制御性T細胞と1型糖尿病~ノーベル賞が開く治療の可能性~
30年間で寿命は延長するも、健康格差が拡大
日本は世界屈指の長寿国として知られています。2025年3月、英国の権威ある医学雑誌『The Lancet Public Health』に発表された最新の研究により、日本の健康状況の30年間にわたる詳細な変化が明らかになりました。
寿命の延長は続くが、地域格差が深刻化
平均寿命の着実な延長
1990年から2021年の31年間で、日本人の平均寿命は79.4歳から85.2歳へと5.8年延長しました。これは世界の高所得国の平均的な延長(4.5年)を上回る成果です。
男女別にみると
- 女性:82.3歳→88.1歳(5.8年延長)
- 男性:76.2歳→82.2歳(5.9年延長)
健康寿命の延長は限定的
一方、健康寿命(日常生活に制限がない期間)は69.4歳から73.8歳へと4.4年の延長にとどまりました。平均寿命と健康寿命の差は9.9年から11.3年に拡大しており、長生きしても健康な期間の延長が十分ではないことを示しています。
深刻化する地域間格差
都道府県間の平均寿命の格差は、1990年の2.3年から2021年の2.9年に拡大しました。特に男性では3.2年から3.9年と顕著な拡大がみられます。
上位県:滋賀県、京都府、長野県 下位県:青森県、秋田県
兵庫県は平均寿命で全国中位に位置し、1990年から2021年にかけて6.5年の寿命延長を達成しました。脳卒中による死亡率改善が特に顕著で、1.4年の寿命延長に貢献しています。全国平均と比較して安定した健康水準を維持していると評価されます。
生活習慣病関連死亡率の改善ペースが鈍化
これまでの成果
過去30年間で、年齢調整死亡率は41.2%減少しました。寿命延長への主な貢献要因は
- 脳卒中:1.5年の寿命延長に寄与
- 虚血性心疾患:1.0年の寄与
- 悪性新生物:1.0年の寄与
- 下気道感染症:0.8年の寄与
特に胃がんの年齢調整死亡率は、1990年の10万人当たり33.8人から2021年の13.2人へと大幅に減少し、0.5年の寿命延長に貢献しました。
改善ペースの鈍化が顕著
しかし、近年は改善ペースが著しく鈍化しています。全死因の死亡率改善のペースは年々緩やかになっており、脳卒中や虚血性心疾患でも同様の鈍化傾向がみられます。これは従来の健康政策の限界を示唆しています。
認知症と糖尿病の負荷が急増
アルツハイマー病・認知症の急増
2021年の主要死因において、アルツハイマー病・認知症が初めて1位となりました(10万人当たり135.3人)。これは1990年の6位から大幅な上昇です。
健康を損なう期間も2015年から2021年にかけて大幅に増加し、2050年には日本の健康問題の主要原因になると予測されています。
糖尿病による健康被害が拡大
糖尿病による健康への影響は年々悪化しており、以前は改善傾向にあったものが、近年は悪化に転じています。
この背景には、高血糖と肥満という重要なリスク因子の増加があります。
高血糖と肥満が新たな脅威
血糖値の悪化が深刻
これまで改善していた血糖値の問題が、近年は悪化に転じています。高血糖による健康への悪影響が増加傾向にあります。
肥満の問題が拡大
肥満による健康被害も年々増加しており、特に心配なのは高齢者の肥満です。70歳以上では、筋肉量が減少しながら体重が増加する「筋肉減少性肥満」の問題が深刻化しています。
COVID-19の影響は限定的だが精神面への懸念
直接的影響は軽微
2021年のCOVID-19による年齢調整死亡率は10万人当たり3.0人で、全死因の1.0%にとどまりました。これは世界平均(94.0人/10万人)や高所得国平均(48.1人/10万人)を大幅に下回る低い水準です。
間接的影響への懸念
一方、10-54歳の働き盛り世代では精神的な病気による健康被害が大幅に増加しました。特に女性でその傾向が顕著で、社会的孤立やパンデミック関連ストレスの心理的影響が示唆されています。
今後の課題と対策
地域格差解消への取り組み
2024年に開始された「健康日本21第3期」では、都道府県間の健康格差縮小が重点課題として位置づけられています。地域の特性に応じた健康戦略の構築が求められています。
認知症対策の重要性
高齢化の進展とともに認知症の負荷は今後さらに増大が予想されます。
必要な対策
- 身体活動の促進
- 社会参加の推進
- 早期診断・治療
- 介護者支援
生活習慣病対策の強化
特に血糖値管理と適正体重の維持に向けた取り組みが急務です。
- 職場における健康管理の強化
- 地域社会と連携した健康づくり
- 栄養管理の改善
- 高齢者の筋肉減少・虚弱予防
まとめ
日本の健康状況は過去30年間で大きく改善してきましたが、近年は進歩の鈍化と新たな課題の浮上が顕著になっています。認知症や糖尿病の負荷増大、地域間格差の拡大、精神健康への影響など、多面的なアプローチが求められる時代に入っています。
「健康日本21第3期」を通じた包括的な健康政策の推進により、すべての人が健康で長生きできる社会の実現が期待されます。個人の生活習慣改善だけでなく、社会環境の整備を含めた総合的な取り組みが、今後の日本の健康向上の鍵となるでしょう。
参考文献
GBD 2021 Japan Collaborators. Three decades of population health changes in Japan, 1990–2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Public Health 2025; 10: e321–32.



