指の関節の痛みを持つ方へ ~へバーデン結節~
はじめに
糖尿病診療をしていると、様々な相談を受けます。その1つに手の関節の痛みがあります。
前編では、「へバーデン結節」を紹介させていただきましたが、今回は、「ばね指」をご紹介します。
糖尿病とばね指の関係
糖尿病のある人では、糖尿病のない人と比べて、「ばね指」を発症する頻度が上昇することを、スウェーデンのルンド大学の研究チームが報告しています。
彼らの研究では、ばね指の発症リスクは、1型糖尿病の女性が1.26倍、男性で1.4倍に上昇しており、2型糖尿病の女性で1.14倍、男性で1.12倍に上昇していました。(参考文献:Diabetes Care 2022;45(11):2669–2674)
また研究チームは、HbA1c値が6.5%未満の群と8%を超える群とでは、HbA1cが8%以上の群で「ばね指」の発症リスクが、最大で5倍程度の差があることも指摘しています。つまり、血糖値をしっかりとマネージメントしていくことで、「ばね指」の発症リスクを軽減できる可能性を示しています。
糖尿病が「ばね指」のリスク増加を引き起こすメカニズムは、明らかにはなっていません。
血糖値が高いと、指の屈筋腱などの結合部と腱鞘が厚くなり、障害が起こるのが原因の1つだと推測されています。「ばね指」に限らず、血糖のマネージメントが不十分な場合は、前編でお話した「へバーデン結節」などの、手や指の神経障害が起きやすいことは、以前から知られています。
さらに研究チームは、「ばね指」を発症することが、将来の2型糖尿病の発症の警告信号となる可能性を指摘しています。糖尿病を持っていない方に生じた「ばね指」が、その方の将来の糖尿病の発症を予見して可能性があるということです。
ばね指の症状
「ばね指」という疾患名が、まさに症状を表しています。指の付け根で屈筋腱と靱帯性腱鞘の間で炎症が起こると、腱鞘の部分で腱の動きがスムーズでなくなり、指の付け根に痛み、腫れ、熱感が生じます。 朝方に症状が強く、日中は使っていると症状が軽減することも少なくありません。 進行するとばね現象が生じて「ばね指」となり、さらに悪化すると指が動かない状態になります。(参照:日本整形外科学会のホームページ)
参照:日本整形外科学会のホームページ
ばね指の特徴
- 第1指(親指)、第3指(中指)に多く見られます。
- 更年期の女性に多く、妊娠出産期の女性にも多く生じます。
- 手の使いすぎやスポーツや指を良く使う仕事の人にも多く生じます。
- 糖尿病、関節リウマチ、透析患者さんにもよく発生します。これらの場合は、複数の指に見られることが多いです。
ばね指の治療や予防
指の使い過ぎによる炎症が原因になりますので、まずは手にかかる負担を減らすことが大切です。また、関節の動きが悪くなってしまうことを防ぐために、入浴時に温めてストレッチやマッサージをするなどのセルフケアが重要です。
それでも改善しない場合には、整形外科での注射や手術といった治療が必要になります。
日本整形外科学会のホームページ
「ばね指(弾発指)」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
手術により切開するのは腱鞘の一部だけで、小さな傷で済むようです。実際に、手術を受けられた方にお伺いしても、日帰りで施術された場合が多く、手術の効果も高そうです。
まとめ
2回シリーズで、指の関節に痛みを伴う疾患について紹介させていただきました。糖尿病は、血液中の糖の濃度が高い疾患であり、血管を痛めることで問題を引き起こします。血液は血管を流れており、血管は全身に隈なく張り巡らされています。そのため、糖尿病と関わりのある疾患は、今回の手指の疾患にとどまりません。ただし、「ばね指」のみならず、糖尿病と関わりのある疾患、さらには糖尿病自体も、全て予防やマネージメントが出来る疾患です。糖尿病を意識することで、元気で長生きを実現していただきたいです。