コラム
「墓じまい」を考える前に読んでほしい物語(10) 「一片の桜」/咲ママさん(28歳)
2017年8月11日 公開 / 2017年8月15日更新
お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」
一見、同じように見えるお墓だが、実はそれぞれのお墓には、
それぞれの思いと数々のエピソードがあります。
全国の墓石を含む石材関連業者約1,300社が加盟する、
日本最大の業界団体である、(一社)日本石材産業協会では、
お墓にまつわる感動的なエピソードを集めた小冊子、
「お墓物語」を、2011年3月に発行いたしました。(非売品)
「お墓物語」を発行するにあたり、作品を募集したところ、
全国各地から数多くの応募作品が寄せられました。
その中から33名の方の作品がこの小冊子に収められています。
涙あり、笑顔あり、驚きありの素晴らしい物語ばかりです。
マスコミ等で「墓じまい」ばかりが大きく取り上げられる昨今において、
「お墓ってこんなに素晴らしいものなんだよ」ということを、
今一度、一人でも多くの人に気づいていただければと思い、
ここに、33話、全ての物語を順にご紹介させていただきます。
これまでに、以下の9つのをご紹介いたしました。
「お墓物語」作品紹介(1)「祖母との出会い」/三浦るるさん
「お墓物語」作品紹介(2)「お墓参りの不思議」/伊東徳久さん
「お墓物語」作品紹介(3)「祖父のお墓で」/水野真由美さん
「お墓物語」作品紹介(4)「おはからい」/漣ほたるさん
「お墓物語」作品紹介(5)「星よりも近く」/倉木敬人さん
「お墓物語」作品紹介(6)「泣き虫」/藤田徹朗さん
「お墓物語」作品紹介(7)「田舎のお墓を訪れて」/長坂隆雄さん
「お墓物語」作品紹介(8) 「祖母の墓を抱きしめて」/梅山太郎さん
「お墓物語」作品(9) 「祖母VS母・お墓バトル」/森下純一さん
今回は、大分県在住の咲ママさん(28歳)の作品、
「一片の桜」 をご紹介させていただきます。
心温まるエピソードを通じて、家族や大切な方との絆や、
命の尊さを考えていただくきっかけになればと考えております。
「一片の桜」/咲ママさん(28歳・大分県)
月一度、ドライブがてら家族でお墓参りに出掛ける。
車でおよそ一時間、主人と私ともうすぐ二歳になる娘。
海や山の広がる景色を眺めながらのドライブは、
いつも気持ち良い。
「○日はお墓参りにしよう」と決めると、
その日は必ず晴天になる。
まるで私達を迎えるために、
天国の祖父がお天道様に頼んでいるようだ。
この月一度のお墓参りで、毎回不思議なことがある。
お墓の前に行くと娘が必ず笑顔になるのだ。
帰る時には何度も振り返り名残惜しそうにする。
「ひいおじいちゃんが見えるのかな」と、
主人といつも上段まじりに話していた。
先日のお墓参りは桜が満開、
やはり風ひつない晴天の日だった。
山のふもとに建っている祖父のお墓を囲むように、
幾本もの桜の木が華やかにお化粧をしていた。
お酒の大好きだった祖父。
「みんなでお花見ができるね」と、
主人が湯飲み茶碗に日本酒を並々注ぎ供えた。
線香は毎回娘が供えると決めてある。
「そおっとね」と促すと、小さな手で器用にさした。
その時、ふいにあたたかな風がふわりと私達を包み込んだ。
「あ、お花、お花」
娘が歓声を上げる。
見上げると桜の花びらがお墓に、
私達の頭上に、辺り一面に舞っていた。
幻想的な光景に私と主人はただただ見惚れていた。
娘はキャッキャとはしゃぎまわる。
その娘の頭に一片の桜の花びらが舞い降りた。
ふいに、幼い頃、祖父がいつも私の頭を、
やさしく撫でてくれたことを思い出した。
「いい子じゃなぁ。大きくなれよ」
祖父があの頃と同じようにして、
きっと今、娘の頭を撫でている。
ごつごつとしたあの大きな掌(てのひら)で、
しわくちゃのあの笑顔で。
私達をこの空の上から見守ってくれている。
そんな気がして涙が溢れた。
一片の花びらは、いつまでも静かに、
娘の細い髪に留まっていた。
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なお、部数に限りがありますので業者の方のお申し込みはご遠慮ください。
~つづく~
次回は、棚橋すみえさん(60歳・高知県)の作品、
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