カーボカウントをご存じですか? ~インスリン注射に振り回されないために~
はじめに
糖尿病を持つ人の中には「血糖値さえ下げれば合併症は防げる」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それだけでは不十分な場合があります。
特に腎臓については、血糖管理とは独立した要因が腎臓病の発症に大きく関わっていることが、日本の大規模研究で明らかになりました。
この研究結果は、糖尿病に対する誤解を解き、「糖尿病になったのは自己管理が悪いから」という偏見を払拭することにもつながる重要な知見です。
糖尿病の腎臓病は血糖値だけでは説明できない
糖尿病関連腎臓病は、糖尿病を持つ人の20~40%に発症します。進行すると透析や腎移植が必要になり、生活の質が大きく低下してしまいます。
従来、腎臓病の予防には血糖管理が最も重要とされてきました。しかし実際には、血糖値が良好に管理されていても腎臓病を発症する人がいる一方で、血糖管理が不十分でも腎臓病にならない人もいます。
この違いは何から生まれるのでしょうか。
機械学習が明らかにした5つの糖尿病タイプ
スウェーデンの研究グループは、機械学習という手法を用いて、成人発症の糖尿病を5つのタイプに分類することに成功しました。
この分類は、以下の6つの指標に基づいています。
- GAD抗体の有無(自己免疫による糖尿病かどうかの指標)
- 診断時の年齢
- BMI(体格指数)
- HbA1c(過去1~2か月の平均血糖値)
- インスリン分泌能(膵臓がインスリンを作る能力)
- インスリン抵抗性(インスリンの効き具合)
この分類法により、合併症のリスクがタイプによって大きく異なることが報告されています。
日本人12,093人での検証結果
今回、日本全国74の医療機関から集められた糖尿病データベース(J-DREAMS)を用いて、この分類法が日本人にも適用できるか、そして腎臓病のリスク予測に有用かが検証されました。
対象となった12,093人は、以下の5つのタイプに分類されました。
1. 自己免疫性糖尿病(全体の6.1%)
いわゆる1型糖尿病が中心のグループです。若い年齢で発症し、GAD抗体が陽性です。膵臓のインスリンを作る細胞が自己免疫によって破壊されるため、インスリン治療が必要になります。実際に、このグループの79.0%がインスリン治療を受けていました。
2. 重度インスリン欠乏型糖尿病(全体の15.0%)
膵臓のインスリンを作る能力が著しく低下しているタイプです。1型糖尿病ではありませんが、インスリンがほとんど出ていない状態です。そのため、HbA1cが平均9.6%と最も高く、血糖管理が困難な特徴があります。早期からインスリン治療が必要になることが多いタイプです。
3. 重度インスリン抵抗性糖尿病(全体の15.8%)
インスリンは分泌されているものの、その効き目が極めて悪いタイプです。BMIが平均29.2kg/m²と最も高く、肥満が顕著でした。インスリンの効きが悪いため、膵臓は過剰にインスリンを分泌し続けます。この状態が腎臓に大きな負担をかけることが今回の研究で明らかになりました。
4. 軽度肥満関連糖尿病(全体の28.2%)
比較的若い年齢(平均40歳)で発症し、中等度の肥満を伴うタイプです。インスリン抵抗性はありますが、重度インスリン抵抗性糖尿病ほど深刻ではありません。食事療法や運動療法、内服薬で管理できることが多いタイプです。
5. 軽度加齢関連糖尿病(全体の34.9%)
最も高齢(平均61歳)で発症し、代謝異常が比較的軽度なタイプです。全体の約3分の1を占め、最も多いタイプでした。加齢に伴ってインスリン分泌能が徐々に低下することで発症します。比較的穏やかな経過をたどることが多いタイプです。
血糖値とは独立したインスリン抵抗性の影響
この研究で最も重要な発見は、重度インスリン抵抗性糖尿病で、腎臓病のリスクが突出して高かったことです。
腎機能がeGFR 45未満(慢性腎臓病ステージ3b)まで低下するリスクは、軽度加齢関連糖尿病と比較して重度インスリン抵抗性糖尿病で1.53倍でした。さらに進行したステージ4(eGFR 30未満)では2.13倍のリスクでした。
重要なのは、この結果が年齢、性別、糖尿病の期間、BMI、HbA1c、喫煙、高血圧、脂質異常症などの因子を調整した後でも変わらなかったことです。
つまり、インスリン抵抗性は、血糖値とは独立して腎臓病のリスクを高めるのです。
なぜインスリン抵抗性は腎臓に悪いのか
インスリン抵抗性があると、血液中のインスリン濃度が高くなります。この高インスリン血症は、血糖値の上昇や肥満とは独立して、以下のような悪影響を及ぼすことが知られています。
- 腎臓の糸球体に過剰な負担をかける
- 腎臓の線維化(硬くなること)を促進する
- 炎症反応を引き起こす
- 血管内皮機能を障害する
これらの変化が、腎機能の低下につながると考えられています。
糖尿病のタイプによって異なる腎臓の守り方
さらに興味深いことに、腎臓病の発症に関連する因子が、糖尿病のタイプによって異なることも明らかになりました。
重度インスリン欠乏型糖尿病
このタイプでは、HbA1cが腎機能低下と関連していました。インスリン分泌能が低下しているため、血糖管理を改善することが腎臓を守るために特に重要です。
