熱中症と糖尿病の関係
はじめに
近年、睡眠の重要性が再認識されるようになっています。良質な睡眠を適切な時間確保することが大切です。その睡眠に何らかの問題がある状態を睡眠障害と言います。実は、睡眠障害と糖尿病には関係があり、睡眠障害は糖尿病の併存疾患 の1つであるとも言われています。
睡眠時間と糖尿病
どの程度の睡眠時間がもっとも健康にとってよいのかという基準はありません。体質や年齢により必要な睡眠時間は影響を受けるため、「日中に眠気をきたすことなく元気に活動できる睡眠時間」がその人にとっての適切な睡眠時間であるとされています。一般的には6~8時間程度であると言われています。
韓国の研究チームが13万人以上を対象に行った調査では、メタボリック症候群や糖尿病のリスクがもっとも低いのは睡眠時間が7〜8時間の人で、睡眠時間が7時間未満の人や、10時間を超える睡眠過多の人でリスクが上昇するという、U字型の分布を示すことが示されました(BMC Public Health 18, 720, 2018)。
また、睡眠不足が食欲を抑制するホルモンであるレプチンの血中濃度を低下させ、食欲を増進するホルモンであるグレリンの血中濃度を上昇させることで、食欲を亢進させ、肥満を引き起こすことが報告されています(Chest 152, 1070-1085, 2017)。
睡眠障害と糖尿病
糖尿病を持つ人で頻度が高くなることが 報告されている睡眠障害がいくつかあります。
1.不眠症
不眠症と糖尿病との関係を調べた研究において、不眠症を持つ人 の糖尿病の有病率は13.1%であり、不眠症を持たない人の有病率の5%比べて有意に高いという結果でした。
一方で、糖尿病を持つ人の不眠症の有病率は47.4%であり、糖尿病を持たない人の有病率の23.8%と比べて有意に高いことが報告されています(Sleep 30, 213-218, 2007)。
この研究以外の様々な報告からも、不眠症と糖尿病が相互に悪影響を及ぼすことが知られています。
2.睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は眠り出すと呼吸が止まってしまう疾患です。呼吸が止まると血
液中の酸素濃度が低下するため、目が覚めて再び呼吸し始めますが、眠り出すとまた止
まってしまいます。これを一晩中繰り返すため、深い睡眠がまったくとれなくなり、日
中に強い眠気が出現します(厚生労働省 e-ヘルスネット参照)。
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群についても、不眠症と同様に互いに影響を及ぼし合うこ
とが知られています。
米国の一般住民を対象に行われた大規模研究である「ウィスコンシン睡眠コホート研
究」では、睡眠時無呼吸症候群の重症度が増すほどに糖尿病の合併率が高くなることが
報告されています。さらに、年齢・性別・ウエストまわりで補正しても、中等度の睡眠
時無呼吸を持っている人では、4年以内に糖尿病を発症するリス クが、1.62倍となって
いました(Am J Respir Crit Care Med 172(12), 1590-1595, 2005)。
睡眠時無呼吸症候群の治療としては、減量や歯科装具(マウスピース)、持続陽圧呼吸
療法(CPAP)、さらには手術加療などがあります。
理論的にはCPAPなどで睡眠時無呼吸症候群を治療することで、糖尿病に対して良い
影響が出ることが期待されます。実際にいくつかの報告では、CPAPによりインスリン
に対する感受性(インスリンの効き目)が上昇したことが報告されています(Chest 152,
1070-1085, 2017)。
3.レストレスレッグス症候群
レストレスレッグス症候群とは、不快な下肢の異常感覚を伴った、下肢を動かさずにはいられないという耐え難い衝動に伴って生じる眠障害です。
レストレスレッグス症候群の危険因子として、家族歴、鉄欠乏、妊娠、慢性腎不全、脳血管障害、末梢神経障害などが知られています。
糖尿病との関連においては、高血糖状態が長期間持続することで、慢性腎不全や末梢神経障害をきたすことが、レストレスレッグス症候群の誘因となる可能性があります。
治療としては、温浴・冷シャワー、運動やマッサージなどには異常感覚を緩和させる効果が期待されます。症状が強い場合などでは、お薬による治療となります。治療薬としては、飲み薬と貼り薬があります。
まとめ
睡眠時間は、おおむね6時間から8時間程度が望ましいことや、睡眠障害として、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群など糖尿病との関係についてお話させていただきました。その中でも、糖尿病専門クリニックとして対応する頻度が高い疾患は、睡眠時無呼吸症候群です。最近では自宅に居ながら、簡単な検査機器を装着することで、ご自身の布団で眠りながら検査を受けることができます。必要に応じて、簡易な呼吸器である持続陽圧呼吸療法(CPAP)で安眠できるようになり、日中の眠気が解消されるケースもあります。
睡眠について悩みがある場合は、かかりつけの内科医が解決できる場合もありますので、一度相談してみてはいかがでしょうか。