腸内細菌叢は、運動へのモチベーションを高める
はじめに
2019年末からパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が2類感染症から5類感染症に移行して、1年以上が経ちました。新しいウイルスによる感染症に振り回された約4年間を振り返り、将来の新たなパンデミックに備えておく時期になったと感じています。そこで、新型コロナウイルス感染症が糖尿病診療に及ぼした影響を調査した結果が日本内分泌学会誌に報告されましたので、紹介したいと思います。
Impact of coronavirus disease 2019 on medical practice in endocrine and metabolic diseases in Japan: a nationwide surveillance study conducted by the Japan Endocrine Society Diabetes mellitus and obesity disease
新型コロナウイルス感染症が日本の内分泌・代謝疾患の診療に与える影響:日本内分泌学会が実施した全国サーベイランス調査
doi:10.1507/endocrj.EJ23-0671
方法
・内分泌学代謝科専門医を対象とした全国横断アンケート調査
・質問票は多肢選択式と自由記述式で構成されました
・約2,700人の専門医のうち、528人(19.5%)が参加しました。
→ アンケート調査としては高い参加率であり、専門医の高い関心が示唆されました。
糖尿病診療に対する影響について
〇455名(86%)が新型コロナウイルス感染症が糖尿病管理に悪影響を及ぼすと回答しました。
主な悪影響
・運動療法に支障をきたす症例の経験(89%)
・食事療法に支障をきたす症例の経験(62%)
・体重増加(59%)
・受診・診断・治療開始の遅れへの対応(57%)
〇パンデミックにより影響を受けたこと
・患者の予約間隔の延長(66%)
・電話遠隔診療の導入(62%)
・フットケア、糖尿病教室、患者会などの活動の縮小または中止(55%)
・糖尿病治療のための入院の減少(55%)
〇影響を受けた担当糖尿病患者像
・入院などの介入を必要とする中等度のCOVID-19感染症例(56%)
・集中治療室への入院や人工呼吸器の使用を必要とする重度の感染症例(42%)
・致命的な症例(22%)
〇265人(50%)の参加者が血糖値の管理に課題を経験したと報告しました
その主な理由
・COVID-19肺炎治療のための副腎皮質ステロイド投与(64%)
・隔離のため必要な検査を受けられない(54%)
・糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態の発症(38%)
〇パンデミックが医療行為に与えた好影響について
・「外食や会食の減少による生活習慣の改善」(n=72、13.6%)
・「リモートワークによる生活習慣の変化」(n=10、1.9%)
・「長時間のコロナウイルスの感染予防・対策に関連した疾患理解の向上」(n=8、1.5%)
・「ビデオ・電話による遠隔診療の拡大」(n=9、1.7%)
まとめ
新型コロナウイルス感染症の流行が糖尿病診療に悪影響を与えたと答えた参加者の割合は86%であり、その理由として最も多かったのは、食事療法や運動療法の妨げになったというものでした。これは、パンデミックの間、多くの方が屋外で運動することができず、家で過ごす時間が長くなり、ストレスやその他の要因から間食が多くなりがちだったためだと考えられています。
一方、パンデミックがポジティブな効果をもたらしたと回答した参加者は少数(28%)にとどまりました。しかし、その中では、「外食が減った」など患者の生活習慣が変化したという回答が多く、パンデミックによる外出制限は血糖値の管理という面ではプラスに作用した要素もあったことがわかりました。
糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症が重症化するリスクがあり、COVID-19感染で大きな影響を受ける慢性疾患の1つとされています。
実際、調査参加者の約半数が糖尿病患者に中等度から重度のCOVID-19感染を経験したことがわかりました。また、半数以上の参加者が、感染によって血糖コントロールが困難になった症例を経験していました。
COVID19肺炎に対する副腎皮質ステロイド投与に伴う高血糖や、感染に伴う糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態などの高血糖緊急症を発症した糖尿病患者も多く見受けられました。
高血糖はCOVID-19感染症における重要な予後因子であり、糖尿病患者に対するシックデイに関するさらなる啓蒙活動や、COVID-19治療における高血糖予防プロトコールの確立など、高血糖を予防する方法を検討する必要があります。
本研究を通じて、日常的な診断・治療における課題も浮き彫りになり、医療機関へのアクセスが途絶えるような感染症の流行時に、診察・検診の頻度を最適化するために、遠隔診察と対面診察を組み合わせることの潜在的な利点が確認されました。この調査から得られた知見は、特に将来、新興・再興感染症の流行により医療アクセスが制限される可能性がある状況においても、柔軟な診察形態を用いることで、内分泌・代謝疾患患者への適切な医療提供の確保に貢献することが期待されます。
さいごに
医療者の視点から新型コロナウイルス感染症が糖尿病診療に及ぼした影響についての全国調査の結果をご紹介しました。これらを振り返ることで、日々の診療に足りていなかった点や改善すべき点が見えてくることもあります。平時の時から、有事の対応を準備しておく必要があると再認識しました。