足と靴の川柳
片足を引き摺りながら入ってきた初老の男性。
つっかけサンダルを履いています。
「ちょっとお話を聞きたいんだけど・・・」と男性。
「はい、何でしょうか?」と私。
「実は左足の親指の爪を取っちゃったんだけど・・・。履ける靴がないのよ・・・。」と男性。
良く見ると確かに左足のつま先が腫れています。
きっと親指に包帯を巻いているのでしょう。その上から靴下を履いているようです。
でも、もっと気になったのは、左足首が捩れて回内(足が体の内側に倒れ込む現象)していることでした。
つっかけサンダルの甲周りベルトが内側にひっぱられて、今にも土踏まずが地面に接しそうなのが良く分かります。
「あのー、左足が親指の側に倒れ込んでいますよ。偏平足になっているようですね・・・。」と私。
「とにかく履ける靴がないのよ・・・。つま先の広い柔らかな靴ってないかね・・・。」と男性。
「うーん、伸び縮みするような素材で出来た靴ならば、介護シューズを扱っているような所で購入できると思いますが・・・」と私。
「お宅はそういう靴を置いてないの?」と男性。
「扱っていません・・・。ただ柔らかいだけの靴だと、その場しのぎの対処にしかなりませんので・・・。」と私。
「じゃあ、お宅ではどういう靴がお勧めなのよ?」と男性。
「ちょっと足を拝見しただけでも、左足が変形して親指に体重が掛けられているのが分かりますので、親指の脇に爪が食い込んで化膿したんじゃありませんか?」と私。
「へえー、良く分かったね・・・。それで爪を取っちゃったんだけど・・・。」と男性。
「その原因は左足の変形にあるんですよ。足首が捩れて足が親指の側に倒れ込んで親指の脇に負荷がかかり続けた結果、爪が指の皮膚に食い込んで、そこからばい菌が入って化膿したんだと思います。」と説明する私。
「それは分かったから、お宅が勧める靴はどれ・・・?。」と男性。
「では健康靴で簡単に仮のサポートを作りますから、試しに履いてみますか?」と私。
「やってみてくれる?」と男性。
男性の足の実寸は24cm足らずでしたので、包帯の厚みを考慮して24.5cmの健康靴に左足の縦アーチサポートと足首を支える回内サポートを施したテストシューズを組み立てました。
履いて歩いてもらいました。
「いかがですか? ちょっと左足の土踏まずを強く押されるような感じがすると思いますが、痛くはないと思います。違和感はあるでしょうけど・・・。」と私。
「ああ、確かに足の内側を持ち上げられたような感じがするね。」と男性。
暫く店内を歩いてもらいました。
「どうです? 少し違和感が無くなってきましたか?」とお尋ねすると、
「うん、ちょっと慣れてきたね・・・。」と男性。
「親指が腫れて痛いからと言って柔らかい靴を履いても問題の解決にはならないんですよ。むしろ足の変形をサポートするしっかりした靴を履いて、親指に掛かり過ぎる負荷を和らげなければ、根本的な解決にはならないんです。」と説明する私。
「うん、お宅のやり方は分かった・・・。じゃあ、足が治ったらまた来るわ・・・。」
そう言って男性は足を引き摺りながら帰っていかれました。
「足と靴の相談室」ロビンフット長津田 http://www.robinfoot.co.jp/