「墓じまい」を考える前に読んでほしい物語(7) 「田舎のお墓を訪れて」長坂隆雄さん(78歳)
お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」
一見、同じように見えるお墓だが、実はそれぞれのお墓には、
それぞれの思いと数々のエピソードがあります。
全国の墓石を含む石材関連業者約1,300社が加盟する、
日本最大の業界団体である、(一社)日本石材産業協会では、
お墓にまつわる感動的なエピソードを集めた小冊子、
「お墓物語」を、2011年3月に発行いたしました。(非売品)
「お墓物語」を発行するにあたり、作品を募集したところ、
全国各地から数多くの応募作品が寄せられました。
その中から33名の方の作品がこの小冊子に収められています。
涙あり、笑顔あり、驚きありの素晴らしい物語ばかりです。
マスコミ等で「墓じまい」ばかりが大きく取り上げられる昨今において、
「お墓ってこんなに素晴らしいものなんだよ」ということを、
今一度、一人でも多くの人に気づいていただければと思い、
ここに、33話、全ての物語を順にご紹介させていただきます。
これまでに、以下二つのをご紹介いたしました。
「お墓物語」作品紹介(1)「祖母との出会い」/三浦るるさん
「お墓物語」作品紹介(2)「お墓参りの不思議」/伊東徳久さん
今回は、神奈川県在住の水野真由美さん(20歳)の作品、
「祖父のお墓で」をご紹介させていただきます。
心温まるエピソードを通じて、家族や大切な方との絆や、
命の尊さを考えていただくきっかけになればと考えております。
「祖父のお墓で」/水野真由美さん(20歳・神奈川県)
祖父の墓に手を合わせた後、私は父に問いかけた。
「ねぇ、おじいちゃんが亡くなったとき、お父さんは悲しかった?」
答えはもちろん分かっていたが、なぜか問わずにはいられなかった。
「ああ、とても悲しかったよ」と父は少し寂しげに答えた。
父の父、つまり私の祖父は生まれつき身体が弱く、50代で亡くなった。
祖父は自分の妻と息子二人、娘一人と暮らしていたのだが、
長男と長女は生まれつき精神的な障害を持っていた。
そのため祖父が亡くなってからは、祖母と次男である父は、
いくつもの大きな苦労を乗り越えて生きてきたと言う。
父、母、祖母と共に墓石をきれいにし、周囲を掃除した。
その後、再び手を合わせた。
私は会ったことのない祖父に心の内で語りかけた。
『おじいちゃん。おじいちゃんは天国に行く前、
どんなに家族のことが心配だったろうね。
特に伯父さんと伯母さんのことが。どんなに気にかけていただろうね』
祖父の無念さを思うととても切ない気持ちになった。
「真由ちゃんが来てくれたよ。嬉しいでしょう」と祖母が呟いた。
墓地を後にし、帰りの途中の茶屋で休憩することになった。
父は私が団子を注文したのを見て、「お父さんも小さかったころ、
お墓参りの後にここで団子を食べたよ。それが嬉しくて、
いつもお墓参りは楽しみだったなあ」と懐かしそうに口を開いた。
「そうそう、あんたは昔から食いしん坊だった」
祖母がうんうんとうなずき、それを聞いて母が「まあ」と笑った。
「確かにおいしい、このお団子」
口を動かしつつ、私は言った。
私も食いしん坊。
父も、そしてもしかしたら、祖父もそうだったのかも。
茶屋から出て、夕暮れの中を歩く。
父、母、祖母の背中を見つつ、私はまた祖父に語りかけた。
おじいちゃん、生きてくれてありがとう。
私のお父さんを育ててくれてありがとう。
おかげで、今私は大切なみんなと一緒に生きていられるよ。
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~つづく~
次回は、漣ほたるさん(28歳・大阪府)の作品をご紹介させていただきます。
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