転職だけがキャリアじゃない——道を極めるという生き方
こんにちは。ホスピタリティコンサルタントの菅又蒼圭美です。
前回は、上に立つ人が部下より詳しくなくてもいい、というお話をしました。今回は、職場のルールを若い人にどう渡すか、というお話です。
お辞儀をしてくれなかったアラン君
ANAには、海外出身の客室乗務員もいました。私がOJTトレーナーとして担当したのは、フランス人男性です。名前は仮にアラン君とします。
飛行機が出発してから離陸するまでの間に、「ご用の際にはお気軽にお声がけください」というアナウンスがあります。これに合わせて、客室乗務員は全員そろってお辞儀をします。マニュアルにもあり、お客様が見ていない場所でも、全員でそろってお辞儀をするのがルールです。
ところがアラン君は、たまたまお客様が見ていない場所にいたため、どうしてもお辞儀をしてくれませんでした。
「お辞儀をするんだよ」と伝えると、「誰も見ていないのに、おかしいじゃないか」と言います。
「ルールだから」と答えると、「いや、おかしい。君はどう思うんだ」と、私自身の考えまで聞かれました。
日本語でも説明が難しいことを、英語でどう伝えればいいのか。困ったとき、ふと頭に浮かんだ言葉がありました。
「アラン君、これは禅の教えだから。禅スピリットだから」
私は禅に詳しかったわけではありません。それでも、何かその心を伝えなければいけないと思ったのです。
すると、アラン君の態度は一気に変わりました。
「アケミ、なぜそれを先に教えてくれなかったんだ」
それからの彼は、どこでも進んでお辞儀をする、お辞儀が大好きな客室乗務員になりました。
ANAで、禅スピリットを元にルールを作っているわけではありません。
しかし、後で調べたところ、「禅」の教えは、生活の中の習慣や動作を整えることで悟りを得ることができる、という事が書かれていました。日本人に当たり前に伝わる、「お辞儀」や「礼」。
これは、日本の企業として、まさにルール以前の根底に流れるものであり、形に表すべきものです。だからこそ、アラン君は深く納得してくれたのです。
御社のルールは、理由と一緒に渡せていますか
若い社員に「決まりだから」とだけ伝えて、ルールを渡していないでしょうか。
ルールを受け継いでもらうための3つのこと
1. 「決まりだから」では、人は動かない
アラン君が納得しなかったのは、わがままだったからではありません。理由が分からなかったからです。今の若い人も同じです。理由が分からないルールは、見ている人がいなくなったとたんに守られなくなります。
2. ルールの奥には、その会社の心がある
誰も見ていなくてもお辞儀をする。そこには、お客様に見られているかどうかではなく、自分たちの心の持ち方として大切にしている、という考えがあります。どんな会社にも、ルールの奥にこうした心や、創業のときからの思いがあるはずです。
3. 心が伝わると、型は自分のものになる
理由を受け取ったアラン君は、言われなくてもお辞儀をするようになりました。型は、押しつけられたものから、自分で選んだものに変わります。受け継ぐとは、形だけでなく、その奥にある心まで渡すことだと思います。
「先に教えてくれなかったのか」
アラン君のあの一言は、今も私の中に残っています。教える側が「なぜ」を言葉にできていないだけで、受け取る側は、本当は理由を知りたがっているのかもしれません。
職場のルールや所作を、その奥にある考えと一緒に若い世代へ渡していく。そのお手伝いをしています。どうぞお気軽にお声がけください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
明日からできること
職場のルールを一つ選んで、「なぜ、これをするのか」を一文で書いてみてください。書けなければ、そのルールの理由は、まだ若い人に届いていないかもしれません。


