会社の会議:オンライン会議のファシリテーション:会議開催中の確認チェックリスト
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
あなたが参加する会議は合意が形成されたことを確認していますか?
東洋経済オンラインの2021年6月19日の記事『意味がないのに横行しているムダな仕事トップ3』という、株式会社圓窓代表取締役の澤 円氏の記事です。一部抜粋いたします。
『かつてマイクロソフト社にいたとき、僕のチームに日本企業の人たちがビジネスインターンとして常駐していました。ある日、僕はそのうちのひとりの言葉に衝撃を受けました。彼は、こう言ったのです。
「会議でなにかが決まるところをはじめて見ました」
僕は、心底驚きました。会議でなにも決めないなんて僕は絶対にしないし、そもそもなにも決まらない会議を招集すること自体ありません。』
私が会社員だったときに、ある地方自治体から中堅職員の方がインターンにこられていました。こういう会議は始めて経験した、というようなことをおっしゃっていました。
意識して「何も決めない会議を開く」という部門があると聞いたことがあります。
私には信じられません。
このコラムは、会議について考えます。意識して何も決めない会議を開催することはさておき、決まった・合意が形成できたと思っていたものの「一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった」会議はあり得ると思います。会議に費やされたエネルギーや時間は無駄になってしまいます。このコラムでは、これを問題として掘り下げ、課題を抽出し、対策を考えます。
このコラムは下記の3つの章で構成します。15分程度で読める量です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. このコラムで扱う問題を定義する
冒頭部分で書いたとおり、このコラムでは「会議で一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった」という問題を扱うこととします。
会議の終了時刻が近づいてきて、しかも数回会議を重ねたような場合、「それでは◯◯という感じで結論としてよろしいでしょうか?」と曖昧な感じで終わってしまうことがあると思います。曖昧なまま合意としてしまうことも問題としましょう。
トランスクリプトのような議事録とか録音は残っているとしましょう。そもそも話し言葉というものは、それほど論理的に話をする人は少なくて、曖昧な表現だったりします。ですから、後から「なぜこういうことになったのだ?」と問われても、トランスクリプトの行間を読む(空気感を読む)ようなことになってしまい、「◯◯と言ったよね」と言っても、「□□という意味で言ったんだよ」と、どうしようもない状態になってしまいます。
「会議で合意が形成されたと勘違いしたのはなぜか、後から理由を追いかけることはできない」ことも問題とします。
2. 問題を掘り下げ、課題を抽出する
1章で定義した問題は、下記の3つです。
- 会議で一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった
- 曖昧なまま合意としてしまう
- 会議で合意が形成されたと勘違いしたのはなぜか、後から理由を追いかけることはできない
2章では、この3つの問題を掘り下げて、課題を抽出します。
問題「会議で一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった」と「曖昧なまま合意としてしまう」の課題を抽出する
まず最初の2つ「会議で一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった」と「曖昧なまま合意としてしまう」を考えます。
ハイコンテクスト (High Context) とローコンテクスト (Low Context) をご存知でしょうか?
私はオンラインセミナーを開催していまして、参加者の方々に尋ねることがあります。おおよそ、2〜3割の方がご存知です。
言葉の説明から始めることにします。
コンテクスト(Context)
コミュニケーションの基盤である言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性など
ハイコンテクスト(High Context)
コンテクストの共有性が高い。
伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境。しかし、その環境が整わないと一転してコミュニケーションが滞ってしまう。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなってしまう。
ローコンテクスト(Low Context)
言語によりコミュニケーションを図ろうとする。(見方を変えればコンテクストに頼った意思疎通が不得意とも言える) そのため、言語に対し高い価値と積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する諸能力 (論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力) が重要視される。
日本は、ハイコンテクストの文化だと言われています。上の説明「伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境」。あなたが参加する会議はどうですか?
もし「日本人は全員同じ言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性などを持っている」という命題を作ったら、これは正しいでしょうか?
