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帯状疱疹ワクチンと認知症の関係 ~ワクチンによる認知症予防効果とは~ 後編

松田友和

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テーマ:ワクチン

なぜ認知症を予防できるのか

帯状疱疹ワクチンがなぜ認知症を予防できるのか、そのメカニズムについてはまだ完全には解明されていません。現在、2つの可能性が考えられています。

ウイルスの悪影響を防ぐ(間接的効果)

1つ目は、帯状疱疹ウイルスそのものが認知症のリスクを高めているという考え方です。
実際、帯状疱疹を発症した人は、発症していない人と比べて、認知症になるリスクが約1.3倍高いことが報告されています。特に、ウイルスが目や中枢神経(脳や脊髄)に感染した場合、そのリスクはさらに高まります。
帯状疱疹ウイルスが再活性化すると、次のような問題が起こると考えられています。

  • 脳の中で炎症が起きる
  • 脳の血管がダメージを受ける
  • アルツハイマー病の原因となるタンパク質(アミロイドβなど)が増える

ワクチンは、このウイルスの再活性化を防ぐことで、間接的に脳を守っている可能性があります。
興味深いことに、帯状疱疹ウイルスが活性化すると、別のウイルス(単純ヘルペスウイルス)も目を覚ます可能性が指摘されています。この2つのウイルスが連鎖的に働くことで、認知症のリスクがさらに高まるという説もあります。帯状疱疹ワクチンは、この「悪の連鎖」を断ち切る効果があるのかもしれません。

ワクチン自体の効果(直接的効果)

2つ目は、ワクチンそのものが持つ免疫学的な効果です。
特にシングリックスには、「アジュバント」と呼ばれる免疫を強化する物質が含まれています。この物質が、免疫システム全体を活性化させ、脳の炎症を抑える働きをしている可能性があります。
オックスフォード大学のトッヅ教授は、「ワクチンに含まれる化学物質が、脳の健康に別の有益な効果を持つ可能性がある」と指摘しています。
実際、これまでの研究から、シングリックスの方が古い生ワクチンよりも認知症予防効果が高いことが示されています。これは、シングリックスに含まれるアジュバントの効果を支持する証拠の1つです。

2つの効果が同時に働いている可能性

これらの2つのメカニズムは、互いに排他的なものではありません。両方が同時に働いて、認知症予防効果を生み出している可能性が高いと考えられています。

女性でより効果が高い理由

複数の研究で、帯状疱疹ワクチンの認知症予防効果は女性でより顕著であることが一貫して示されています。
この理由として、以下のことが考えられています。

  • 女性は男性よりもアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高い
  • 女性と男性では、認知症の発症メカニズムや免疫システムの働き方に違いがある
  • もともとリスクが高い女性の方が、予防効果がより明確に表れやすい


今後の展望

現在、製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)は、イギリスの高齢者100万人以上を対象に、シングリックスが認知症リスクを低下させるかどうかを調べる大規模な研究を実施中です。
今後、ランダム化比較試験と呼ばれる、より厳密な研究が行われれば、因果関係がさらに明確になるでしょう。
研究者たちは、最適な接種年齢や接種間隔、どのような人に特に効果があるのかについても、今後明らかにしていく必要があると述べています。

まとめ

帯状疱疹ワクチン、特にシングリックスには、本来の帯状疱疹予防という目的に加えて、認知症の発症を遅らせる、あるいは予防する効果がある可能性が、複数の大規模研究によって示されました。
効果のメカニズムは、ウイルスの再活性化を防ぐことによる間接的な効果と、ワクチン自体の免疫学的な効果の両方が関与していると考えられています。
現時点では、帯状疱疹ワクチンを「認知症予防のために接種する」と断言できるほどのエビデンスはまだ揃っていません。メカニズムの完全な解明や、より厳密な臨床試験による検証が必要です。
ただし、帯状疱疹そのものを予防する効果は十分に確立されています。帯状疱疹は非常につらい神経痛を伴うことも多く、予防接種で防げるならメリットは大きいといえます。認知症予防の可能性は、ワクチン接種を検討する際の追加的なメリットとして考えることができるでしょう。
帯状疱疹ワクチンの接種を検討される際は、かかりつけ医にご相談ください。

※生ワクチンと不活化ワクチンの違いについては、村前直和医師のブログをご参照ください。
帯状疱疹ワクチンの定期接種化について

引用文献

1. Taquet M, Dercon Q, Todd JA, Harrison PJ. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nature Medicine. 2024;30(10):2777-2781.
2. Eyting M, Xie M, Michalik F, Heß S, Chung S, Geldsetzer P. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025;641(8062):438-446.
3. Scherrer JF, Salas J, Wiemken TL, et al. Impact of herpes zoster vaccination on incident dementia: A retrospective study in two patient cohorts. Journal of Gerontology. 2023.
4. Chen VC, Wu SI, Huang KY, et al. Herpes Zoster and Dementia: A Nationwide Population-Based Cohort Study. The Journal of Clinical Psychiatry. 2022.
5. Mori Y, Ono Y, Shimohata T. Varicella zoster infection as a risk factor for dementia: a scoping review. Rinsho Shinkeigaku (Clin Neurol). 2025;65:191-196.

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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