2型糖尿病≠生活習慣の乱れ ~2型糖尿病をインスリン分泌能とインスリン抵抗性から考える~
~はじめに~
2021年度の日本人の死因の第1位は、悪性新生物つまり癌(がん)です。全死亡者に占める割合は、26.5%にのぼります。第2位の心疾患の14.9%を大きく引き離しています。今回は、この「がん」と「糖尿病」の関係について考えてみたいと思います。
~「糖尿病」が「がん」に及ぼす影響~
まずは、下の図をご覧ください。日本糖尿病学会が2013年にまとめた、2型糖尿病と主な癌リスクに関する癌種別の国内外からの報告をまとめたメタアナリシス(過去に行われた複数の臨床研究のデータを統計的方法でまとめて解析したもの)と日本におけるプール解析(複数の研究の元データを集めて再解析する方法)の結果です。
左側のメタアナリシスと書いてある方は、海外のデータも含みますので、右側のわが国のプール解析という方に注目してください。これは、日本における疫学データをまとめたものになります。赤線で示す、大腸がん(相対リスク 1.40)、肝臓がん(相対リスク 1.97)、膵臓がん(相対リスク 1.85)は、2型糖尿病がそれらの発症リスクの増加と関連があると考えられています。また、図ではお示ししていませんが、全てのがんで検討すると、2型糖尿病であることは、全癌発症のリスクが1.2倍上昇する可能性が示唆されています。
2型糖尿病による癌発生促進のメカニズムとしてはインスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症,高血糖,代謝異常に伴う炎症などが想定されています。
一方で、一言で糖尿病と言っても、血糖値のマネージメント状況は人それぞれです。2型糖尿病であっても、血糖値のマネージメント状況がよければ、がんのリスクは上昇しないのではないかと考えられています。しかし、残念ながら、血糖マネージメントと癌罹患のリスクについては、現時点で明確なデータがありません。日本糖尿病学会では、がんと糖尿病に関する更なる調査を進めていると伺っていますので、結果の公表を待ちたいと思います。
~「がん」が「糖尿病」に及ぼす影響~
これまでは、2型糖尿病であることが「がん」の発症リスクを上げるかもしれないという話でした。次に、「がん」であることが、2型糖尿病の発症リスクを上げるかもしれないという報告を紹介します。
デンマークのコペンハーゲンに住む全地域住民を対象とした大規模なコホート研究です。
注:コホート研究とは、同じ地域に住んでいる、などの共通の特性を持つ集団を追跡して、その集団からどのような疾病が発生し、また健康状態が変化したかなどを観察して、各種要因との関連を明らかにしようとする研究です。
下の図をご覧ください。赤い点になっているがんの診断後に2型糖尿病発症リスクが有意に上昇したことを示しています。一番下にある、すべてのがんでは、がんによって、2型糖尿病になるリスクが1.09倍上昇していたという意味です。がんの種類別では、膵臓がん(ハザード比5.00)、脳・神経系腫瘍(ハザード比1.54)などでリスクが特に高く、子宮体がん、肺がん、尿路系腫瘍、乳がんでも、2型糖尿病の有意なリスク上昇が認められました。その一方で、メラノーマ、リンパ系・造血器腫瘍、前立腺がんでは、2型糖尿病リスクの有意な低下が認められました。
次にお示しするデータは、がん診断から2年後に生存していた2万8,308人のサブグループを対象に、がん診断後に発症した2型糖尿病の生命予後に及ぼす影響を解析したものです。2型糖尿病を発症していないがん患者に比べて、がん診断後2年以内に2型糖尿病を発症していた患者は全死亡リスクが21%有意に高いことが明らかになりました(ハザード比1.21)。青線が2型糖尿病を発症しなかった群で、赤線が2型糖尿病を発症した群です。縦軸に示す、生存確率が2型糖尿病を発症した群では、癌と診断されてからの年数が経つにつれ、2型糖尿病を発症しない群よりも低下しています。
~まとめ~
「糖尿病」が「がん」に及ぼす影響、および「がん」が「糖尿病」に及ぼす影響について紹介しました。いずれも、高血糖状態やインスリン抵抗性の状態を放置しておくことは、身体に望ましくない影響を及ぼす可能性を示唆しているものだと考えています。糖尿病を持つ人も持たない人も、高血糖状態やインスリン抵抗性の状態を引き起こさないように、食べるものや身体活動量などに少しでも興味を持つことが元気で長生きに繋がっていくのではないでしょうか。