ウォークラリー in しあわせの村
腸内細菌叢の一部の種が、腸と脳を繋ぐ経路を介して、運動パフォーマンスを高める働きがあることを、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部の研究グループが、マウスの実験により明らかにしました。科学的に最も価値が高いとされる医学雑誌の1つである「nature(ネーチャー)」誌に報告されましたので、紹介させていただきます。
研究グループは、マウスの運動パフォーマンスの違いが、遺伝的な理由ではなく、腸内細菌叢の違いによるのであることを発見しました。
さらに、この運動に対する効果は、細菌が生成する代謝物が、腸内の感覚神経を刺激して運動中のモチベーションを制御する脳領域の活動を強化していることを突き止めました。
〇腸内細菌叢の種類のうち、ユウバクテリウム・レクターレとコプロコッカス・ユータクタスが脂肪酸アミド(FAA)として知られる代謝産物を産生することを発見しました。
〇脂肪酸アミドは、腸に埋め込まれた感覚神経のCB1エンドカンナビノイド受容体と呼ばれる受容体を刺激し、脊椎を介して脳にアクセスします。脳にあるCB1受容体をもつ神経が刺激されると、腹側線条体と呼ばれる脳の領域で、運動中に神経伝達物質ドーパミン濃度の増加を引き起こしていました。
〇線条体は、脳の報酬とモチベーションのネットワークにおいて重要な役割を担っています。研究者らは、運動中のこの領域におけるドーパミンの増加は、運動への欲求を強化することによってパフォーマンスを向上させると結論付けました。
〇よりパフォーマンスの高いマウスがより強い「ランナーズハイ」(この場合は痛みの感受性の低下によって測定される)を経験したということも明らかにしました。
ランナーズハイという、よく知られた現象も腸内細菌によって少なくとも部分的に制御されていることを示唆しています。
〇研究グループは、腸と脳を繋ぐ経路を介して、依存症やうつ病などに関する領域においても、モチベーションと気分に介入するための、より簡単な方法も生み出す可能性があることにも言及しています。
参考文献:
Nature. 2022 Dec;612(7941):739-747.
doi: 10.1038/s41586-022-05525-z.
A microbiome-dependent gut-brain pathway regulates motivation for exercise
それでは、論文中に明らかになった、ユウバクテリウムやコプロコッカスは、どのような特徴をもつ腸内細菌なのでしょうか。また、これらを増やすためには、どうすればよいのでしょうか。
〇ユウバクテリウムについて
腸内細菌叢の7割程度を占める日和見菌の一種と考えられています。善玉菌でも悪玉菌でもない菌です。
日和見菌は、悪玉菌が繁殖すると悪玉菌に、善玉菌が繁殖すると善玉菌になりやすい性質を持っています。
今回の発見は、日和見菌と考えられていたユーバクテリウムに、運動パフォーマンスに関与する働きを明らかにしたということになります。
〇コプロコッカスについて
消化や吸収を助けたり、免疫機能に関わる働きをする善玉菌と考えられています。ほとんどの人はコプロコッカス属の菌を保有していますが、保有量には差があります。
腸内にこのコプロコッカス属の菌を多くもっている人は、インスリン感受性が高く、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きやすい傾向があることが報告されています(Diabetes 2022;71(11):2438–2446)。
〇腸内細菌叢を改善させる方法
現在、多くの研究者が、正しい方法を明らかにしようとしています。いくつかの手段が明らかになってきていますが、ある種の腸内細菌を特異的に増加させる簡単な方法は、まだ明らかになっていません。
ここでは、糖尿病ネットワークにても紹介されている、ペンシルベニア大学の研究による腸内細菌叢を健康にするための方法を転載させていただきます。
糖尿病ネットワークHPより転載