熱中症と糖尿病の関係
はじめに
帯状疱疹ワクチンに、思いがけない効果があることが明らかになってきました。
世界的な医学誌「Nature」に発表された複数の研究により、帯状疱疹ワクチンを接種した人は、接種していない人と比べて認知症の発症リスクが約20%低下することが示されました。
特に注目されているのは、不活化ワクチン「シングリックス」です。このワクチンを接種した人は、認知症と診断されずに過ごせる期間が平均で約半年延びることがわかりました。
本記事では、帯状疱疹ワクチンがなぜ認知症予防につながるのか、どのような研究でそれが明らかになったのかについて、わかりやすく解説します。
帯状疱疹ワクチンとは
帯状疱疹は、体の片側に痛みを伴う発疹が帯状に現れる病気です。原因は、子どもの頃にかかった水ぼうそうと同じウイルスです。水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体の神経節に潜み続けています。
加齢や疲れなどで免疫力が低下すると、このウイルスが再び活性化します。これが帯状疱疹です。日本人の3人に1人が、80歳までに帯状疱疹を経験するといわれています。
現在、日本では2種類のワクチンが使用されています。
生ワクチン
- 弱毒化したウイルスを使用
- 1回の接種で完了
- 副反応は比較的穏やか
不活化ワクチン(シングリックス)
- ウイルスの一部を使用
- 2回の接種が必要(2〜6ヶ月間隔)
- 予防効果が高く(90%以上)、効果が9年以上持続
- 接種部位の痛みや発赤が生ワクチンより強く現れることがある
※生ワクチンと不活化ワクチンの違いについては、村前直和医師のブログをご参照ください。
帯状疱疹ワクチンの定期接種化について
画期的な研究成果
オックスフォード大学の研究
2024年7月、世界的な医学誌「Nature Medicine」に、オックスフォード大学の研究チームによる重要な論文が発表されました。
この研究では、アメリカの20万人以上の医療記録を分析しました。その結果、シングリックスを接種した人は、古いタイプのワクチンを接種した人と比べて、認知症と診断されずに過ごせる期間が17%延びることがわかりました。日数に換算すると、平均で約164日(約半年)です。
興味深いことに、この効果は女性でより顕著でした。女性では約222日、男性では約122日の延長が認められました。
ウェールズでの自然実験
2025年4月には、さらに説得力のある研究結果が「Nature」誌に発表されました。
この研究の特徴は、「自然実験」と呼ばれる手法を用いた点です。ウェールズでは、2013年に帯状疱疹ワクチンの接種プログラムが開始されました。この時、「1933年9月2日以降に生まれた人」が接種対象となりました。
つまり、この日付の前後に生まれた人たちは、生活環境などはほぼ同じなのに、ワクチンを受けられたかどうかだけが異なります。研究チームは、この状況を利用して、約28万人の医療記録を7年間にわたって追跡しました。
その結果、ワクチンを接種した人は、接種していない人と比べて、認知症の診断を受ける確率が約20%低いことが明らかになりました。 この研究の重要性は、従来の観察研究とは異なり、因果関係をより明確に示せた点にあります。
ワクチン接種を自ら選ぶ人は健康意識が高い傾向があり、それが認知症リスクの低下につながっている可能性を排除できませんでした。ウェールズの研究は、生年月日という偶然によって接種の有無が決まったため、このような偏りの影響を受けにくいのです。
その他の研究
これ以外にも、複数の国から同様の結果が報告されています。
- 2023年の研究:65歳以上で帯状疱疹ワクチンを接種した人は、未接種者と比較して認知症発症リスクが約15%低下
- 60代での接種では、認知症リスク低減効果がより高い傾向
- 効果は接種後すぐには現れず、約1年から1年半経過してから明確になる
後編(なぜ認知症を予防できるのか)に続く
前編の参考文献は、後編の最後にまとめて紹介します



