「高血圧」を知る~前編:高血圧とは~
はじめに
「高血圧」を知る、の前編では、そもそも高血圧がどのような状態なのか、なぜ放置していてはよくないのか、について考えてみました。
後編では、血圧の目標およびその対処法について考えていきましょう。
家庭血圧の意義
血圧をマネージメントする際に、まずはご自身の日常生活における血圧を把握しておくことが大切です。一般に家庭での血圧は、病院よりも低めになります。そのため基準値も少し低く(診察室の血圧-5mmHg)設定されています。したがって、家庭血圧では、「収縮期血圧が135mmHg以上、かつ/または拡張期血圧が85mmHg以上」が高血圧の診断基準です。前編でもお示しした「成人における血圧の分類」(下図)でも、家庭内血圧は、診察室血圧から、5mmHg低い値となっています。
家庭血圧には3つの役割があります。
1. 白衣高血圧を見抜く
診察室や健康診断の時だけ、血圧が高くなる方が少なからずいらっしゃいます。白衣をみると身構えてしまい、血圧が上昇してしまうことを、白衣高血圧と言います、家庭血圧で、正常範囲内であれば、治療の対象にはなりません。
2. 仮面高血圧を見抜く
白衣高血圧とは逆に、診察室で測定するときは正常範囲なのに、日常生活では高血圧になっている場合もあります。これを仮面高血圧と言います。診察室の血圧のみでは、高血圧ではないと判断されてしまうために、心疾患や脳卒中の高リスク群であるとされています。
3. 早朝高血圧を見抜く
血圧には、日内変動があります。通常は、日中より夜間の血圧の方が低くなるとされています。しかし、日中より夜間の血圧の方が高くなっている場合や、本来ならば下がっているはずの早朝に高血圧になっている場合があります。このような方では、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなっています。
したがって、もしワンポイントだけ家庭血圧を測定するとすれば、起床時をお勧めしています。
朝:起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、座った姿勢で1〜2分間安静にした後
1日に2回測定できる場合は、起床時に加えて、就寝前が良いと思います。
晩:就床前(飲酒や入浴の後)、座った姿勢で1〜2分間安静にした後
必ずしも、毎日測定しなければならないわけではありません。週に1,2回の測りやすいタイミングから検討されてはいかがでしょうか。
血圧の目標値
高血圧による血管のダメージや、心臓、脳および腎臓に対するダメージを守るために、日本高血圧学会では、血圧の目標を提案しています。(下図参照)
それぞれの状態により血圧の目標は2段階で設定されています。心疾患、脳卒中および腎臓病を持っていることに加えて、糖尿病を持っている方の血圧も厳格に管理するように示されています。これは、糖尿病も高血圧と同様に血管にダメージを与える状態であるため、併存していることで、より早く心筋梗塞や脳卒中などを誘発してしまうからです。
高血圧の対処法
1. 塩分摂取を減らす
塩分の摂取量は血圧に大きな影響を及ぼします。醤油やお漬物をはじめ、日本人は世界的にみても、塩分摂取量の多い人種です。塩分に含まれるナトリウムは、血液中の水分量を増やすことや、直接血管に働きかけることで、血圧を上昇させます。現在、日本人は1日平均10g程度の塩分を摂取しています。塩分摂取量の目標は、1日6g未満です。加工肉(ベーコン、ハム)、練り物(かまぼこ、ちくわ)、インスタント食品、麺のお汁などには、塩分は多く含まれています。味付けには、塩や醤油などの代わりに、香辛料やレモンなどを利用してみましょう。
2. カリウム、マグネシウム、カルシウムの摂取量を増やす
一方、野菜や果物、大豆製品に豊富に含まれるカリウムには腎臓から食塩を排泄しやすくする働きがあります(腎機能が低下している人は、カリウムの摂取を制限する必要がある場合もあります)。
カルシウムにも血圧を安定させる効果があります。カルシウムが不足すると、副甲状腺ホルモンやプロビタミンDが分泌され、これが心臓や血管を収縮させて血圧を上昇させます。
また、マグネシウムにもカリウムの働きを助けることで、食塩の排出を促す作用があります。マグネシウムは、カルシウムの吸収も助けます。マグネシウムは、海藻やナッツ類、豆類に多く含まれています。
3. 運動量(身体活動量)を増やす
適度に身体活量を増やすことは、血圧にとっても大切です。運動することで、交感神経
のバランスがよくなり、血管が拡張しやすくなり、血圧が下がることが知られています。
また、糖尿病を持つ方では、運動によりインスリンの働きがよくなり、相対的にインス
リンの分泌量が減り、インスリンのもつ血圧上昇機能が弱まります。さらには、尿の排
泄を促進するなどにより、体液量が低下し、血圧を下げることも知られています。
一方で、運動不足だった方が、いきなり激しい運動をすることは危険です。交感神経を
刺激してしまい、かえって血圧を上昇させてしまいます。焦らずに、じっくりと身体活
動量を増やしていきましょう。
4. その他
・禁煙
・過度な飲酒を控える
・ストレスをため込まない
なども大切な要素です。
寒い季節も要注意です。寒い季節は血圧が上昇します。特に、起床時や入浴時には注意が必要です。急激な気温の変化は、血圧に大きな影響を与えてしまい、脳卒中や心筋梗塞の発症の契機となり得ます。
さいごに
前編、後編の2回にわけて、血圧のお話をしてきました。約4300万人と言われる高血圧は、日本で最も罹患率の高い疾患かもしれません。約1000万人と言われる糖尿病も、今回の話題の高血圧もいずれもマネージメントできる疾患です。見て見ぬふりをしないで、前向きに対応していきましょう。