【医師監修】 眠れないのは「うつ」のサイン? 知っておきたい睡眠障害とうつ病の深い関係
◆はじめに:あなたは「ぐっすり」眠れていますか?
糖尿病と聞くと、食事や運動との関係を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、近年、研究が進み、もう一つ、非常に重要な要素が注目されています。それが、睡眠です。糖尿病と睡眠障害は、一方がもう一方を悪化させるという、まるで悪循環のような密接な関係にあります。たかが睡眠不足と軽視していると、知らずしらずのうちに糖尿病のコントロールを難しくしている可能性があります。
本コラムでは、この眠りと血糖の意外な関係をわかりやすく解説し、質の高い睡眠を取り戻すための具体的な対策をお伝えします。
◆睡眠不足が血糖値を上げる、二つのメカニズム
まず、なぜ質の低い睡眠や睡眠不足が糖尿病のリスクを高めたり、血糖コントロールを悪化させたりするのでしょうか。主なメカニズムは以下の二つです。
メカニズム1:インスリン感受性の低下
睡眠時間が不足したり、睡眠の質が低下したりすると、体の細胞が血糖値を下げるホルモンであるインスリンに対して、反応しにくくなります。これをインスリン抵抗性の増大と呼びます。
健康な方を対象とした研究でも、たった一晩の睡眠不足でインスリンの効き目が低下することが報告されています。インスリンが効きにくくなると、細胞が糖をうまく取り込めなくなり、結果として血糖値が上昇してしまいます。
メカニズム2:ストレスホルモンと食欲調整ホルモンの変化
睡眠不足の状態は、体にとって強いストレスです。これにより、血糖値を上げる作用を持つコルチゾールなどのストレスホルモンが過剰に分泌されます。
さらに、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌が低下し、反対に食欲を増進させるグレリというホルモンの分泌が増加します。これにより、必要以上に空腹感を感じたり、甘いものや高カロリーなものを欲しやすくなったりするため、食事療法が難しくなり、結果的に血糖コントロールがうまくいかなくなります。
◆糖尿病が睡眠を妨げる原因
悪循環はこれだけではありません。糖尿病そのものが原因となって、あなたの睡眠を妨げることが多々あります。
頻繁な排尿(夜間頻尿)
血糖値が高い状態が続くと、体は尿として糖を排出しようとします。その際、水分も一緒に排出されるため、喉の渇きを感じやすく、また夜間に頻繁にトイレに起きるようになります(夜間頻尿)。これにより、睡眠が中断され、深い睡眠(熟睡)が得られにくくなります。
合併症による症状
糖尿病が進行すると、糖尿病性神経障害が起こることがあります。これにより、手足のしびれや痛みが生じたり、夜間にムズムズとした不快な感覚で足を動かしたくなるむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)を併発したりすることがあり、これらが不眠の原因となります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の併発
糖尿病患者さん、特に肥満を伴う方では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を併発している割合が非常に高いことがわかっています。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりすることで、体内の酸素濃度が低下し、睡眠の質が著しく悪化する病気です。熟睡できないことで日中の強い眠気や疲労感につながるだけでなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)自体がインスリン抵抗性を高め、糖尿病を悪化させることが明らかになっています。
◆悪循環を断ち切るための睡眠ケア
この悪循環を断ち切るには、血糖コントロールと並行して、積極的に睡眠の改善に取り組むことが不可欠です。
基本は「規則正しい生活」と「血糖コントロール」
最も重要な対策は、まずは糖尿病の治療をしっかり行い、血糖コントロールを良好に保つことです。血糖値が改善すれば、夜間頻尿が減り、睡眠の質は自然と改善に向かいます。
また、毎日同じ時刻に寝起きし、太陽の光を浴びるなど、体内時計を整える規則正しい生活を送ることも、インスリンの働きを正常に保ち、質の良い睡眠を得るための土台となります。
専門家への相談の重要性
「生活習慣を見直しても、なかなか眠れない」「いびきや無呼吸を指摘された」という場合は、放置せずに睡眠障害の専門家(睡眠専門医)にご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、簡易検査や精密検査を行い、必要であれば持続陽圧呼吸(CPAP)療法などの適切な治療を受けることで、睡眠の質と同時に血糖コントロールも改善が期待できます。
不眠症に対しては、生活指導に加え、認知行動療法や必要に応じて安全性の高い睡眠薬の処方など、専門的な治療を受けられます。「睡眠薬は怖い」という古いイメージを持つ方もいますが、最近の薬はより安全に開発されていますので、不安があれば医師にご相談ください。
◆おわりに
質の高い睡眠は、心と体を休ませ、疲労を回復させるだけでなく、あなたの糖尿病治療を力強くサポートしてくれる最高の薬の一つです。今日から眠りをもう一つの重要な治療目標と捉え、自身の睡眠状態に関心を向けてみましょう。ぐっすり眠ることで、血糖コントロールの改善、ひいては糖尿病合併症の予防へとつながります
雨晴クリニックでは、糖尿病による睡眠障害の検査・治療を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。




