2型糖尿病≠生活習慣の乱れ ~2型糖尿病をインスリン分泌能とインスリン抵抗性から考える~
はじめに
糖尿病の原因は1型糖尿病や2型糖尿病だけではありません。特定の遺伝子の異常によって発症する単一遺伝子糖尿病という病気があります。
日本糖尿病学会が実施した全国調査により、これまで考えられていたより多くの方が単一遺伝子糖尿病を持っている可能性が明らかになりました。正しい診断ができれば、より適切な治療につながる可能性があります。
糖尿病の分類を知る
糖尿病は、その原因によって大きく4つに分けられます。
1,1型糖尿病
免疫の異常により、インスリンを作る膵臓の細胞が壊されてしまう病気です。インスリンがほとんど出なくなるため、インスリン注射による治療が必要になります。
2,2型糖尿病
インスリンを出す力が弱い体質の人が発症します。日本の糖尿病を持つ人の約90%以上を占めます。
3,その他の特定の機序・疾患によるもの
遺伝子の異常や、他の病気が原因で発症する糖尿病です。単一遺伝子糖尿病は、このグループに含まれます。
4,妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見される、糖尿病には至っていない軽度の糖代謝異常です。
単一遺伝子糖尿病とは
単一遺伝子糖尿病は、糖代謝に関わる特定の1つの遺伝子の異常によって発症します。若い年齢で糖尿病を発症することが特徴です。
代表的なものにMODY(若年発症成人型糖尿病)があります。
MODYの特徴
- 25歳未満の若年で発症することが多い
- 肥満を伴わない
- 家族に糖尿病を持つ人がいることが多い
- 1型糖尿病で見られる自己抗体が陰性
- 親から子へ50%の確率で受け継がれる
MODYの原因となる遺伝子は、これまでに約14種類が判明しています。日本人では、HNF1A遺伝子(MODY3)、GCK遺伝子(MODY2)、HNF4A遺伝子(MODY1)の異常が多く見られます。
これまでの課題
単一遺伝子糖尿病は、糖尿病全体の1~3%程度を占めると推定されていました。しかし、この数字は主に欧米のデータに基づくものでした。
日本における実際の患者数は明らかになっていませんでした。
多くの場合、1型糖尿病や2型糖尿病として診断され、治療されていると考えられていました。実際に、1型糖尿病として長年治療されていた方の約8%が、MODYの遺伝子を持っていたという報告もあります。
日本糖尿病学会による全国調査
2020年、日本糖尿病学会は「単一遺伝子異常による糖尿病の成因、診断、治療に関する調査研究委員会」を発足させました。
2019年から2024年にかけて、全国規模の遺伝学的解析研究が実施されました。
調査の対象
以下の条件を満たす232名の方が研究に参加しました。
- 35歳未満で糖尿病を発症
- 肥満ではない(BMI 30 kg/m²未満)
- 膵島自己抗体が陰性
家族歴は必須条件ではありませんでした。これは、家族歴がなくても単一遺伝子糖尿病の可能性があるためです。
検査の内容
次世代シークエンサーという最新の技術を用いて、11種類の遺伝子を解析しました。検査対象となった遺伝子は、GCK、HNF1A、HNF4A、HNF1B、ABCC8、KCNJ11、INS、NEUROD1、PDX1、INSR、WFS1です。
調査で明らかになったこと
病的な遺伝子変異の検出率
232名のうち67名(28.9%)に、病気の原因となる遺伝子変異が見つかりました。
これは、従来の推定(1~3%)を大きく上回る結果です。単一遺伝子糖尿病を持つ人は、これまで考えられていたよりも多く存在する可能性が示されました。
検出された遺伝子変異の内訳
- GCK遺伝子:25名(37.3%)
- HNF1A遺伝子:22名(32.8%)
- HNF1B遺伝子:7名(10.4%)
- HNF4A遺伝子:6名(9.0%)
- ABCC8遺伝子:4名(6.0%)
- その他の遺伝子:3名(4.5%)
日本人では、GCK遺伝子とHNF1A遺伝子の異常が多いことが確認されました。
従来の診断基準の課題
これまで、MODYが疑われる基準として「25歳以下の発症」と「3世代にわたる糖尿病の家族歴」が用いられていました。
しかし、遺伝子変異が見つかった67名のうち、この基準を満たしていたのは32名(47.8%)のみでした。
つまり、従来の基準では、約半数の方が見逃される可能性があったのです。
臨床的な特徴
遺伝子変異が見つかった方は、変異が見つからなかった方と比べて、以下の特徴がありました。
- BMIが低い(20.4 kg/m² 対 22.0 kg/m²)
- HbA1cが低い(6.9% 対 7.4%)
- インスリン使用率が低い(34.3% 対 63.0%)
- 症状を伴う高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスの発症が少ない(4.5% 対 21.8%)
正しい診断がもたらす治療の変化
遺伝子変異が見つかった67名のうち、64名(95.5%)は、診断結果が治療方針に影響を与える可能性のある遺伝子に変異を持っていました。
GCK遺伝子異常(MODY2)の場合
妊娠時以外は治療が不要なことが多く、合併症のリスクも低いです。無治療または食事・運動療法で経過を見ることができます。
HNF1A遺伝子異常(MODY3)の場合
スルホニル尿素薬という内服薬が非常に有効です。インスリン注射から内服薬への切り替えが可能になる場合があります。少量の薬で血糖値をコントロールできることが特徴です。
HNF4A遺伝子異常(MODY1)の場合
MODY3と同様に、スルホニル尿素薬が有効です。
HNF1B遺伝子異常(MODY5)の場合
腎臓の病気を合併することが多いため、腎機能のチェックが重要になります。
ABCC8遺伝子やKCNJ11遺伝子異常の場合
高用量のスルホニル尿素薬を使用することで、インスリン注射が不要になる可能性があります。
遺伝子検査の現状
単一遺伝子糖尿病の診断には遺伝子検査が必要です。
現在、この遺伝子検査は保険適用されていません。また、検査を実施できる施設も限られています。
日本糖尿病学会では、今回の調査研究を通じて、日本人に適した診断基準の作成や、遺伝子解析支援体制の整備を進めています。
将来的には、より多くの方が適切な診断を受けられる体制が整うことが期待されます。
さいごに
この調査により、日本においても想定より多くの方が単一遺伝子糖尿病を持っている可能性が明らかになりました。
特に、35歳未満で糖尿病を発症し、肥満がなく、家族に糖尿病を持つ人がいる場合は、単一遺伝子糖尿病の可能性があります。
正しい診断ができれば、より適切な治療を選択できます。インスリン注射から内服薬への切り替えが可能になる方もいらっしゃいます。
糖尿病は一面的には捉えきれません。1型糖尿病、2型糖尿病、単一遺伝子糖尿病、それぞれに多様な病態があります。
個々の原因を把握することで、その人に最も適した治療を提供できます。これからの糖尿病診療は、画一的な治療ではなく、一人一人の病態に合わせた個別化医療へと進んでいくと考えています。
糖尿病を持つすべての方が、自分の糖尿病のタイプを正しく理解し、最適な治療を受けられる社会を目指していきたいと思います。
引用文献
1. Genetic and Clinical Characteristics of Monogenic Diabetes in Japan: A Nationwide Study by the Japan Diabetes Society. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2025. DOI: 10.1210/clinem/dgaf478
2. 日本糖尿病学会「単一遺伝子異常による糖尿病の成因、診断、治療に関する調査研究委員会」
3. 日本IDDMネットワーク「MODYとは」
4. 小児慢性特定疾病情報センター「若年発症成人型糖尿病(MODY)概要」



