会社の会議の進め方:場を作る:今理解すべき3つの視点
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
このコラムのテーマは、ファシリタティブなリーダーシップです。
先が見通しにくい不確実な時代が続いています。ファシリタティブなリーダーシップの必要性が強まっている、と私は考えます。
ファシリタティブ(facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。ファシリタティブなリーダーシップとは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。
ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。
このコラムは次の3つの章で構成します。10分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
1. 組織とリーダーシップの変遷
まず、リーダーシップという言葉の定義から始めたいと思います。
リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。このコラムではリーダーシップをこのように定義します。
次に、リーダーという言葉を定義します。
リーダーとは、役割や職責であり、具体的には部長、課長、主任などです。このコラムではリーダーをこのように定義します。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。指示を待つのではなく、能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、会社の成長に大きく貢献します。
さて、いくつかのリーダーシップの型を見てみましょう。
カリスマ型のリーダーシップ(支配型)
ピラミッド型組織をトップダウンで強力に統率する支配型のリーダーシップです。
下図の左側がこのリーダーシップを模式的に表したものです。(タップやクリックで拡大します)
青矢印は支配の向きを表しています。
サーバント型のリーダーシップ(支援型)
組織ピラミッドを逆さまにして、リーダーが縁の下から部下を支援するスタイルです。
カリスマ型(支配型)とサーバント型(支援型)はリーダーシップの質自体は真逆です。いずれもピラミッド型の組織の枠組みを前提とし、上から、あるいは下から、垂直方向(バーティカル)に影響力を行使するという点で共通していると考えられます。
上図の右側がこのリーダーシップを模式的に表したものです。(タップやクリックで拡大します)
青矢印は支援の向きを表しています。
ホリゾンタル型のリーダーシップ
自分の組織のピラミッドだけにとらわれず、むしろその枠を越えて、タテよりもヨコへ、人と人、組織と組織とのホリゾンタル(水平方向)なつながりを基盤とするリーダーシップです。
下図の左側がこのリーダーシップを模式的に表したものです。(タップやクリックで拡大します)
青矢印は組織を超えた水平方向の支援を表しています。
オープン型のリーダーシップ
チーム内でお互いの尊敬と信頼を尊び、徹底的に情報共有し、権限委譲することを基盤とするリーダーシップです。一人ひとりの従業員とオープンな関係を構築しようとする新しいリーダーシップのあり方といえます。
ソーシャル・メディアの台頭などにともなう社会の透明化、オープン化が、マネジメントに求められる役割やあるべきリーダー像にも変化をもたらしている、と言われています。
生まれた背景は、自律的に社内外と交流しネットワークを形成する従業員に対して、上意下達でコントロールするような、旧態依然のリーダーシップは通用しなくなったという課題が出現し、これに対する打ち手として、オープン型のリーダーシップが登場しました。
オープン型のリーダーシップでは、異なる専門性や考え方を持った人の間に立ち、人と人を結びつける上で求められる能力が求められます。ソフトスキルが必要です。
ソフトスキル。対人系のスキルで、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどのスキルです。
上図の右側がこのリーダーシップを模式的に表したものです。(タップやクリックで拡大します)
ネットワーク型組織内でこのリーダーシップが発揮されます。会社(三角)の外へもネットワークが伸びています。これは社外ともつながりを持つことを表現しています。
青の領域はリーダーシップが影響を与える範囲を表しています。
なお、組織については、『組織力強化:コロナによる組織の変化:ファシリテーションが果たす役割を考える』 というコラムを書いています。10分程度で読める内容です。
2. withコロナのビジネス変革
McKinsey & Companyが2020年5月に出した『The future of work in Japan ポスト・コロナにおける「New Normal」の加速とその意味合い』というレポートがあります。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの調査による『未来の日本の働き方』への示唆です。
