りる。
リーダーが自ら心を開くことで、周囲も安心して声を上げることができます。
新人だった私は、その姿から大切なことを教えていただきました。
年月を経て、今度は私が「みんなが頼りです」
その経験から5、6年ほどが経ち、
今度は私自身がエコノミークラスのパーサーとして乗務する立場になりました。
関西国際空港から香港へ向かい、その日のうちに往復する、
体力的にも負担の大きいフライトに乗務した日のことです。
その日は、少し喉の調子が悪く、いつものようには声が出しにくい状態でした。
そこでフライト前、担当するエコノミークラスのクルーに、そのことを率直に伝えました。
「今日は少し喉の調子が悪く、いつものように声が出しにくいので、ぜひ、みんなにもそれぞれ判断して動いてもらえたらと思っています。みんなが頼りです。今日のフライト、どうぞよろしくお願いします」
すると、一人ひとりが本当によく周囲を見て、自分で考え、声を掛け合いながら動いてくれました。
互いを思いやり、誰かが困っていれば自然に補い合う。
体力的には大変なフライトでしたが、サービスはとてもスムーズに進み、皆がにこやかに働いていました。
私自身も、互いに声を掛け合い、支え合うクルーの姿をとても心強く感じ、
充実したフライトだったことを今でも鮮明に覚えています。
そして、その日のチーフパーサーから、
「みんな、いつも一緒に飛んでいる班のメンバーなの?」
と尋ねられました。
実際には、時折一緒に乗務することはあっても、普段からいつも同じメンバーで飛んでいるクルーではありませんでした。
それほど、一つのチームとして見えたのだと思います。
私はその言葉がとてもうれしく、エコノミークラスのクルーにも、
「チーフパーサーから、『みんなは班のメンバーなの?』って聞かれたよ」
と伝えました。
そして、
「今日は本当にありがとう。みんなのおかげです」
と、改めて感謝の気持ちを伝えました。
すると、クルーも嬉しそうに笑い、その表情には、どこか誇らしさも感じられました。
大変なフライトを一緒に乗り越えた達成感と、互いに支え合えた喜びを、皆で分かち合えた瞬間だったように思います。
信頼されると、人は自ら考え始める
今振り返ると、この2つの経験には共通するものがあります。
「あなたに任せます」
「あなたの力が必要です」
「あなたを頼りにしています」
そう伝えられると、人は単に「指示されたことをする人」ではなく、
「自分もこのチームをつくり、成果を生み出す一人なのだ」と、改めて実感するのではないでしょうか。
すると、
「自分には何ができるだろう」
「今、どこを手伝えばよいだろう」
「もっとスムーズにするにはどうしたらよいだろう」
と考え始めます。
そして、その思考が、自ら声を掛ける、助け合う、先を読んで動くといった行動につながります。
信頼される。
だから考える。
考えるから動く。
互いに動くから、良い結果が生まれる。
そして良い結果が、さらに互いへの信頼を深めていく。
まさに「関係の質」から始まる良い循環です。
今振り返ると、新人時代に出会った管理職の姿も、
その後、私がクルーと経験したフライトも、
互いに声を掛け、支え合うことを大切にしていたANAの文化や企業風土の中で生まれたものだったように感じます。
では、「関係の質が良い」とは、ただ仲が良く、何でも受け入れ合える関係なのでしょうか。
私は、そうではないと考えています。
本当に相手を大切にするからこそ、時には厳しいことも伝える。
次回、第4回では、ANAで受け継がれていた安全への厳しい姿勢と人材育成の経験から、
「関係の質が良い」とはどのような関係なのか、さらに考えてみたいと思います。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
https://www.hospitality-m-l.com/


