中性脂肪と糖尿病の関係 ~血糖値改善で悪玉コレステロールが増える ?~ 前編
糖尿病と高中性脂肪血症との関係
高中性脂肪血症は、いくつかの病気や生活習慣から引き起こされることがあります。例えば、肥満(メタボリック症候群)、糖尿病、クッシング症候群、慢性腎臓病などが関与しています。また、アルコールの過剰摂取や特定の薬(利尿薬、β遮断薬、ステロイドなど)も原因となります。
高中性脂肪血症の多くのケースは、食事による摂取カロリーを減らしたり、飲酒を控えたりすることが中心的な治療になります。
特に糖尿病は高中性脂肪血症と密接な関係があります。前編で紹介したリポ蛋白質であるVLDLがLDLに変化する際には、リポ蛋白リパーゼ(LPL)という酵素の働きが必要になります。このLPLが働くためには、インスリンの作用が必要となります。血糖値が高い状態では、インスリンの作用が充分でないため、LPLの働きが低下しています。そのため、中性脂肪が多いVLDLから、コレステロールが多いLDLに変換することが出来なくなります。
ちなみにアルコール過剰摂取も、このLPLの働きを低下させることが知られています。
したがって、血糖値が高い場合やアルコール過剰摂取では、中性脂肪の値が著明に高くなります。
血糖値が改善すると悪玉コレステロールが上昇する理由
実際に、当院に高血糖の状態で来院されてきた場合は、中性脂肪の値が非常に高くなっている方をよく見かけます。その場合の高中性脂肪血症は、特別な治療をすることなく、血糖値の低下に伴い、改善していきます。糖尿病治療により、インスリンの働きが回復することで、LPLの働きが改善したため、中性脂肪の多いVLDLからコレステロールの多いLDLに変換することができ、その結果として、血液中の中性脂肪の濃度が低下します。
この時、同時に悪玉コレステロールであるLDLが増加するというわけです。
それでは、血糖値が低下したことで悪玉コレステロールが増加することは悪いことなのでしょうか。勿論、そんなことはありません。
採血による検査として、VLDLを測定することは一般的ではありませんが、実はLDLに変換される前のVLDLもコレステロールは含まれています。中性脂肪の値が550mg/dLを超えるとLDLよりもVLDLに含まれるコレステロールの方が多くなることも知られています(Horm Metab Res. 2001; 33(10): 612-617)。さらに、VLDLからLDLに変換されにくい状況では、悪玉コレステロールであるLDLより、さらに動脈硬化を進展させると言われているsmall dense LDL(超悪玉コレステロール)が増えています。
したがって、中性脂肪が高い場合は、LDL(悪玉コレステロール)だけでは、動脈硬化のリスクを過小評価してしまいます。そのため、総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いた値である、non(ノン)-HDLコレステロールという指標があります。血液中にはLDLコレステロールとは別の悪玉(VLDLなど)がひそんでおり、non-HDLコレステロールはそれらを含めたすべての悪玉の量をあらわしています。
まとめ
中性脂肪と糖尿病の関係から、脂質について考えてきました。動脈硬化を来す疾患群として、糖尿病、脂質異常症はよく知られていますが、実はこれら2つは密接に影響しています。糖尿病診療の最終目的は、糖尿病を持つ人に、糖尿病を持たない人と同様に元気に長生きしていただくことです。そのためには、血糖値だけを追いかけるのではなく、脂質異常症をはじめ、全身の様々な問題に私たちは目を光らせています。 健康診断や人間ドックで何らかの異常が指摘されても、放置してしまっていませんか。自分に関係ないと思っても、かかりつけ医などに、気楽に相談してみてください。



