脂肪肝の最新研究について ~定期検査で早期発見・重症化予防を~
はじめに
健康診断でALT(肝機能の数値)が30 IU/L以上と指摘されたことはありませんか?「お酒を飲まないのになぜ?」と疑問に思う方も多いでしょう。実は、脂肪肝と糖尿病には深い関係があり、お互いが悪影響を与え合う危険な状態なのです。
肝臓の重要な4つの働き
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、普段はその存在を意識しませんが、私たちの健康を支える重要な働きをしています。
- 栄養の管理センター 食べ物から摂った糖分を貯蔵し、空腹時にエネルギーとして放出する「体の電池」の役割をします。
- 体の浄水場 アルコールや薬物などの有害物質を無害化し、体外に排出しやすい形に変えます。
- 消化の助っ人 脂っこい食べ物を消化するための胆汁を作り、脂肪の消化・吸収を助けます。
- 免疫の最前線 細菌やウイルスなどの外敵を見つけて退治する、体を守る重要な拠点です。
脂肪肝とは何か
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態のことです。お酒を飲まない人でも起こるため以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患」と呼ばれていましたが、最近では「代謝機能異常関連脂肪性肝疾患」と呼ばれています。
驚くべき実態
- 2型糖尿病を持つ人の55~70%が脂肪肝を合併
- 脂肪肝がある人は糖尿病発症リスクが2倍以上
なぜ脂肪肝と糖尿病は関係するのか
両者を結ぶ最も重要な共通点は「インスリン抵抗性」です。
インスリン抵抗性とは インスリンが正常に分泌されているのに、その効果が十分に発揮されない状態です。血糖値を下げるために、より多くのインスリンが必要になります。
肝臓の脂肪が引き起こす悪循環
- 肝臓に脂肪が蓄積
- 炎症が起こり、インスリンの効きが悪くなる
- 血糖値が上がりやすくなる
- 高血糖により、さらに脂肪が肝臓に蓄積
- 糖尿病が進行し、脂肪肝も悪化
重要な研究結果
順天堂大学の研究では、内臓脂肪が少なくても脂肪肝があるとインスリン抵抗性が起こることが判明しました。つまり、「見た目は太っていないから大丈夫」という考えは危険なのです。
見逃される危険性
脂肪肝の恐ろしい点は、初期には自覚症状がほとんどないことです。しかし、放置すると以下のような深刻な合併症につながります。
- 肝臓関連の合併症 肝炎、肝硬変、肝がん
- 心血管系の合併症 動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中
日本における糖尿病を持つ人を対象とした調査では、肝疾患関連の死因が9.3%を占めており、決して軽視できません。
早期発見のためのALT値チェック
最も重要で簡便な検査は血液検査のALTです。ALTは肝細胞の中にある酵素で、肝細胞が傷ついたり脂肪が蓄積したりすると血液中に漏れ出します。
ALT値の意味
- 正常値:30 IU/L以下
- 軽度上昇でも脂肪肝の可能性
- 定期的な健康診断で簡単にチェック可能
改善への道筋
生活習慣の見直し
- 適切なカロリー制限
- 糖質の摂りすぎに注意
- 継続的な有酸素運動
- 糖質を含む涼飲料水の制限
最新の治療法
糖尿病治療薬の一部が脂肪肝の改善にも効果があることが分かってきています。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害剤は、インスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールと肝機能の両方を改善する可能性があります。
まとめ
脂肪肝と糖尿病は、インスリン抵抗性という共通の病態基盤を持ち、相互に影響し合う複雑な関係にあります。健康診断でALT値30 IU/L以上を指摘された方は、単なる肝機能異常ではなく、将来の糖尿病リスクも考慮する必要があります。
自覚症状がないまま進行するため、定期的な検査と早期対策が何より重要です。ALT値の異常を指摘された方は、ぜひ専門医に相談し、脂肪肝の治療を検討することをお勧めします。
参考文献
1. Younossi ZM, et al. Diabetes Spectrum, 2024; 37(1): 9-19.
2. Le MH, et al. Clin Gastroenterol Hepatol, 2024; 22: 1999-2010.
3. Kadowaki S, Tamura Y, Someya Y, et al. J Endocr Soc. 2019;3(7):1409-1416.



