糖尿病によるインスリン作用低下が筋肉の老化や寿命に及ぼす影響についての研究報告
はじめに
最近外来診療をしていて、血清カリウムが低めの方がたくさんいらっしゃるということが気になっています。そこで、今回は血清カリウム値と糖尿病の関係について考えてみたいと思います。
低カリウム血症と糖尿病
糖尿病のマスターホルモンであるインスリンは、膵臓のβ(ベータ)細胞から分泌されます。インスリンが分泌される際に、カリウムが重要な役割を担っている事から、血清カリウムの値(つまり、血液中のカリウムの濃度)が低いとインスリン分泌に影響するのではないかと考えられています。
実際に、臨床の現場でよくみられる利尿剤(高血圧の薬)の服用による副作用としての低カリウム血症が、糖尿病の発症のリスクを上げることはよく知られています。また、高血圧の原因の約5%程度を占めると言われている原発性アルドステロン症の方も、しばしば低カリウム血症を併発し、そのことがインスリン分泌の低下や耐糖能障害(血糖値の上昇)を引き起こすことも知られています。
カリウムと糖尿病の新規発症との関係
低カリウム血症と言われる状態は、血清カリウム値が、3.5mEq/L未満の場合を指します。私たちが外来診療でよく見かける状態は、3.2~3.9mEq/L程度です。つまり、軽度の低カリウム血症あるいは、正常範囲の中で低めの状態です。これらの少しだけ血清カリウムが少ない状態が、糖尿病と関連があるのかを調べた研究があります。
筑波大学と虎ノ門病院の研究グループが、人間ドック受診者の中で、糖尿病と診断されていない方、5938例を対象として、血清カリウム値と、将来の糖尿病発症との関係を調査しました(Diabetologia. 2011 Apr;54(4):762-6.)。
平均年齢は49.0歳、男性75%、糖尿病家族歴13.7%、平均BMI 22.7、平均血清カリウム値4.1mEq/L(最小値2.8mEq/L、最大値5.4mEq/L)でした。
対象とした5938例のうち、5年間の追跡期間中に2型糖尿病を発症したのは255例でした。
2型糖尿病発症の相対リスクは、
血清カリウム値が4.3mEq/L以上の群を1とした場合
血清カリウム値が3.6mEq/L以下の群では2.26倍
血清カリウム値が3.7~3.9mEq/Lの群では1.79倍
となっていました。
また、4.0mEq/L未満の血清カリウム低値は、ほかの危険因子とは独立して有意に高値を示す2型糖尿病発症の危険因子となっていました。
Diabetologia. 2011 Apr;54(4):762-6.
doi: 10.1007/s00125-010-2029-9. Epub 2011 Jan 7.
つまり、正常範囲であっても、血清カリウム値が低い状態であるということは、糖尿病の新規発症のリスクであると言えます。これらは、既に糖尿病と診断されている方であっても、血清カリウム値が低めであることが、血糖値のマネージメントを難しくする原因となっていることを示しています。
次回は、血清カリウム値を低下させないようにする方法をご紹介します。