熱中症と糖尿病の関係
はじめに
日本人の約30%が脂肪肝を持っていると言われています。健康診断で、要注意と指摘されている方も少なくないと思います。脂肪肝に症状はありません。なぜ脂肪肝に注意する必要があるのかを考えてみたいと思います。
脂肪肝とは
脂肪肝とは、文字通り肝臓に脂肪が溜まっている状態を意味します。アルコールをたくさん飲まれる方の肝臓に脂肪が溜まっている状態を、アルコール性脂肪性肝疾患と言います。一方で、アルコールとは関係なく肝臓に脂肪が溜まっている状態を非アルコール性脂肪性肝疾患(NonAlcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)と呼んで区別しています。
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)は、さらに非アルコール性脂肪肝(Nonalcoholic Fatty Liver: NAFL)と、非アルコール性脂肪肝炎(Nonalcoholic SteatoHepatitis: NASH)に分けられます(下図参照)。
兵庫医科大学病院肝疾患センターHPより
NAFLとNASHは、肝臓の組織をとってきて、病理学的に診断して分類する必要がありまます(肝生検と言います)。
NAFLは病態がほとんど進行しないと考えられ、以前は単純性脂肪肝と呼ばれていました。一方で、NASHは肝炎の状態から線維化が進行していき、肝硬変や肝癌の発症母地となります。日本人の約30%が脂肪肝を持っていると言いましたが、NASHの有病率は約2%と言われています。
正確に診断するためには、肝生検が必要だと言いましたが、簡単に行える検査ではありません。そこで、Fib-4 index(AST、ALT、血小板数、年齢の4項目から算出)、NFS( The NAFLD fibrosis score: 年齢、BMI、糖尿病の有無、AST/ALT比、血小板数)などにより、肝臓の線維化の程度を推測する方法が広く利用されています。また、実際に肝臓の状態を評価するために腹部エコーも有用です。
脂肪肝と心血管イベントとの関係について
脂肪肝の最大の問題は、健康を害する可能性があるということです。
「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」という脂肪肝の診療ガイドラインの一部をご紹介しましょう。
Q: NAFLD では一般集団に比較して全死亡率,肝関連死亡率,心血管イベントの
リスクが増加するか?
A: NAFLD では全死亡率,肝関連死亡率,心血管イベントのリスクが増加する
解説:
〇 NAFLD では一般人口と比較して全死亡率,肝関連死亡率が増加することが多数報告
されており,メタアナリシスでもこれらの死亡率が高いことが報告されている。
Ann Med 2011; 43: 617- 649, Hepatology 2016; 64: 73-84
〇 心血管イベントのリスクが増加するという報告も多数なされており,メタアナリシス
においても NAFLD では一般人口と比較して心血管イベントのリスクがオッズ比 1.64
と増加する。 J Hepatol 2016; 65: 589-600
つまり、脂肪肝があると肝臓疾患が進展していく可能性があるだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントのリスクが1.6倍程度上昇してしまいます。
NAFLDからMAFLDを経て、MASLDへ
実は最近、代謝異常関連脂肪肝( metabolic dysfunction-associated fatty liver disease: MAFLD)という概念が提唱されています。MAFLD は脂肪肝に「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」のいずれかが併存している疾患概念です。
これまでの NAFLD は脂肪肝からアルコールや他の肝疾患を除外することで診断されていました。一方、 MAFLD は糖尿病や肥満などの代謝異常を持つ脂肪肝を包括していて、アルコールなどの他の要因を除外しない概念として提唱されています(下図参照)。
MAFLDの診断基準
Eslam M et al. J Hepatol. 2020;73:202-209.
肝臓 64巻2号(2023)
さらに、日本肝臓学会と日本消化器病学会は2023年9月に、代謝異常関連脂肪肝( metabolic dysfunction-associated fatty liver disease: MAFLD)から、代謝異常関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease:MASLD)に名称を変更することを発表しました。MAFLD(マフルド)のFであるFattyを訳すると「脂肪が多い」という意味になり、スティグマ(負の烙印)を引き起こす可能性があることが改名の理由です。
いずれにしても大事なことは、代謝異常が脂肪肝の病期進展にもかかわる重要な危険因子であるということです。
血液検査でわかること
日本肝臓学会は2023年に奈良で開催された学術集会において、「奈良宣言2023」を発出しました。この中で、特に一般的な健康診断でも肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めています。
ALT>30の症例は肝生検を行うと、ほとんどの場合に肝組織に炎症細胞浸潤が認められることが、奈良宣言の根拠となっています。
心血管イベントに影響を及ぼすと言われている糖尿病、高血圧、脂質異常症に加えて、脂肪肝にも留意して、元気で長生きを目指していきましょう。