1型糖尿病を持つ人のセルフスティグマとHbA1cとの関係
先日、私たち糖尿病内科まつだクリニックのメンバーと、神戸市看護大学の稲垣先生らとの共同研究の結果が、日本糖尿病学会の学会誌に掲載されましたので、報告させていただきます。
研究内容は、タイトルにあるように、2型糖尿病を持たれている人の食事習慣および運動習慣に関連する要因についてです。
2型糖尿病をもつ人の食事および運動習慣に関連する因子の探索
インターネット調査による横断研究
稲垣 聡, 松田 友和, 阿部 梢, 加藤 憲司
糖尿病, 2023 年 66 巻 9 号 p. 675-685
https://doi.org/10.11213/tonyobyo.66.675
研究の背景
食事療法や運動療法は、生活スタイルに影響を与えうるため、糖尿病を持つ人にとって苦痛となることがあり、その継続性や実施率が問題となることがあります。しかし、食事療法や運動療法に関連する因子には、不明な点が数多くあります。
そこで私たちは、糖尿病自己管理行動(セルフケア)と関連が予想される複数の特性を用いた調査を全国的な規模で実施し、食事療法や運動療法が、どのような因子から影響を受けているのかを明らかにすることとしました。
研究の方法
2型糖尿病患者を対象にオンライン調査を用いて横断研究を行いました。
また、糖尿病自己管理行動の動機に関する心理的尺度を用いて、自己管理行動の実施頻度との関連の分析を行いました。
研究の結果
参加者が食事療法を実践している頻度
1週間あたりの実施日数は、平均で3.4 ± 2.8日でした。
最頻値は0日(32.2%)でした。
49.4%が週に4日以上食事療法を実践しており、21.8%の参加者は、毎日(7日)食事療法を実践していました。
参加者が運動療法を実践している頻度
1週間あたりの実施日数は、平均で2.2 ± 2.3日でした。
最頻値は0日(38.6%)でした。
運動を週に3日以上実施している参加者の割合は35.5%でした。
HbA1cとの関連
HbA1cが7 %未満の人は、HbA1cが7%以上の人より、食事療法実施率が高くなっていました。
一方で、運動療法の実施率とHbA1cが7%以上か7%未満か、とは関連がありませんでした。
食事療法を週に4回以上実施している人の特徴
年齢が若いこと
週に1回以上の飲酒習慣があること
自律的動機レベルが高いこと
自己効力感が高いこと
運動療法の週に3回以上実施している人の特徴
BMIが低いこと
教育入院歴があること
合併症があること
自己注射をしていないこと
自律的動機レベルが高いこと
研究結果の考察
食事療法と運動療法のいずれにも関連している因子は、自律的動機(*)だけでした。
一方で、統制的な動機(**)は食事療法や運動療法の実施と関連はありませんでした。
*:自律的動機とは、「自分のためだから」「自分がやりたいから」などの内面からの刺激により行動を起こす、という動機です。
**:統制的動機とは、「人からいわれるから」「やらないと怒られるから」などの外部からの刺激により行動を起こす、という動機です。
自律的動機は、身体活動に与える重要な要因である1,2,3)ことや、変更することが難しい食事習慣を変える数少ない因子である4)という海外での報告があります。
1) Health Psychol 23:58-66.2004
2) Heliyon 6:e04993.2020,
3) Health Psychology and Behavioral Medicine 6:104-119.2018,
4) Chronic Illn 6:202-214.2010
糖尿病を持つ人が食事療法や運動療法を実践していくためには、糖尿病を持つ人自身の自律的動機レベルを高められるように、私たち医療者はアプローチしていく必要があると考えています。