同じコンテクストを持っている人もいるし、似たようなコンテクストを持っている人もいるし、異なるコンテクストを持った人もいるのではないでしょうか?そして、誰かが正しい、ということではないと思います。詩人金子みすゞが綴ったように「みんなちがって、みんないい」のだと思います。
私が思っていることが正しいと仮定すると、日本人同士であってもコンテクストが多様化していて、ローコンテクスト型のコミュニケーションが必要になってきていると思います。「伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境」は会社の中にはないと考えるべきだろう、と私は思うのです。
今までハイコンテクストな世界で働いてきた人たちにとっては、「俺が言ったことの意味を察してほしい」という気持ちが強く働きます。これの延長線上に、「俺が言ったことの意味はみんなが察してくれる」という妄想が生まれてしまう危険性があります。
課題として、会議でハイコンテクストな話をしていることをあげたいと思います。
ハイコンテクストな会話が前提としているものに、みんな同じような考えである、ということが言えると思います。
異なる意見を受け入れにくい環境をつくってしまう危険性があるのです。
そもそも、なぜ人を集め集まって議論する場を設けるのでしょうか。
自分とは異なる意見を聴き、その意見に触発されて新しいアイデアを思いつく必要があるからです。自分の意見を他の人に肯定してもらうことを目的とすべきではありません。
課題として、多様な意見が受け入れられにくいことをあげたいと思います。
問題「会議で合意が形成されたと勘違いしたのはなぜか、後から理由を追いかけることはできない」の課題を抽出する
次に、「会議で合意が形成されたと勘違いしたのはなぜか、後から理由を追いかけることはできない」について考えましょう。
1章で、トランスクリプトのような議事録とか録音は残っていても、あまり役に立たないことを書きました。
実は、文字起こしについては自動化される方向性が既に見えてきています。
事例として下記の3つを示します。
私が考える議事録とは、議論のプロセスが短時間で理解できるような情報です。会社の会議は何かしらの成果(例:「誰々が何々をいつまでに何々の役割を持ってやる」と言う合意)を出すためにやるものです。成果に至るまでのごちゃごちゃした自由闊達な口頭の議論を記録することは、意味があるとは思えません。議論のプロセスがわかりやすく表現されている必要があります。
会社の会議においては、議事録はその会議に参加していた全員が協働して議論したプロセスを表した成果物であり、会議参加者全員に責任があります。
課題として、会議参加者が協働して議論した合意に至るまでのプロセスをわかりやすく表現した議事録が作られていないことをあげたいと思います。
この章では、1章で定義した下の3つの問題について、解決すべき課題を考えました。
- 会議で一見合意が形成されたように見えたものの、実は合意は形成されていなかった
- 曖昧なまま合意としてしまう
- 会議で合意が形成されたと勘違いしたのはなぜか、後から追いかけることはできない
解決すべき課題として、下記の3つを洗い出しました。
- 会議でハイコンテクストな話をしていること
- 多様な意見が受け入れられにくいこと
- 会議参加者が協働して議論した合意に至るまでのプロセスをわかりやすく表現した議事録が作られていないこと
次章では、これらの解決すべき課題について、対策を考えます。
3. 対策
2章では、解決すべき課題として、下記の3つを洗い出しました。
- 会議でハイコンテクストな話をしていること
- 多様な意見が受け入れられにくいこと
- 会議参加者が協働して議論した合意に至るまでのプロセスをわかりやすく表現した議事録が作られていないこと
この章では、各々について対策を考えます。
「会議でハイコンテクストな話をしていること」の対策
ローコンテクストな議論をする必要があります。
ローコンテクストとは、下記でした。
言語によりコミュニケーションを図ろうとする。(見方を変えればコンテクストに頼った意思疎通が不得意とも言える) そのため、言語に対し高い価値と積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する諸能力(論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力)が重要視される。
上記のコミュニケーションに関する諸能力(論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力)を包括する概念にソフトスキルがあります。ソフトスキルは対人系のスキルで、ファシリテーション 、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディング、ネゴシエーション、エモーショナル・インテリジェンスなどのスキルです。
今までハイコンテクストな話をしていた人たちにとっては、ローコンテクストな議論をすることはハードルが高いかもしれません。ソフトスキルを身につけ、実務で使えるレベルまで引き上げる必要があるからです。
では、今日からできることはないのか?
