80歳の御婦人の不安

小黒健二

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テーマ:足と靴

「今現在、特に足が痛いことは無いのですが、年々外反母趾が酷くなっているような気がして、歩けなくなったら困ると思っているんです・・・。」と御婦人。
私からすると背骨が曲がって前屈みの姿勢になっている事の方が気になってしまいますが、ご本人は外反母趾の方が気になっているようです。
履いて来た靴は、恐らく1.000円前後で店頭ワゴンで売られているような作業履きタイプの面マジックのスニーカーでした。

見た目はそこそこ厚そうな靴底ですが、フニフニとした腰の無いビーチサンダルの底のようでした。
「大変言い難いのですが、このような安い価格の靴を履いて過ごす事が、膝や腰を不安定にして、痛みを引き起こす原因の一つになるんです。失礼ですが、奥様は背骨が曲がっていますから、腰痛や背中の痛みや肩こりを感じているのではありませんか?」と私。
「それはこの歳だから仕方が無い事だと思いますけど・・・。」と御婦人。
「そうですか・・・。でも、外反母趾もそうですが、全体重を受け止める足が、このような不安定な靴を履いて歩くことで、足首や膝に負担を掛け、腰に負担を掛け、そして、足の親指に負担を掛け続ける結果になっているのですよ・・・。」と私。
「へえー、それじゃ、この靴は足に良くないのですか?」と御婦人。
「奥様のような状態の方には、骨格や関節に負担を強いる結果になる靴の一つですね・・・。」と私。

それから小一時間、色々なお話を伺い、疑問や不満をたくさんお聞きしました。
医療に対する不満、介護に対する不満、そして高齢者としての将来に対する不安・・・。
「一つアドバイスする事があります。それは、ご自身の健康や将来に対する不満や不安の原因を探り出す努力を惜しまないという事です。」と私。
「どういう事ですか?」と御婦人。
「奥様が漠然と不安に思っている外反母趾や歳のせいだと思っている膝や腰の痛みの原因の一つが今履いている靴にあるという事です。」と私。
「そういう事ですか・・・。」と御婦人。
「ちょっと実際に証明してみましょう・・・。」と私。

「足のカウンセリング」の結果に基づくサポートを簡単に組み込んだテストシューズを仕立てました。

早速、履いて歩いて頂きました。
「わあ、思っていたより軽いんですね・・・。これで22cmなんですか? 全然きつく無いし、まだ指先に余裕があるわ・・・。」と御婦人。
御婦人の履いていたスニーカーは23cmと表示されています。確かにその靴と比べたら1cmも小さいサイズの靴に不安を感じるかもしれません。
けれども、御婦人の足の実寸は21.5cmなのです。
「確かに底が厚くて足がしっかりとついている感じがするわ。こんなに違うものなのね・・・。」と御婦人。
「軽くて柔らかくて、脱いだり履いたりが簡単に出来る靴がお年寄りに優しい靴だと思われているようですが、とんでもない間違いだと思います。」と私。
「でも、皆そう言っているわよ・・・。」と御婦人。
「皆が言っているから正しいと思うのは危険なんですよ・・・。根拠を探る努力を放棄することになりますからねえ・・・。」と私。
「本当にそうね・・・。この歳になってからそんなことに気づくなんて、恥ずかしいわね・・・。」と御婦人。
「正しい情報を探り出す努力をしないと、いつの間にか丸め込まれちゃう世の中なんですね・・・。」と私。

こうしたやり取りの結果、この御婦人は健康靴をお作りになりました。
「なんだか胸につっかえてた物が取れたような気がするわ。どうもありがとう・・・。」と御婦人。
「いやいや、こちらこそ生意気な事ばかり言ってすみませんでした・・・。」と応じる私。
 
「足と靴の相談室」ロビンフット長津田 http://www.robinfoot.co.jp/

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小黒健二(シューフィッター)

有限会社ロビンフット

足のトラブルの原因は様々ですが、病気や事故が原因でなければ、多くの場合が生活習慣による足の筋力の低下によるものです。「足のカウンセリング」は、生活習慣の見直しと運動による自己管理もアドバイスします。

小黒健二プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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