2章では、マッキンゼーのレポートを参照しながら、どのようなビジネス変革が起きるのかを考察します。
日本における自動化の適用可能性は、世界各国と比較しても、自動化により代替される業務の割合が多く、韓国・ドイツなどの国をおさえ最も可能性が高いそうです。
日本では、全職業の作業時間のうち56% の時間が反復型ルーチンワークに費やされており、技術的には67%以上のこれらの作業を自動化できる可能性が存在する、としています。
自動化。あなたは何を連想しますか?製造現場であれば製造の自動化でしょう。コロナでロックダウンを経験した国ではデジタルツインを工場に活用しようという動きが出てきました。そしてwithコロナの今ではデジタルツインを活用している工場が増えているようです。オフィス業務の自動化はどうでしょう。
デジタル技術を活用したビジネス変革(DX)です。
DX(Digital Transformation)はデジタル変革と訳されることが多いですよね。DXの本質はビジネス変革である、と私は考えています。コラムの冒頭に書いたとおり、ビジネス変革とは既存のビジネスを変身させる程のマグニチュードの大きなものです。そのビジネス変革を実現するために必要なデジタル技術を道具として使うことが鍵となる。私はこのように考えています。この考えの下、私はDXをデジタル技術を活用したビジネス変革と訳しています。
社内手続きを前提にした定型業務をこなしている。定型業務は自動化しやすい。RPA(Robotic Process Automation)やAI(Artificial Intelligence)などのデジタル技術を使って、定型業務は人手を介さないものになり、人の介在は最小化されるでしょう。
そして、従業員は「新しい価値を生み出す仕事」に向かうことが求められる、と私は考えます。変革の時が来た、と考えるべきです。
なお、DXと私のビジネスとの関係について、『ビジネス変革:デジタル変革(DX)とビジネス変革:今理解すべき3つの視点』 というコラムを書いています。5分程度で読める量です。
新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、とても大きな変化が起きています。
先を見通せない日々が続いています。ジョブ型や成果主義への動きも出てきています。
このような環境下、全社規模のビジネス変革が起きる可能性が高い、と私は考えます。
マッキンゼーのレポートは、デジタル人材を育てるための再教育プログラムの構築が必要だといっています。
適した能力のない従業員をいつまでも雇用し続けることは困難でしょう。
端的に言うと、退職してもらうか、再教育するか、どちらかしかないと思います。退職による人手の減少は、自動化で補うことになるでしょう。
従業員の観点では、自分を再教育して、数ヶ月後に新しい仕事をする能力をつける方が得策だ、と私は考えます。会社としては、従業員の再教育機会の提供や、教育機関などとの連携が重要課題になるでしょう。
マッキンゼーのレポートは、『中小企業における人材不足などの課題を解決すべく政府主導のデジタル人材育成プログラムを構築・推進すべきである。これらのプログラムは教育や研修にとどまらず就職先やAI 活用先とのマッチングまで踏み込んだプログラムとすべきである。』としています。
また、マッキンゼーのレポートは、経営マネジメント層のコミットメントとデジタル・トレーニングの必修化が必要だと強調しています。
デジタル技術を活用した全社規模のビジネス変革(DX)は経営マネジメント層のコミットメントが必須です。IT部門やITベンダーに丸投げすればOKという類のものではありません。新型コロナウイルスの感染拡大により、半強制的なテレワークを経験した方もいらっしゃると思います。あの頃、ITリテラシーが低く必要なITツールすら使えない経営マネジメント層の存在が、クローズアップされました。
マッキンゼーのレポートでは、『マネジメント層のデジタル・トレーニングにおいては座学だけではなく、実際にデジタル・AI 活用事例を見に行き触れる「Go&See」の要素も含め、自社が価値を創造していく中でいかに変革を推進・共有していくかを具体化していくことが求められる。』としています。
別の視点で見てみましょう。ライバル会社がいる。そこの経営マネジメント層は、自らの専門はITや技術ではないのに、その技術が本質的にどのようなもので自分たちのビジネスにどう使えるのか、この点にアンテナを張り常に勉強している。
あなたの会社の経営マネジメント層が、ITリテラシーが低く必要なITツールを使えない人たちだとすると、結果は明らかです。ライバル会社にビジネスを持っていかれます。その会社は日本国外を拠点とする会社かもしれません。
「今までやったことがないからできない」と考える人は、とても余裕のある人だと思います。「どうしたらできるようになるのか」を考えるべきです。年齢は全く関係ありません。やるか、やらないか、です。
ダーウィンが言ったとされている『この世に生き残る生物は、激しい変化にいち早く対応できたもの』という言葉。恐竜は環境の変化に耐えられずに滅びました。あなたは恐竜ですか?ヒトへ進化する人ですか?