会議で、長い時間話しているのだけれども、今一つ何が言いたいのかはっきりしない人は多くいます。簡潔にわかりやすい文章や表現を用いて、自分の考えを伝える能力はソフトスキルのひとつです。
私は、PREPというフレームワークを推奨しています。
PREPは自分の考えを相手に分かりやすく伝えるものです。プレゼンテーションや説明で、論理的に説得力のある話の構成を考えるフレームワークです。
PREPは、Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(結論)の4つの頭文字です。PREPの順に簡潔に話します。
例をあげます。
- 結論(Point):生産性を高めるためにアプリでの電子マニュアルを導入すべき。
- 理由(Reason):現状、紙媒体のマニュアルを使用しているが、メンテナンス不足による問題が起きている。また、作成および管理業務に人的コストがかかっている。
- 具体例(Example):飲食店の調理マニュアルは毎月新しいメニューに更新する必要があり、作成、印刷、配布が面倒。アプリなら低コストで短時間に更新・配信可。
- 結論(Point):電子データでマニュアルを管理できるのは便利。生産性を高めるためにアプリでの電子マニュアルを導入すべき。
会議にファシリテーターがいれば、グラウンドルールを作ります。
ここでいうグラウンドルールとは、自分たちのチームで話し合いをする時に守るべき基本原則です。
例えば、グラウンドルールの1つに「PREPを活用して簡潔にわかりやすく伝えよう」を入れます。
もし、ダラダラ話している人がいたら、ファシリテーターがこのグラウンドルールを指して「PREPでお願いします」などと促します。このようにして、簡潔にわかりやすく伝える習慣をチームに育成します。
今までファシリテーターを会議に入れていなかったチームにとっては、ファシリテーターが入った会議は全く異なった会議を体験することになります。人は、良いものであれ悪いものであれ、変化に抵抗を示すものです。会議参加者には、ファシリテーターが入った会議とはどのようなものなのか、何々が変わって参加者にとって何が良いのか、を丁寧に説明し、まずは頭で理解してもらうことが必要です。その上で、実際の会議でファシリテーターが入った議論を体験してもらって良さを実感してもらう必要があると思います。
「多様な意見が受け入れられにくいこと」の対策
多様な意見が受け入れられるための土台として、会議室は意見が否定されない安心安全で信頼できる場であることが必要です。そして、参加者は自由闊達に前向きな話し合いをし、みんなでアイデアを紡ぎ合わせようとすることが大切です。
安心安全の反対語として不安危険があります。
不安危険な例
ある会社の営業部での話し合いの場面という想定。
従業員Aは若手、従業員Bと従業員Cは先輩従業員という設定です。
話し合いのテーマは、「あまり売れ行きの芳しくない清涼飲料水をどう売り出していくか」です。
部長:それでは、何でもいいからアイデアあれば言ってくれ。
一同:・・・
課長:ここは意見があれば何でも自由に言える場だから遠慮せずに、さあ。
従業員A:こういうのはどうですか?2本か3本まとめて買った場合には、1本サービスとか。
従業員B:それじゃあ、利益が上がらないじゃないか。
部長:そうだな、ちょっと無理があるかな。
従業員A:それじゃあ、5本以上では?
従業員C:そんなに買う奴なんて、あまりいないんじゃぁないかなぁ。
部長:そもそも、そんなやり方したら、中身には自信がありませんと言っているようなものじゃないか。
課長:そうそう、安売りのスーパーじゃないんだから。さあ、他にはないかな?
