「形に心が伴っていく」——型から入るキャリア
こんにちは。ホスピタリティコンサルタントの菅又蒼圭美です。
前回は、「形に心が伴っていく」——型から入るキャリアについてお話ししました。今回は、型を身につけたその先、今いる場所で深めていくキャリアについて考えてみたいと思います。
一度、あきらめた道があります
学生時代、私は染色を学んでいました。茶道を習っていたこともあり、着物や和の世界が大好きだったのです。卒業制作では、着物を一着仕立てました。
けれど、染色の業界は完全な分業でした。作家にならない限り、一から十まで自分が納得できる仕事にするのは難しい。そう感じて、私はこの道をあきらめました。
そんなとき、ふとよみがえったのが、前々回お話しした遠足のバスガイドさんの思い出でした。そこから私は、客室乗務員の道へ進みます。
今ふり返ると、あのとき手放したのは「染色」という職業でした。けれど、「一から十まで納得できる仕事をしたい」という思いは、手放していなかったのだと思います。
入社して最初の一年
客室乗務員として入社したとき、私は英語が話せるわけでもなく、自信があるわけでもありませんでした。
そこで決めたのは、目の前のことをていねいにやることです。トイレ掃除を一生懸命やる。絶対に遅刻しない。食事に誘われたら断らない。
一年ほどたった頃、入社試験のときの面接官の方が訪ねてきてくださいました。
「一年間、心配だから見ていたけれど、すごく頑張っているから、同じ学校から今年も一人採用しました。あなたの班に入れるから、面倒を見てあげてください」
目の前のことを続けていたら、いつの間にか、受け取る側から渡す側になっていました。
同じ会社の中にも、道は続いていた
その後、国内線で経験を積みながら英語を学び、国際線に乗るようになりました。チーフパーサーを務め、後半は管理職として、現場とデスクワークを半分ずつ担いました。
外から見れば、「ずっと同じ会社にいた人」かもしれません。けれど私の中では、同じ場所にとどまっていた感覚はありません。同じ道の上で、見える景色がどんどん変わっていきました。
「次はどこへ行くか」だけがキャリアではない
キャリアというと、転職やステップアップを思い浮かべる方が多いかもしれません。より良い条件、より大きな仕事を求めて、職場を移っていく。
もちろん、それも大切な選択です。私自身も、航空会社を離れてからは、研修講師やバスガイドとして新しい場所で働いています。
けれど、「次はどこへ行くか」ばかりを考えていると、いつまでも「何者かにならなければいけない」ような、落ち着かない気持ちになることがあります。
あなたが今いる場所に、まだ深められるものは残っていませんか。
道を極めるための4つの考え方
1、極めるのは「職場」ではなく「道」
一つの会社に居続けることだけが、道を極めることではありません。私の場合、客室乗務員、研修講師、バスガイドと仕事の形は変わりましたが、「お客様に喜んでいただく」という道は一本でつながっています。
2、手放すものと、手放さないものを分ける
染色をあきらめたとき、私が手放したのは職業でした。「納得できる仕事をしたい」という思いは、そのまま次の仕事に持っていきました。仕事を変えるときも、この「手放さないもの」があれば、道は途切れません。
今いる場所の「型」を、ていねいに続ける 掃除、時間、あいさつ。小さな型を続けていると、まわりはちゃんと見てくれています。深めるとは、特別なことをするより、当たり前のことを続けることなのだと思います。
3,受け取ったものから出発する
「好きなことを見つけなさい」と言われても、選択肢が広すぎて、かえって見つからないことがあります。それより、今の職場、生まれ育った地域、出会った人から受け取ったものを、まずやってみる。そのほうが、道は見えやすくなります。
4,選べる時代だからこそ、深める
昔の人は、職人の家に生まれれば職人なりに、商人の家に生まれれば商人なりに、その道を極めていきました。選択肢は今よりずっと少なかったかもしれません。けれど、受け取ったものを信じて、取り組むことができました。
今の私たちは、選べることがたくさんあります。だからこそ、ときには「選ぶ」ことより「深める」ことに目を向けてみてもよいのではないでしょうか。
長く続けた人にしか見えない景色があります。そしてその景色こそが、次の人へ手渡せる財産になります。
次回は、「自己実現」とは少し違う、日本人に合うキャリアの考え方——「世代性」についてお話ししたいと思います。
明日からできること
今の仕事の中で、「これだけは、誰よりもていねいにやる」と決められることを一つ、書き出してみてください。小さなことで構いません。それが、あなたの道の入口になります。


