世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬が血糖値と体重減少にもたらすインパクト ~GIPとGLP-1の糖代謝における作用の違いから考える~
低カリウム血症の原因
前回は、カリウムと糖尿病との関係をご紹介しました。
それでは、血清カリウム値を低くしないためには、どうすればよいのでしょうか。
低カリウム血症を引き起こす原因には大きくわけて、3通りあります。
1.食欲不振や偏食によるカリウムの摂取不足
カリウムは動物性食品や植物性食品に豊富に含まれているので、通常の食事ではほとんど欠乏症はみられません。しかし、食欲不振に陥った場合や、偏食によって、カリウムが不足しているケースも少なくはありません。
カリウムは、果物や野菜類、藻類、豆類、いも類、などに多く含まれます。生鮮食品に多く含まれるため、加工や精製が進むと含量は減少していきます。加工食品を多く摂取している方は、カリウム不足に要注意です。
また、カリウムは水溶性で、煮たりゆでたりすると水に溶け出します。生野菜サラダで摂ったり、生の果物でとったりすれば、効率よく摂取することができます。
2.体外へのカリウム排泄の亢進
カリウムが排出されるルートとしては消化管からと腎臓からの2つがあります。
・消化管からの排出が亢進
嘔吐や下痢が原因となります。つまり、下剤を使い続けることも低カリウム血症を来し得ます。
・腎臓から尿中への排泄
カリウム排泄を促進するアルドステロンと呼ばれるホルモンの異常です。先述しました原発性アルドステロン症では、しばしば低カリウム血症をきたします。
また利尿剤の使用も尿中への排泄亢進から低カリウム血症を引き起こします。
3.血液中から細胞内へのカリウムの移動
血液から細胞内にカリウムの移動を起こす誘因としてはインスリンが有名です。
インスリン注射を適切な量で行っているのであれば問題はありませんが、インスリン注射の量が多くなってしまっている方は、血清カリウムの低下を招いてしまう可能性あります。
また、インスリンの注射をしていない方でも、ご自身の膵臓から分泌されるインスリンの量が増えてしまっている状態では、血清カリウム値の低下を招いてしまいます。
実は、食物をたくさん食べ過ぎることで、低カリウム血症が誘発されたという報告があります。特に、コーラの過剰摂取による低カリウム血症は欧米を中心に多数報告されています。
・Paroxysmal paralytic attacks secondary to excessive cola consumption. Clin Med Res 12 : 61-64, 2014.
・A cola-induced hypokalemic rhabdomyolysis with electromyographic evaluation : a case report. SAGE Open Med Case Rep 5 : 2050313X17695717, 2017.
・コーラの長期過剰摂取により低カリウム血症性ミオパチーを来した一例.日内会誌 94 : 132―134, 2005.
・Chronic hypokalemia due to excessive cola consumption : a case report. Cases J 1 : 32, 2008.
これらでは、コーラに含まれるカフェインや糖質が原因と考察されています。カフェインによるカリウムの細胞内取り込み増加や利尿作用による尿へのカリウム排泄増加と,糖質過剰摂取によるインスリン分泌過剰からのカリウムの細胞内取り込み増加が挙げられています。
これら以外に、カフェイン摂取はなくても、単純に糖質の過剰摂取による低カリウム血症性周期性四肢麻痺(低カリウム血症は、四肢の筋肉の麻痺を引き起こすことがあります)を呈した報告もあります。
・糖質過剰摂取により低カリウム血症性 周期性四肢麻痺を発症した 境界型糖尿病の1例. 日内会誌 108:2333~2340,2019
・インスリン抵抗性を背景としステロイド治療と糖質過剰摂取が誘因となり発症した続発性低カリウム血症性周期性四肢麻痺の1例.日プライマリケア連会誌 39 : 234―237, 2016.
・Severe hypokalemic paralysis and rhabdomyolysis occurring after binge eating in a young body builder : case report. Medicine 96 : e8251, 2017.
血液中から細胞内へのカリウムの移動を引き起こす他の要因として、甲状腺機能亢進症が挙げられます。
さらには、漢方薬にしばしば含まれている甘草という成分にはアルドステロン様の作用があり、低カリウム血症を来しやすいことはよく知られています。
まとめ
皆さまはご自身の血液データをみて、カリウムの値を気にされたことがありますでしょうか。異常値のマークがついていないような軽度の血清カリウム値の低下でも、血糖値のマネージメントに影響するのではないかと考えられます。
もし、血清カリウム値が低めの場合は、他の内服薬にカリウムに影響を及ぼすようなものがないのか、カリウムに影響を及ぼすような疾患が潜んでいないのか、薬剤師や医師に相談してみてください。また、偏食が血清カリウム値に及ぼす影響も無視できません。加工食品が多くなっている方は要注意です。生鮮食品の割合を増やしていくことも検討してみてください。
またカリウムは、糖尿病にだけ影響を及ぼすわけではありません。血液中にカリウムが不足すると、筋肉の動きや神経の働きに異常が起き、体にさまざまな症状が出現します。低カリウム血症は、腎臓病、心臓病、高血圧などとも関連しています。
低カリウム血症の症状としては、脱力感、筋力低下、食欲不振、骨格筋の麻痺などが知られています。これを機会に、カリウムの値にも注目してみてください。