(参照:カウンセラーの「聴く力」 ISBN978-4569772608)
一例として、私は従業員Aの立場に立ってみました。「何でも自由に言える場って言ったよね?何でみんなから否定されなくっちゃいけないの?当選者がデザインした自分オリジナルのラベルをつけたすっごくインパクトのあるドリンクを1本サービスってどうかな、って思ったのに。聞いてもくれなかった。もう、この人たちの前で発言するのか止めようかな。」なんて思ってしまうかもしれませんね。自分のアイデアを受け入れてもらえる「安心安全な場」ではなく、いつ否定されるかわからない「不安危険な場」になってしまっています。
見方によっては、有能な若手をみんなで潰しているようにも見えてしまいます。
何か発言すると否定されるのではないか、笑われてしまうのではないか、攻撃されるのではないか、不安で危険を感じてしまう場では、参加者が自由闊達に前向きな話し合いをすることは困難です。多様な意見が出ないので、アイデアを紡ぎ合わせることはできません。
安心安全な例
従業員A:こういうのはどうですか?2本か3本まとめて買った場合には、1本サービスとか。
従業員B:面白そうなアイデアだね。もう少し具体的に話してくれる?
従業員A:はい。2本か3本まとめて買った場合にくじを引いてもらうんです。で、当選者は自分でデザインした自分オリジナルのラベルをつけたドリンクを1本もらうことができるというのはどうかな、って思いました。
従業員C:インパクトありそうだね。SNSで評判になるかも。
課長:おっと...それってインパクトの強いキャンペーンを打つってことだね。
部長: じゃあ、まずは「売り上げ増につながりそうなインパクトの強いキャンペーン」について、アイデア出ししてみようか?
従業員Bの「もう少し具体的に話してくれる?」が、前出の例を大きく変えるきっかけを与えています。
最初の例で「従業員Aがもっとわかりやすく発言すればよかったんだよ」と思われるかもしれませんね。私はそう考えて欲しくない人です。従業員Aだって、自分のアイデアをわかりやすくみんなに伝えることができれば良いのかもしれませんが、完璧な人間なんていないし、みんなでチームでアイデアを引き出し合う必要がある、と私は思うのです。
従業員Bはこれをやってくれました。従業員Bに触発されたのか、安心安全な例では何を発言しても否定されたり笑われたりしません。参加者が自由闊達に「あまり売れ行きの芳しくない清涼飲料水をどう売り出していくか」というテーマについて前向きに自分の意見を発言できます。みんなの意見が紡ぎ合わされて、どんどん議論が進んでいきます。
多様性、ダイバーシティ、インクルージョン
多様性という言葉を良く見聞きするようになりました。同時に、ダイバーシティとかインクルージョンという言葉も見聞きします。
ダイバーシティやインクルージョンに関して、私の意見とほとんど同じ意見の記事に出会いました。アメリカのガートナー(Gartner)という企業のアナリストの記事です。(出所:The difference between diversity and inclusion in the workplace – and why it matters, 記事へのリンク)
- ダイバーシティ:多様であることに焦点を当てる。
- インクルージョン:チームの結束に力点を置く。多様な人々をチームに迎え入れようとする前向きな考え方。
と言っています。
職場においては、インクルージョンを大切にすべきだ、と私は思います。
チームの結束なくして、ビジネス目標を達成することは無理だと思いますし、何より、まとまりのないチームにいるのは楽しくないと思うからです。チームの個々のメンバーの良いところを引き出すことができれば、一人では到底達成することのできないようなことも、達成できるはずです。
職場をみたとき、自分と同じ人はいませんよね。自分のコピーのような人がいたら気持ち悪いでしょう。職場には、いろいろな人がいるのが自然だ、と私は思います。
前出のガートナーの記事は、もう一つ大切なことを言っています。