重度インスリン抵抗性糖尿病
このタイプでは、喫煙が腎機能低下の独立したリスク因子でした。また、脂質異常症も腎機能低下と関連していました。このタイプでは、禁煙と脂質管理が特に重要です。
軽度肥満関連糖尿病と軽度加齢関連糖尿病
これらのタイプでは、高血圧が腎機能低下と強く関連していました。血圧管理が腎臓を守る鍵となります。
タンパク尿の発症についても同様に、タイプによって関連因子が異なりました。軽度加齢関連糖尿病では年齢、性別、BMI、HbA1cが関連していましたが、重度インスリン抵抗性糖尿病ではHbA1cと高血圧が関連因子でした。
糖尿病のスティグマを払拭するために
この研究結果は、糖尿病に対する社会の偏見を解く上でも重要な意味を持ちます。
糖尿病、特に2型糖尿病は「生活習慣病」という名称から、「本人の自己管理が悪いから発症した病気」という誤解を受けやすい疾患です。
しかし、この研究が示すように、糖尿病の病態は一様ではありません。重度インスリン抵抗性糖尿病の人は、たとえ血糖管理が良好でも腎臓病になりやすいのです。
これは、生活習慣だけでは説明できない、体質的な要因が大きく関わっていることを意味します。
インスリン抵抗性は、主に内臓脂肪の蓄積や運動不足で悪化しますが、その根底には遺伝的な要因があることが知られています。日本人を含むアジア人は、欧米人と比較してもともとインスリン分泌能が低く、インスリン抵抗性にも民族差があることが報告されています。
つまり、糖尿病の発症や合併症の進行は、「意志が弱い」「自己管理ができない」といった個人の責任だけの問題ではないのです。
今回の研究結果を踏まえた腎臓を守るアプローチ
この研究結果は、糖尿病のタイプによって腎臓病のリスクや関連因子が異なることを示しています。ただし、これはあくまで集団としての傾向であり、個々の患者さんへの対応は主治医との相談が必要です。
今回の研究から示唆される、腎臓を守るためのアプローチをご紹介します。
自分の糖尿病のタイプを知る
まず、主治医と相談して、自分がどのタイプに近いかを知ることが第一歩です。BMI、HbA1c、インスリン使用の有無、GAD抗体の結果などの情報から、ある程度推測することができます。
インスリン抵抗性を改善する
特に重度インスリン抵抗性糖尿病、軽度肥満関連糖尿病に近い人は、インスリン抵抗性の改善が重要である可能性があります。
- 内臓脂肪を減らす(急激な減量は不要、5%程度の減量でも効果があります)
- 有酸素運動と筋力トレーニングの両方を取り入れる
- 十分な睡眠をとる
- ストレスを管理する
タイプに応じた重点的な管理
今回の研究結果に基づくと、以下のような対策が考えられます。
重度インスリン抵抗性糖尿病に近い人は、禁煙と脂質管理を徹底してください。
軽度肥満関連糖尿病、軽度加齢関連糖尿病に近い人は、血圧管理を特に重視してください。家庭での血圧測定を習慣化することをお勧めします。
重度インスリン欠乏型糖尿病に近い人は、血糖管理が腎臓を守る鍵となります。インスリン治療の最適化について主治医とよく相談してください。
定期的な腎機能チェック
eGFRとタンパク尿の検査を定期的に受けることで、早期発見・早期介入が可能になります。少なくとも年に1~2回は検査を受けましょう。
研究の限界と今後の展望
この研究にはいくつかの限界があります。
対象者が主に専門医療機関で治療を受けている人であり、軽症の人が含まれていない可能性があります。また、日本人のみを対象としているため、他の人種への適用には注意が必要です。
さらに、約5年間の追跡調査で、糖尿病のタイプが変化する人も多くいました。特に重度インスリン抵抗性糖尿病の約70%が他のタイプに移行していました。これは、適切な治療や生活習慣の改善によってタイプが変わる可能性を示唆しており、希望を持てる結果とも言えます。
今後、このような個別化医療のアプローチが実臨床で活用されることで、より効果的に腎臓病を予防できることが期待されます。
さいごに
糖尿病を持つ人の腎臓を守るためには、血糖管理だけでは不十分です。
インスリン抵抗性という、血糖値とは独立した要因が腎臓病のリスクに大きく影響します。そして、そのリスクや対策は、糖尿病のタイプによって異なります。
この事実は、糖尿病が単に「自己管理の問題」ではなく、体質的な要因が大きく関わる疾患であることを示しています。
私たち医療者は、今回の研究結果のような科学的な知見を患者さんと共有し、一人ひとりの体質に応じた最適な治療を一緒に考えていきたいと思います。そして、糖尿病を持つ人が、不必要な罪悪感や恥ずかしさを感じることなく、前向きに治療に取り組める環境を作っていきたいと考えています。
引用文献
Watanabe-Shimoji K, Tanabe H, Ohsugi M, et al. Diverse combination of factors associated with the development of diabetic kidney disease among data-driven diabetes subtypes: analysis of the J-DREAMS registry. Diabetologia. 2025. https://doi.org/10.1007/s00125-025-06594-1



