世界最強の戦艦大和を完成させた原動力:その3つの理由とは?
日本のものづくりの強みとして語られる「ボトムアップのカイゼン」や「すり合わせ技術」。
しかし、グローバルな巨大企業を経営するためには、欧米企業が得意とする「厳格なルールや標準システム」も不可欠です。
では、トヨタ自動車はどのように現場の「すり合わせ」の強みを維持しながら、組織の「ルールや標準」と絶妙なバランスを取っているのでしょうか?
元トヨタの技術者であり、米ゼネラル・モーターズ(GM)のエグゼクティブ・ダイレクターも務めた吉村達彦博士の実体験とエピソードを交えながら、その秘密をブログ形式で解き明かします。
1. 経営システムを形作る「3つの領域(赤・青・黄色)」
吉村博士はGMに着任した際、トヨタとGMの経営システムの違いを**「3つの円」**を使って説明しました。
赤の領域(ルール・責任体制): 明確な職務範囲や組織の決まりごと。
青の領域(手法・システム): 標準化された作業手順や品質管理システム。
黄色の領域(意識・顧客価値): 「お客様の期待に応え、製品に付加価値
をつける」ための意識や議論(PMF:プロダクト・マーケット・フィット)。
欧米の雄であるGMは、赤(ルール)と青(システム)がガチガチに完成された非常に素晴らしい会社でした。しかし吉村博士は、「GMに足りないのは黄色の領域であり、トヨタはこの黄色の領域(顧客価値の意識)を中心に仕事をしている会社だ」と指摘しました。
赤と青(ルールや標準)は「正しい仕事をするための最低限の土台」に過ぎず、それだけでお客様を感動させる車は作れません。
2. 現場のエピソードで見るトヨタとGMの決定的違い
吉村博士や開発メンバーが実際に体験したGMとの比較エピソードには、両者の文化の違いが鮮明に表れています。
エピソード①:改善提案に対するアプローチの違い
あるブレーキ技術の改善提案を行った際、GM側の反応は「良いことを聞いた。これをシステム(標準)に取り入れよう」というものでした。
提案者は「目の前の車をより良くしたい」という想いで提案したのに対し、GMは「新しいルールや標準を作る材料」として受け止めたのです。
ルールやシステムの更新を重視するあまり、目の前の製品やお客様に向き合う視点が薄れてしまう例と言えます。
エピソード②:「私はマネージャーだから知らない」vs「現場に下りてくる役員」
GMのマネージャー層(MBA取得者など)は、「私はマネージャーだから技術の細かい話は知らないし、口も出さない」というスタンスを徹底していました。職務範囲(赤の領域)を守ることが正義とされていたためです。
一方のトヨタでは、役職が上がった役員(元主査で「大長」と呼ばれた和田副社長など)であっても、部品1個の形状や削り代まで細かくチェックし、現場やすり合わせの議論に容赦なく踏み込んできました。
エピソード③:「言われた通り作る」vs「対等にぐるぐる議論する」
GMの設計部門は「サプライヤー・マネジメント・チーム(SMT)」と呼ばれ、外部調達部品を組み合わせる(インテグレーションする)役割が中心でした。
窓のモールを外す作業をしている技術者に理由を聞くと「企画から言われたからそのままやっている」と答え、顧客視点での議論が存在しませんでした。
トヨタでは、企画・設計・実験・販売の各部門が「片手でお客様を共有し、対等な立場でぐるぐる議論(すり合わせ)」を重ねて製品を作り上げます。
3. トヨタはどのようにバランスを取っているのか?
「すり合わせ」や「ボトムアップ」は日本の強みですが、一歩間違えると「部門のタコツボ化(サイロ化)」や「上司に向けた忖度工作(穴埋め作業)」に陥る危険があります。
トヨタが「ルールや標準(赤・青)」を土台にしつつ、「すり合わせの強み(黄色)」とバランスを取れている最大の理由は、「車両主査(チーフエンジニア)」の存在にあります。
タコツボ化を壊す「横やり」: 各部門のエンジニアが上司や自部門の都合だけで仕事をしようとした時、車両主査が「それは車(お客様)を良くしているのか?」と横やりを入れます。
顧客価値(イエロー)への強制引き戻し: 主査が製品全体の価値(PMF)とコストを掌握しているため、部門ごとの硬直したルールや壁を突き崩し、全員を「お客様のためのすり合わせ議論」へ強制的に引き戻します。
4. 日本企業が陥る「ミニGM化」への警告
吉村博士がGMから日本へ戻った際、多くの日本企業が「GMのスモール版(ミニGM)」になっていることに衝撃を受けたと言います。
ルールやフォーマット(FMEAやFTAなど)の穴埋め作業に追われ、部門ごとのタコツボに閉じこもり、肝心のお客様に向き合う「黄色の領域」がどんどん小さくなっていたのです。
トヨタの強みは、標準やルール(赤・青)を軽視することではありません。それらを土台としてしっかり維持(正しく管理)しながらも、トップから現場、主査に至るまで全員が「お客様の期待を超える付加価値(黄色)」を意識して対等に議論し続けるカルチャーを持っている点にあります。
まとめ
欧米型(GM等): 赤(ルール)と青(システム)が強固だが、現場の意識や顧客価値(黄色)が置き去りになりやすい。
日本企業の病(ミニGM): ルールやフォーマットの「穴埋め作業」に没頭し、黄色の領域が縮小してしまう。
トヨタ型: 赤・青の標準を土台としつつ、主査のリーダーシップと「GD3(Good Design / Good Discussion / Good Disection)」のカルチャーで、黄色の領域(すり合わせ・顧客価値)を極限まで拡大させている。
自社の組織が単なる「ルールの穴埋め作業」になっていないか、もう一度「未来のお客様」に向き合った対等な議論(すり合わせ)ができているかを見直すことが、現代の日本企業に最も求められています。


