本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否
デリヘルを利用した際、トラブルの相手が女性ではなく、送迎を担当するドライバーだったというご相談があります。部屋に入ってきて大声を出された、帰ろうとしたら腕をつかまれた、料金を多く受け取られた、送迎車に自分の車をこすられた、といった場面です。
こうしたとき、多くの方が迷うのが「誰に対して何を求めればよいのか」という点です。ドライバーは店の従業員なのか、外部の業者なのかが客からは見えにくく、名前すら分からないことも少なくありません。この記事では、送迎ドライバーとのトラブルで請求の相手として考えられる人と、その前に整理しておきたい事情を順に説明します。
本記事は2026年10月時点の法令をもとに、一般的な考え方を説明するものです。個別の事案でどうなるかは、経緯や残っている記録によって変わります。
送迎ドライバーとの間で起きやすいトラブル
- 女性を送り届けた後や終了時に部屋まで来て、威圧的な口調で金銭を求められた。
- ドアの前に立たれる、鍵を閉められるなどして、部屋から出られなかった。
- 押された、腕をつかまれたなどで、けがをした。
- スマホや財布を「預かる」と言われて取り上げられた。
- 料金の受け渡しで、聞いていた金額より多く受け取られた、つり銭を返してもらえなかった。
- 送迎車が駐車場で自分の車に接触した、移動中に自分の体にぶつかった。
弁護士ドットコムにも、ホテルに来た店の男性が部屋の鍵を閉め、以前の利用について怒鳴りつけてきたという相談が寄せられています。ドライバーは女性の送迎だけでなく、料金の回収や女性の安全確認を担うことが多いため、トラブルの場面で前面に出てきやすい立場にあります。
請求の相手として考えられる人
ドライバーの行為で損害を受けた場合、請求の相手として考えられるのは、主に次の三者です。場面によって当てはまるものが異なります。
ドライバー本人|行為をした人として
暴行でけがをした、物を壊されたといった場合、行為をしたドライバー本人は不法行為(民法709条)として損害を賠償する責任を負います。治療費や修理代、通院のために仕事を休んだ分の収入、精神的な苦痛に対する慰謝料などが考えられます。
ただし、客の側からはドライバーの本名や住所が分からないことが多く、本人を特定できても支払う資力がない場合もあります。本人だけを相手にすると、請求が実を結ばないおそれがあります。
店(経営者)|使用者としての責任
人を使って事業を営む者は、その人が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。これを使用者責任といいます。ドライバーの行為が送迎や料金の回収、女性の安全確認といった業務の中で、あるいはそれと密接に関わる形で行われたのであれば、店の経営者に請求できる可能性があります。
店から「ドライバーは業務委託で、うちの従業員ではない」と言われることがあります。もっとも、使用者責任でいう使用関係は雇用契約に限られず、実際に店が仕事の内容や時間を指示し、監督しているかどうかで判断されます。シフトで動き、店の指示で送迎先に向かっているドライバーであれば、契約の名称だけで店の責任が否定されるとは限りません。
一方で、業務と関係のない私的な恨みから行われた行為などは、事業の執行についてとはいえないと判断されることもあります。
車の持ち主・保険会社|事故の場合
送迎車との接触事故でけがをした場合は、自動車損害賠償保障法3条により、その車を自分のために運行の用に供していた者(運行供用者)にも責任が生じます。車が店の名義であれば店が、ドライバーの私有車であればドライバーが、まず考えられる相手です。車同士の接触で自分の車が傷ついたといった物の損害は、民法709条・715条の問題として、ドライバー本人と店に請求していくことになります。いずれの場合も、相手の車に任意保険が付いていれば保険会社が窓口となることがあります。
場面ごとの整理は、おおむね次のとおりです。
| 場面 | 主な請求の相手 | 根拠となる考え方 |
|---|---|---|
| 暴行でけがをした・物を壊された | ドライバー本人、店の経営者 | 不法行為(民法709条)、使用者責任(民法715条) |
| 料金を多く取られた・つり銭が返らない | 店の経営者 | 契約に基づく清算、不当利得 |
| 送迎車との事故でけがをした | 運行供用者(店またはドライバー)、保険会社 | 自動車損害賠償保障法3条 |
| 送迎車との事故で車が傷ついた | ドライバー本人、店の経営者 | 不法行為、使用者責任 |
ドライバー本人と店の両方に責任がある場合、どちらにも損害の全額を求めることができますが、二重に受け取ることはできません。実際には、支払う力のある店を主な相手として交渉することが多くなります。
料金をめぐるトラブルは「店との契約」の問題