『多様なことに対して、無意識のうちに偏見を持つのは自然だ』というのです。自分は人種差別主義者ではない、とか性差別主義者ではない、などと自分で自分に言い聞かすよりも、無意識のうちに偏見を持ってしまうかもしれないことを認めた方が良い、と言っています。
私は自転車とクルマを運転します。どちらも重大な事故を起こす危険性のある乗り物です。この危険性を認識しているから、私は事故を起こしてしまうかもしれないから、注意して運転します。
同じように、「自分には無意識のうちに偏見を持ってしまう危険性がある」と認めた方が良い、と私は思っています。人間というのはそういう危険性を持った生物だと認める。だから、そうしないように気をつける。職場で偏見を持っても(互いに偏見を持ち合っても)何も良いことはないですから。ひとつの選択肢として、私のような考えもあって良いのではないか、と思っています。
自分は自分と異なる意見を受け入れることに抵抗を感じることがある、偏見を持つことがある、というのは自然だと受け入れる。だから、自分の意見に対しても抵抗を持たれたり偏見をもたれることがある。これも自然。自分は他人の意見に対して抵抗したり偏見を持つ危険性がある。だから、そうしないように気を付ける。こんな感じです。
広く世の中から偏見を無くそう、というと壮大なスケールで大変なことになるかもしれません。
一方、職場の数人のチーム内であれば、偏見を持つ危険性を少なくしようと意識すれば、できることだと私は思います。
ファシリテーターがいて、例えば「多様な意見を受け入れよう」とか「意見は否定したり笑ったりしないようにしよう」などをグラウンドルールに入れておけば、より安心安全な場が担保されます。
「会議参加者が協働して議論した合意に至るまでのプロセスをわかりやすく表現した議事録が作られていないこと」の対策
この節では、議論を見える化することの重要性について書きます。
下の画像をご覧ください。TRADITIONAL MEETINGとありますので、伝統的な会議という感じでしょうか。4人が会議室に集まって何かを話し合っているようです。文字や絵はありません。言葉だけがやりとりされています。あなたが参加する会議はどうですか?
次に、下の画像を見てください。VISUAL COLLABORATIONとありますので、ビジュアルな協働という感じでしょうか。4人はホワイトボードの前にいるようです。文字や絵を描きながら議論しているようです。この4人はビジュアルな協働によりアイデアを合意することができたようです。
人が互いにコミュニケーションし始めたのは約3万年前だそうです。言葉を使い始めたのは3700年前だそうです。つまり人類のコミュニケーションの歴史のほとんどの時代は言葉がなかった、ということです。言い換えると、ビジュアルな情報でコミュニケーションを取っていた時代がとても長かった、ということです。
(参照:Do Visuals Really Trump Text?)
Allan Paivio という米国の心理学者の dual-coding theory という研究によれば、頭脳の感覚神経の75%は視覚に使われているそうです。
そして、画像は言葉よりも記憶に残るそうです。前の段落の人類のコミュニケーションの歴史を考えると、ヒトの脳がそのように進化しているということに頷けます。
3日後に覚えている確率は、文字と画像の場合は65%、文字のみの場合は10%だそうです。言葉のみはどうなのでしょう。書かれていなかったのでわかりません。多分よほどインパクトの強い言葉でなければ忘れ去られてしまうのでしょう。
これらの科学的知見から導き出されることは、ビジュアルな表現をもっと会議に取り入れた方が良いということです。
上の最初の典型的な会議の画像のような会議。これは、とってももったいない会議である、と言って過言ではないでしょう。
なお、この章で貼った画像は下の50秒のYouTube動画から撮ったものです。
あなたが参加する会議はホワイトボードやフリップチャートや模造紙を活用していますか?
