糖尿病を持つ人の生命予後について
はじめに
糖尿病は症状が出にくい、あるいは気づきにくいために放置してしまいやすい疾患群です。実際に私達のクリニックを初めて受診される患者さんの半数以上は、健診などで高血糖を指摘されたなどで来院され、生活に支障があるような症状はありません。そんな中、ご自身で糖尿病を疑って来院される方の中で多い症状の1つが、「足や手のしびれ」です。
そこで、今回は糖尿病性神経障害について考えてみたいと思います。
糖尿病で神経が障害される理由
糖尿病を放置してはいけない最大の理由は、血管が傷つけられてしまうことです。糖尿病は血液の糖濃度が高い状態です。血液は血管の中を流れています。したがって、血液の糖濃度が高いことで血管を痛めてしまい、合併症を引き起こします。それゆえ、糖尿病は「血管の病気」であるとも言われます。高血糖が持続すると、全身の血管が痛む可能性があるわけですが、その中でも細い血管が重要な役割をしている3つの臓器の障害に特に気を付けなればなりません。それが、糖尿病の3大合併症である神経障害、網膜症(眼)、腎症です。神経(しんけい)、眼(め)、腎臓(じんぞう)の頭文字をとって、「しめじ」という覚え方が有名です。
神経障害は、毛細血管から栄養をもらっている神経細胞が、毛細血管がダメージを受けることで、障害されることが病因です。一般的にはHbA1c 7%以上の高血糖が長期間持続すると生じてくると言われています。
糖尿病性神経障害の症状
神経が障害されると様々な症状が起こります。特に糖尿病性神経障害では、足の違和感を訴えられることが多いです。典型的には、両足先に左右対称に生じる痺れ感・痛み・冷感や、足底に薄皮が張り付いているような違和感と表現されます。これらは、感覚神経の障害によって起こります。さらに悪化してくると、痛みに対する感覚が低下してきます。これは神経細胞が死滅してきていることを意味します。ケガや炎症が生じていても全く気が付くことが出来ずに、気がつけば足が壊疽していて、切断に至るようなケースもあります。
胃腸運動の異常にも注意が必要です。胃や腸の動きは、自律神経によって精巧に管理されています。その自律神経が障害されることで、便秘や下痢を繰り返すなどの便通異常や、胸やけ、消化不良などの胃症状が起こります。
これら以外にも、起立性低血圧(たちくらみ)、排尿障害、勃起障害、発汗障害(無汗症)、足の変形、眼球運動障害、顔面麻痺など、様々な症状が起こり得ます。これらの症状により、生活の質(QOL:quality of life)を大きく損なうことがあります。さらには、心臓神経の障害による致死的な不整脈により突然死の原因にもなり、生命予後にも大きな影響を及ぼしかねません。
糖尿病性神経障害(2)に続く