3. ファシリタティブなリーダーシップが必要になる
このコラムの冒頭で、ファシリタティブ(facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞だと書きました。ファシリタティブなリーダーシップは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
2章では、デジタル技術を活用したビジネス変革(DX)が起きる、と書きました。
また、その変革を実施できる人になるために、自分を再教育することが必要だと書きました。
この章では、デジタル技術を活用した全社規模のビジネス変革(DX)を実現するためには、ファシリタティブなリーダーシップが必要だ、ということを書きます。
全社規模のビジネス変革(DX)を実現するためには、営業、マーケティング、経営企画、業務、ITなど各部門の専門家を集め、アイデアや意見を引き出し、まとめ、合意を形成することが必須です。社外の人に入ってもらう場面があるかもしれません。初めて会う人たちと協働することになるかもしれません。
1章で、ソフトスキルとは、対人系のスキルで、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどのスキルだと書きました。
もし、今まで自組織内の改善活動を主に行っていたとすると、全社規模での協働は初めての経験かもしれません。自組織内で気心の知れた共通の用語を使う人たちと協働するのではなく、異なる組織文化の中にいる人や異なる用語を話す人たちと協働することになります。チームとして機能するようチームビルディングが重要です。飲み会を開いてチームとしての結束力を高めよう、という昭和的なアプローチではなく、「そのチームで協働するという体験の価値」を各自が納得すること、その価値に魅力を感じられること、これが必須である、と私は考えます。
トップが明確なビジョンを示すことは当然です。各専門家が貢献していることを実感できることも大切です。その貢献に対して他の専門家から評価される感謝されることも大切です。ファシリタティブなリーダーシップで、そういう協働の場を作ることが、とても大切になります。
大規模なビジネス変革のPMO(Project Management Office)の役割を担ったことがあります。各分野の専門家を集め、ワークショップ形式の会議を開き、まずは現状の理解から始めました。自分の業務分野のことは当然よくわかっているのですが、それ以外はよくわかっていないという場合があります。例えば、案件発掘から受注までの業務プロセスを例にとってみると、案件発掘の領域は詳しくても、受注の領域はよく知らない。業務プロセスを見える化しながら、課題を洗い出しながら議論することが大切です。
最初はチームとして機能していませんでしたが、何回かワークショップを続けていく中で、チームとして機能するように変わっていきました。変化した理由は、変革の全貌と各自への影響度合いを鳥瞰することができ、さらに問題がありそうなところはズームインして細かく見たので、専門家の人たちに「自分のためになる・価値がある」と思ってもらえたことだと思います。専門家の人たちが「価値ある体験をできる場だ」と評価してくれれば、積極的かつ自律的な協働が実現します。
チームビルディングは協働の中から生まれる、と私は考えます。
チームビルディングを可能にするものは、ファシリタティブなリーダーシップであり、会議やワークショップでのファシリテーションであり、関係者との様々な調整を行うコミュニケーションやネゴシエーションです。説明する場面も多々ありますので、プレゼンテーションも大切です。ソフトスキルを駆使する必要があります。
そして、全社規模のビジネス変革を考えるワークショップでは、例えばデザイン・シンキングなどビジネス・デザインをするためのプロセスを理解し、ファシリテートできるファシリテーターが必要になります。
冒頭で、ファシリテーションは、課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法だと書きました。いわゆるコミュ力ではありません。いわゆるコミュ力は必要ない、と私は考えます。ソフトスキルのコミュニケーションも同じ。何を伝え理解して欲しいのか、そのためにどうアプローチするのか、そのコミュニケーションの目標が達成したことをどう確かめるのか。いわゆるコミュ力とは異質のものです。
不安定で不確実で複雑で不明確な先が見通しにくい時代です。誰も正解が分からない目標に向かって、チームの各メンバーの能力を引き出しながら、議論を進め、目標達成に向けてみんなに働きかける人が必要です。変化が激しく未来が予測しにくい現状においては、1章で説明したオープン型のリーダーシップにファシリテーションの要素を加えた、ファシリタティブなリーダーシップが必要だと考えます。
ファシリタティブなリーダーシップを身に付けたい方、自部門にファシリタティブなリーダーシップを持った人を育成したいとお考えのリーダーの方、一人で自習するやり方は非効率です。誰かのアドバイス・支援を受けながら研鑽する方が効率が良い、と私は考えます。
私が提案するアプローチは、下記のコラムに書いてあります。
ご関心をお持ちの方は、お読みいただけると幸いです。もちろん、ご相談も喜んでお受けいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。