トヨタの吉村達彦博士が提唱する未然防止手法の核心:従来の品質管理手法との違い、「GD3(GDキューブ)」の具体的なメカニズム

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の底力

吉村達彦博士が提唱する未然防止手法の核心について、従来の品質管理手法との違いや「GD3(GDキューブ)」の具体的なメカニズムを深掘りして解説します。

1. 従来の未然防止が失敗する理由:「穴埋め作業」の罠
多くの企業では、未然防止のためにFMEA(故障モード影響解析)やFTA(故障木解析)、なぜなぜ分析などの標準的なフォーマット(手法)が導入されています。しかし吉村博士は、これらが「単なる穴埋め作業」に陥っていると強く警告しています。

思考停止の穴埋め: フォーマットの空欄(穴)を与えられると、人間は過去の経験や学校のテストのように反射的に穴を埋めようとします。穴を埋めることだけに集中すると、深く考えずに済むため作業としては非常に効率的ですが、本質的な潜在リスクの発見には繋がりません。

タコツボ化(サイロ化): 共通フォーマットの穴埋めだけに依存すると、各部門が自部門のタコツボの中に閉じこもったまま作業を完了させてしまい、部門間の連携や議論が形骸化してしまいます。

2. 未然防止の根本思想:「パレート的発想」から「ハインリッヒの法則」へ
欧米企業などで一般的な「パレートの法則」に基づいたアプローチは、表面化している上位20%のトラブルに対応して80%の効果を得ようとする効率重視のやり方です。

しかし、重大な品質トラブルを未然に防ぐためには、ハインリッヒの法則(1件の重大事故の背景に29件の軽微事故、300件のヒヤリハットがある)の土台にある「潜在リスク」に対処しなければなりません。

品質におけるヒヤリハットや潜在的な問題は、「意識して観察しに行かないと絶対に見えない」という特徴があります。この見えないリスクを能動的に掘り起こすことこそが、未然防止のスタートラインとなります。

3. 吉村流・未然防止手法「GD3(GDキューブ)」の具体的プロセス
「GD3(GDキューブ)」は、フォーマット埋めの思考停止を打破し、全員で潜在リスクを発見して価値を創造するための思考フレームワークです。

① Good Design(優れた設計の継承)
まったく新しいものをゼロから作るのではなく、過去に実績がありトラブルのなかった優れた設計(実績設計)を確実にベースとして引き継ぎます。

② 「差(変更点・変化点)」への着目
リスクや品質トラブルは、過去の優れた設計との「差(変更した点や使用環境の変化)」から発生します。何を変え、何が変わらないのかという「差」に着目することで、確認すべきリスクの範囲を明確に絞り込みます。

③ Good Disection(グッド・ダイセクション/現物観察)
「ダイセクション」とは解剖・観察を意味します。書類上のデータだけで判断するのではなく、試作品や現物を徹底的に観察し、分解・分析して違和感を探し出します(「よく見て騒げ」)。現物を意識して見抜くことで、隠れている潜在問題を浮き彫りにします。

④ Good Discussion(グッド・ディスカッション/対等な議論)
見つかった潜在リスクに対し、企画・設計・実験・製造・販売といった関係者がタコツボから出て、対等な立場で「未来のお客様」のために議論(ぐるぐる議論)を戦わせます。

4. 未然防止を機能させる組織メカニズム
単にGD3の手法を導入するだけでは未然防止は定着しません。組織全体で機能させるために、以下の仕組みが不可欠とされています。
「黄色の領域(意識・顧客価値)」の強化: 経営システムにおける「ルール(赤)」や「手続(青)」を守るだけでなく、「お客様の期待に応える付加価値をつける」という「意識(黄色)」を全員が持ち続けることが必要です。

主査(チーフエンジニア)による牽制: 各エンジニアが上司受け狙いの仕事や部門都合の穴埋め作業に走った際、製品全体を統括する主査が「それは本当にお客さんのためになるのか」と横やりを入れ、顧客視点(PMF)へ強制的に引き戻します。

まとめ
吉村流の未然防止手法とは、単にFMEAなどの書類を完璧に作成することではありません。

「過去の設計からの『差』に着目し(Good Design)、現物を徹底的に観察して潜在リスクを引っ張り出し(Good Disection)、部門を超えてお客様のために本音で議論をたたかわせる(Good Discussion)」という一連の動作を、組織のカルチャーとして根付かせることに本質があります。

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濱田金男
専門家

濱田金男(製造業技術支援サービス)

合同会社高崎ものづくり技術研究所

熟練の暗黙知を、全員が使える武器に:日本初、AI品質管理:濱田式AI品質スタンダード ・生成AI活用で作業の形骸化・属人化防止・トラブル未然防止 ・ベテランの思考プロセスを可視化、みんなで再利用

濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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