始業式から1週間。不登校から脱した矢先に子どもが再び休み始めました。
いま指導しているA君は小5くらいから本格的に不登校になりました。
中3になるまで全く学校に行ってなかったのでお母さんは高校進学のことを心配されていました。
なにせ中1の正負の数の計算もわかっていないので、受験のための勉強といってもどこから手をつけたらいいかわからないというのが現状でした。
本格的に不登校が始まるのは小学5年生から
登校しぶりは小学1年生から始まりますが、完全に不登校になるわけではなく行ったり行かなかったりを繰り返しながらだましだまし学校に通わせているという姿が4年生くらいまで続きます。
しかし5年生あたりから、学校を休む期間が長くなり本格的な不登校が始まります。
<10歳を超えると不登校が増える理由>
これは学校生活に違和感を感じ続けていた子供が、精神的限界を迎えるのがこのあたりに多いからだと推測されます。
ではなぜ、5年生あたりで限界を迎えるのか。
これは、10歳を超えると次第に自我が芽生え始め、周りの目が気になり始めたり、自己嫌悪が始まることから心理的苦しさが一段と増すからだと考えられます。
<不登校が長期化する背景には発達障害がある>
また小学5年生から本格的に始まった不登校は中学校に入学しても続くことが多く、高校受験を控えていることもあって親の悩みは深刻です。この原因の一つには「発達障害」の問題があると思われます。
もともと学校生活が苦痛な「発達障害」の子にとって、「やらなければいけないこと」が増え、空気を読まなければならず、みんなに合わさなければいけない中学校は苦痛と緊張をしいられる場であり、いわば大人にとっての「自分に合わない職場」のようなものです。
<不登校の子どもへの対応とその理由>
この時期の不登校の子にとって一番いい対応は「ゆっくり安心して休ませてあげる」ことです。
一時、頑張って学校に戻れたとしても基本「学校に合わない子」は、いずれ苦痛と緊張と不安の蓄積により不登校が再発することは目に見えているからです。
<中学3年生になると子どもから行動を起こし始める>
そうしてその子が不登校のまま中学3年生を迎える頃になると、その子なりに自分の将来や高校進学のことが気になり始め「このままではダメだ。高校に行くために行動を起こさなければ」という気持ちが起こってきます。
中には中3から別室登校や適応教室に通い始めたり、家庭教師を始める子もいます。
基礎力が全くない中3生に「展開・因数分解」から教える勉強法
そのA 君がこの4月から午前中だけの別室登校ではありますが、学校に通い始めるようになりました。
中学校の数学の知識は全くありませんから、学校では「正負の数の計算」からやっているようでした。
<正負の数を「展開・因数分解」をやりながら身につける>
僕は思い切って次のような提案をA君親子にしました。
「中1の基礎から順番にやっていたら受験に間に合わない。
先生が受験に出る問題や高校で使う問題だけ教えてあげるから、
3年生が今習っている『展開・因数分解』から勉強を始めよう。
正負の数の計算ができてなくても大丈夫。
展開、因数分解をやりながら身につければいいから。」
<中3の問題がやれる!わかる!それが希望とやる気につながる>
お母さんはA君の中3の同級生たちが今習っている所を勉強するということに希望を見出されているようでした。それはA君も同じで前向きなやる気が感じられました。二人とも指導を始める前から嬉しそうでした。
<基礎力がない子には正解する手順を繰り返し練習させる>
さて4月の下旬から家庭教師をスタート。
まずは次のような問題から手取り足取り丁寧に優しく教えていきました。
2a(a+6b)
3a(a−3)+a(2a−4)
(x+2)(x+1)
まずは僕が解いてみせる。
「2aとaをかけたら2aの二乗になる。こんなふうに書くよ。次に2aと+6bをかけて+12ab。これで正解。簡単やろ。やってごらん。」
「そうそう。それでいい。簡単やろ。じゃあ次行くよ。」
ポイントは
1、やって見せて、その通りにやらせる。
2、簡単だと思わせる。
3、理解させるのではなく真似をさせる。
繰り返し繰り返し真似をさせる(正解の手順を繰り返す)と脳が自然に法則性を見つけ出すようになって、感覚的に「この場合はこうするんだな」とわかるようになる。
<基礎力のない子に「展開・因数分解」を指導するポイント>
<指導ポイント>
1、やって見せ、やらせて見せて、「出来た」と共に喜ぶ
2、理解させようとしないで、技術を伝える感じで真似させる
3、同じ問題を何度も繰り返し、感覚的に法則性を身につけさせる
4、理解させようとするのではなく、正解への手順を覚えさせる
5、指導は前々回、前回身につけた所の復習から始める
6、どれほど出来るようになったのか進んだのか実感させる
<出来ると嬉しいからやる気が出る、勉強が楽しくなる>
このように指導していくとA君はどんどん勉強に積極的になっていって、学校の別室の授業でも「展開、因数分解」を自主的に勉強してくるようになりました。
今では次の「平方根の計算」(√:ルート)の勉強をするのを楽しみにしています。
<因数分解をすることで九九が出来るようになった?>
実はこの指導の仕方は、以前同じような状況にある中3の生徒にやってみて上手くいった経験がありました。
この子は小学校の早い時期から不登校気味で依頼があった中3の6月までには約4年間完全な不登校でした。中学校の基礎どころか小学校の基礎もできていない状態でした。HSP傾向がある発達障害でした。
だけど、親子ともいい意味で開きなおっておられました。
指導する僕自身も開き直って「君の同級生が今やっている展開・因数分解から教えてあげる。正負の数はその中で身につけたらいいから。」と思い切った指導を提案しました。
その子は高校へ行きたいと言っていました。高校へ行くには入試があります。中1〜3の受験勉強をしなければなりません。今は中3の6月です。小学校の復習からしていたら間に合うはずがありません。
それで思い切ってその提案をしてみたのです。
それが見事ハマったのです。
驚くなかれ。その子は高校入学までに高校で必要となる中学校の数学的知識を全部身につけられたのです。現在高2ですが、元気に楽しく高校に通っています。成績も優秀で今では大学を目指しています。現在も家庭教師としてその子を指導しています。
その子に一度「口コミ書いて」と頼んだことがあったのですが、「ぼくは小学校から不登校になって、かけ算が出来なかったけど、先生に教えてもらって今では三平方の定理も出来るようになりました。」と書いてくれました。それでそのことについて聞いてみると、因数分解している中で九九も出来るようになったと教えてくれました。
<不登校の受験生は何から勉強していいのかがわからない>
長年不登校だった子は基礎力がないことを自分が一番よく知っています。
そして高校には進学したいけれど勉強を一体どこから手をつけていいかわからなくて途方に暮れているというのが本当のところなんですね。
<大切なのはやる気が起こる具体的な方法を示すこと>
そこに「こうすればいいんだよ。こうすればちゃんと中学校の基礎は身につくし、高校受験だって心配ないんだよ。」とその具体的な方法論を提示してあげて、実際にやってみたら出来たと自信をつけていく。
それが安心感や前向きな意欲につながっていきます。
そして家庭教師と信頼関係を築いていく中で「人に対する信頼」も取り戻していくのです。
<「人に対する信頼感」ができれば前に出られるようになる>
不登校の子は先生や同年代の子が怖かったり、人といるとすごく疲れたりすることがあるものです。
それは人に対する警戒心や不信感が人一倍強いからです。
安心して人と関わるためには「人に対する信頼」が必要です。
「人に対する信頼」が持てるようになれば、学校にも社会にも出られるようになるのです。
人権講演会、教育講演会を行っています。
http://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/64075/