2型糖尿病≠生活習慣の乱れ ~2型糖尿病をインスリン分泌能とインスリン抵抗性から考える~
はじめに
高齢になると筋肉が老化し、サルコペニアと呼ばれる筋肉量や筋力が低下する状態に陥ることが問題となっています。特に、糖尿病を持つ方では、サルコペニアを呈する割合が高くなることが知られています。
糖尿病を持つ方で、サルコペニアが多くなる仕組みの一部を東京大学医学部附属病院の研究グループが明らかにしたことを2022年10月に発表しました。
研究成果は、「Nature Communications」に掲載されています。
論文は下記のURLからご覧になれます。
Nat Commun. 2022 Oct 5
研究の方法
インスリン作用とは、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンが、様々な細胞の表面に存在するインスリンの受容体に結合することで発揮される働きのことです。糖尿病を持つ方では、このインスリン作用が低下していることが知られています。
今回の研究は、筋肉でだけインスリン作用が低下したモデルマウスを用いて行われました。つまり、筋肉でのみ、インスリンが働かなくなるとマウスにどのような変化が起こるのかを検討しました。
研究の結果
・筋肉でのみインスリンが働かないマウスは、生まれてしばらくは明らかな変化を示しませんでしたが、加齢とともに全身のインスリン抵抗性(インスリンの効き目が悪くなる)と血糖値の上昇を認めました。
・速筋(すばやく収縮する事ができる筋肉)を中心とした筋量減少や筋力・持久力の低下を来たしました。
・上記の原因として、速筋線維の減少、糖代謝の異常、ミトコンドリアの減少と形態異常、活性酸素消去系低下、オートファジー不全、老化の促進などが速筋で観察されました。
・さらに、同マウスでは骨の形成が低下し、骨の老化現象である骨粗鬆症を来たしていました。
・また、寿命が短縮していました。その原因として、衰弱死が増加していました。
研究の考察
筋肉でインスリンの働きが低下することが、筋肉量の低下だけではなく、骨粗鬆症の要因となり、さらには寿命にまで影響するということは、大変興味深いです。
私たちが当コラムで、以前にご紹介した研究結果でも、骨格筋量指数、体幹筋肉量および骨ミネラル量の増加と、HbA1c(血糖の平均値)の低下が関連していました。
詳しくは、下記をご参照ください。
糖代謝状態の変化は筋肉量と骨ミネラル量の変化に影響を及ぼす
これらの結果より、私たちがサルコペニア(筋肉の低下)や骨粗鬆症を予防し、寿命延伸を目指すためには、血糖値をしっかりとマネージメントすること、さらにはしっかりと身体を動かし続けて、筋肉量を維持していくこと、が大切だと考えています。