もう1つ。
1時間の会議で、今20分経過したとしましょう。あなたは、20分間でどのように議論が進んで、だから今この議論をしているということを把握していますか?なぜ今この議論をしているのかよくわからない、といった感じで議論プロセスの迷子になっていませんか?議論プロセスの迷子になると、会議の目標に向けて、これからどんな感じで議論が進むのか不安になってしまいます。
今までどのように議論が進んでいて、今この議論をしていて、この後はこのように議論が進んでいくという議論プロセスは、参加者全員で共有されるべきです。ファシリテーターがいれば、ファシリテーターが議論プロセスを管理します。
議論プロセスを見える化して参加者全員で共有するための媒体は、ホワイトボードやフリップチャートや模造紙です。
オンライン会議であれば、クラウド上のホワイトボードになります。
あなたがファシリテーターではなく、当事者として議論に参加しているのであれば、議論プロセスの把握ではなく、議論そのものに集中すべきです。あなたの知見やアイデアを議論に集中すべきです。あなたにしかできないことに集中すべきなのです。議論プロセスの見える化と共有はファシリテーターに任せましょう。
この議論プロセスを見える化し共有することで、会議参加者が協働して議論した合意に至るまでのプロセスが参加者の前に共有されます。
合意事項は簡潔な文章にします。曖昧な内容はダメです。具体的かつ簡潔な内容にします。
ほとんどの場合、合意事項は担当者を決めることになると思います。いわゆる To Do です。
その時大切なことは、担当者が実施可能な体制を整え、そこまで合意をとることです。
ここまで会議中に決めてしまいましょう。
私は To Do を見える化する目的で、RACI(レイシー)というフレームワークを活用することをお勧めしています。
RACI は、役割と責任を見える化するものです。R、A、C、I 各々の役割と責任は下記です。
- R:実行責任者 (RはResponsibleの頭文字):合意事項を実行することに責任を持つ人(複数人可)
- A:説明責任者 (AはAccountableの頭文字):合意事項について内容や進捗・状況を組織内外に説明することに責任を持つ人(通常ひとり)
- C:相談される人 (CはConsultedの頭文字):合意事項の実行を支援する役割を担う(円滑に実行されるよう相談を受け助言する人(複数人可)
- I:報告を受ける人 (IはInformedの頭文字):合意事項の進捗・状況について報告を受ける役割を担う人(複数人可)
R と A は誰かを必ず任命します。兼任可です。
C と I は誰も任命されなくてもOKです。この2つも兼任可です。
ベテラン社員の例を考えてみます。
例えば業務の専門家であり、特定の業務についてとても詳しい人だとします。さらに、つい深掘りしてしまい求められているもの以上のものを作りがちのため、スケジュールが遅れる傾向がある人だとします。このような場合、ベテラン社員を R(実施責任者)にして、スケジュール管理の観点でアドバイスをするプロジェクト・マネージャーを C(相談される人)にする、チームリーダーを A(説明責任者)にする、ということが有効かもしれません。合意事項を実施する能力は持っているので、スケジュールの観点で相談できる人・アドバイスしてくれる人を付ければ、問題なく合意事項が実施されるようになります。
新人さんの例を考えてみましょう。
新人さんを R(実施責任者)にして、その仕事に詳しい専門家を C(相談される人)にして、チームリーダーを A(説明責任者)にする、ということが有効かもしれません。専門家に相談しながら、アドバイスをもらいながら、OJT的に実施します。そして、合意事項の進捗状況や課題などをチームリーダーに報告します。もし、チームリーダーも相談に乗ったりアドバイスをしたい、ということであれば、チームリーダーには A(説明責任者)に加えて C(相談される人)の役割も持ってもらえば良いのです。
以上、下記7つの対策を書きました。
- ファシリテーターを会議に入れること
- フレームワークを活用して議論をすること
- 会議参加者には、ファシリテーターが入る会議を事前に理解してもらい、良さを体験してもらうこと
- 議論の場を安心安全な場にすること
- インクルージョンを大切にすること。無意識な偏見を持つことは自然だと受け入れ、偏見を持たないように気をつけること
- 議論プロセスを見える化して参加者全員で共有すること
- 合意事項は具体的かつ簡潔な文章にすること
最後までお読みいただき、ありがとうございました。