抗がん剤が原因となる1型糖尿病とは
インスリン抵抗性が両方の疾患の鍵を握っている
糖尿病とがんは、一見無関係に思える疾患ですが、実は多くの共通点があります。特に注目すべきは、インスリン抵抗性が両方の疾患の発症に深く関わっていることです。
インスリン抵抗性とは何か
基本的なメカニズム
インスリン抵抗性は、筋肉細胞、脂肪組織、肝細胞がインスリンの正常な濃度に対して適切に反応しなくなる状態です。インスリン抵抗性が大きくなると、血糖値を下げるために、より多くのインスリンが必要になります。
糖尿病発症への影響
膵臓のベータ細胞は、血糖値を調節するホルモンであるインスリンを合成・分泌している細胞です。インスリン抵抗性により、ベータ細胞は過剰に働かされ、高インスリン血症を引き起こします。しかし、ベータ細胞の代償分泌能力がインスリンの必要量に追いつかなくなると、高血糖が現れ、最終的に2型糖尿病へと発展します。
糖尿病とがんの疫学的関連
日本での研究結果
8つのコホート研究を統合した解析では、33万人以上を対象として糖尿病とがんの関連が検討されました。その結果、解析した疫学データから、糖尿病がない人と比べて、糖尿病を持つ人では大腸がんのリスクが1.4倍(ハザード比1.40)、肝がんのリスクが約2倍(ハザード比1.97)、膵臓がんのリスクが1.85倍(ハザード比1.85)高くなることが示されました。
がん発症のメカニズム
インスリン抵抗性と関連する高インスリン血症は、肥満、2型糖尿病、がんの主要な影響因子であることが観察されています。高インスリン血症は腫瘍細胞の分裂と転移を刺激することが報告されています。
共通するリスクファクター
生活習慣要因
2型糖尿病とがんの共通リスクファクターには、加齢、男性、肥満、身体活動不足、不適切な食事(過度の赤身/加工肉摂取、野菜/果物/食物繊維摂取不足)、過度の飲酒、喫煙が含まれます。
体重管理の重要性
肥満はインスリン抵抗性の主要な原因の一つです。内臓脂肪の蓄積により、インスリンの効きが悪くなり、慢性的な炎症状態が続きます。
インスリン抵抗性を改善する方法
以下のような食事療法、運動療法、生活習慣の改善を少しずつでも取り入れることで、インスリン抵抗性を小さくすることにつながります。
食事療法
炭水化物の質の改善
- 精製された炭水化物の摂取を控える
- 全粒穀物や野菜、果物から食物繊維を十分に摂取する
- 血糖値の急激な上昇を抑える食べ方(ベジファースト, 甘い飲み物を控える)
適切なカロリー制限
- 総摂取カロリーを適正に保つ
- 内臓脂肪の減少を目指す
運動療法
有酸素運動
- 週150分以上の中強度運動
- 階段の昇降、早歩き、家事(掃除機かけ、床拭きなど)を積極的に行う
筋力トレーニング
- 週2-3回の筋力トレーニング
- 椅子から立ち上がる動作、スクワット、腕立て伏せ(膝つきでも可)
- 筋肉量の維持・増加により糖の取り込みを改善
生活習慣の改善
睡眠の質の向上
- 適切な睡眠時間(7-9時間)の確保
- 規則正しい睡眠リズムの維持
ストレス管理
- 慢性的なストレスはコルチゾール分泌を増加させ、インスリン抵抗性を悪化させる
- 深呼吸、散歩、音楽鑑賞、趣味の時間を大切にする
予防における共通戦略
一次予防の重要性
不適切な食事や運動、喫煙、過度の飲酒が糖尿病とがんの共通リスクファクターであることから、食事療法・運動療法、禁煙、節酒が両方の疾患の予防に有効です。
継続的な健康管理
定期的な健康診断
- 血糖値、HbA1c、血圧、脂質の測定
- がん検診の定期受診
まとめ
糖尿病とがんの予防には、インスリン抵抗性の改善が共通の鍵となります。適切な食事療法、定期的な運動、体重管理、禁煙、節酒といった基本的な生活習慣の改善により、両方の疾患のリスクを効果的に下げることができます。
重要なのは、これらの取り組みを一時的なものではなく、長期的なライフスタイルとして継続することです。小さな一歩でも、続けることで健康な未来につながっていきます。今できることから、ゆっくりと取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Inoue M, et al. Impact of alcohol drinking on total cancer risk: data from a large-scale population-based cohort study in Japan. Glob Health Med. 2022; 4(1): 26-36.
- Sasazuki S, et al. Diabetes mellitus and cancer risk: pooled analysis of eight cohort studies in Japan. Cancer Sci. 2013; 104(11): 1499-1507.
- Sasazuki S, et al. Report of the Japan Diabetes Society/Japanese Cancer Association joint committee on diabetes and cancer. J Epidemiol. 2011; 21(6): 417-430.