デリヘルの利用契約は、客と店の間で結ばれているのが通常です。ドライバーは店に代わって料金を受け取っているにすぎないため、受け取りすぎた料金やつり銭の返還は、ドライバー個人ではなく店に求めるのが基本です。ドライバーが独断で上乗せしていた場合でも、店の業務として受け取ったお金である以上、店との間で清算を求めることが考えられます。
支払った金額が分かる記録(カードの利用明細、振込記録、領収書、料金表の画面など)があれば、請求の根拠になります。
ドライバーが店の代わりに金銭を求めてくる場合
ドライバーとのトラブルで多いのは、ドライバー自身が損害を与える場面よりも、店からの請求の「使い」として現れる場面です。終了直後に部屋に来て、「女性が本番を強要されたと言っている」「今払えば終わりにする」と金銭を求めるといった形です。
この場合、まず考えるべきは請求をすることより、その場を安全に離れることです。部屋から出ることを妨げる、所持品を取り上げる、害を加えると告げて金銭を求めるといった行為は、監禁罪(刑法220条)や恐喝罪(刑法249条)、強要罪(刑法223条)に当たる可能性があります。身の危険を感じるときは、110番やホテルのフロントへの連絡をためらう必要はありません。部屋のドアを開けるべきかどうかについては【風俗トラブル】ホテルの部屋に店のスタッフが来た|ドアを開ける前に考えることで、脅しを伴う請求への対応については「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法で詳しく説明しています。
スマホや財布を取り上げられたまま帰ってしまった場合の対応は、【風俗トラブル】財布やスマホを店に預けさせられた|所持品を返してもらう方法をご覧ください。
請求する前に確認・記録しておきたいこと
- 日時、利用したホテルや場所、利用した店名と予約した電話番号。
- ドライバーの特徴、名乗った名前、送迎車の車種・色・ナンバー。
- 言われた内容や行為の経過(できるだけ早く、時系列でメモに残すこと)。
- けががある場合は、早めに受診して受けた診断書と、患部の写真。
- 支払った金額と方法が分かる記録、店とのやりとりの履歴。
記録の作り方は【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料でも取り上げています。なお、相手方に自分の車のナンバーを控えられて不安を感じている方は、【風俗トラブル】車のナンバーを控えられた|ナンバーから何が分かるのかも参考になります。
請求するかどうかは全体を見て判断する
送迎ドライバーとのトラブルは、店や女性からの請求と同時に起きていることが少なくありません。ドライバーの言動に問題があったとしても、その発端となった出来事について店の側にも言い分がある場合、こちらから請求を始めることで、店の側が請求を強めたり、警察への相談をほのめかしたりする展開になることもあります。
反対に、ドライバーの行為に違法な点があることは、店との交渉で考慮される事情にもなりえます。どちらが正しいかを一つずつ争うより、全体としてどう終わらせるかを見ながら、請求の相手と順序を決めることが大切です。自分で店の事務所に出向いたり、ドライバーに直接連絡を取ったりすると、新たなトラブルを招くおそれがあるため、控えた方がよいでしょう。
弁護士が入ると、店とドライバーのどちらに何を求めるかを整理したうえで、窓口を一本にして交渉を進めることができます。ご自身で対応するか弁護士に任せるかの判断材料は、【風俗トラブル】店との交渉を自分でするか弁護士に任せるか|分かれ目になる5つの事情にまとめています。
よくあるご質問
ドライバーの名前が分からなくても請求できますか
店の名称や所在地が分かれば、使用者責任を根拠に店を相手として請求を始めることができます。ドライバーの特定は、店とのやりとりの中で進めることも考えられます。送迎車のナンバーや、利用時の予約記録が手がかりになることもあります。
店から「ドライバーは外部の人間だから関係ない」と言われました
契約の名称が業務委託であっても、店が指示を出して送迎や集金をさせていたのであれば、使用者責任が認められる余地があります。店の説明をそのまま受け入れて諦める前に、実際の働き方を確かめることが大切です。
時間が経ってからでも請求できますか
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命や身体を害した場合は5年)で時効により消滅します(民法724条、724条の2)。ただ、時間が経つほど相手の特定や記録の確保が難しくなるため、早めに動く方が選べる手段は多く残ります。
まとめ
送迎ドライバーとのトラブルでは、行為をしたドライバー本人だけでなく、ドライバーを使って営業している店の経営者に責任を求められる場面が多くあります。料金の問題は店との契約の問題として、事故は運行供用者や保険会社との関係で整理します。そのうえで、店からの請求と絡み合っていないかを見極め、安全を確保しながら進めることが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


