【風俗トラブル・キャスト側】「講習」の名目で性的な行為を求められたら?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店の面接や入店初日に、店長やスタッフから「講習だから」「最初はみんなやっている」と言われ、自分を相手に性的な行為をするよう求められた、というご相談があります。働き始めたい気持ちや、その場の雰囲気から断れずに応じてしまい、後になって「あれは何だったのか」「自分も同意したことになるのか」と一人で抱えている方も少なくありません。

 この記事では、「講習」の名目で性的な行為を求められたときに知っておきたい法律上の考え方と、応じてしまった後でも取れる手立て、相談先を整理します。

本記事は、2023年7月施行の改正刑法(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)と性的姿態撮影等処罰法、2025年6月施行の拘禁刑、2026年1月に運用が始まった犯罪被害者等支援弁護士制度を反映した内容です。


「講習」で求められる行為と、断ってよい理由

 風俗店の中には、接客の手順を教えるとして、店長や男性スタッフが客の役になり、実際のサービスと同じ行為をさせる「実技講習」を行う店があるといわれます。働く側の体験談では、講習の流れのまま本番行為にまで及んだという話や、慣れていない人ほど断るという選択肢が思い浮かばずに応じてしまうという声も見られます。

 まず押さえておきたいのは、店で働くことを選んだとしても、店長やスタッフとの性的な行為に応じる義務はないという点です。接客の流れや衛生面の注意、禁止事項を伝えることは、口頭の説明や資料、同性スタッフによる説明など、性的な接触を伴わない方法でも行えます。仮に「講習を受けることが入店の条件」と取り決めていたとしても、性的な行為そのものを義務づける約束は、公序良俗に反するもの(民法90条)として効力が認められないと考えられます。

講習を断ったことで不利益を示されたら

 講習を断った結果、「採用は見送る」「シフトに入れない」と言われることはあり得ます。どの店で働くかは双方が選べることですが、講習を断ったことを理由に罰金や違約金を求められた場合は、そのまま支払う前に内容を確かめる必要があります。雇用契約にあたる場合、労働基準法16条は違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じています。業務委託の形をとっていても、金額や理由によっては効力が否定される余地があります。罰金や違約金の考え方は、キャスト側の「罰金」「違約金」|遅刻・当欠・退店で引かれるお金は適法かで詳しく解説しています。

応じてしまった後でも「同意した」とは限らない

 2023年7月施行の改正刑法は、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、あるいはその状態に乗じてわいせつな行為をした場合を不同意わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の拘禁刑)、性交等をした場合を不同意性交等罪(刑法177条、5年以上の有期拘禁刑)としています。そのような状態を生じさせる原因として、条文は8つの事由を挙げています。講習の場面で問題になりやすいものを整理すると、次のとおりです。

事由(刑法176条1項)講習の場面で考えられる例
暴行・脅迫(1号)部屋から出られないようにする、強い口調で迫る
同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない(5号)説明もないまま、いきなり行為を始められる
予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕させる(6号)説明だけと聞いていたのに、密室で突然行為を求められて固まってしまう
経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益を憂慮させる(8号)採用やシフト、給料を決める立場の人から「講習をしないと働けない」と告げられる


 表の例に当たれば必ず犯罪が成立する、というわけではありません。当日のやり取りや部屋の状況、その後の相手の言動など、具体的な事情を踏まえて判断されます。ただ、抵抗しなかったことや、はっきり断る言葉を口にしなかったことだけで、同意があったと扱われるわけではないという点は、改正法の考え方として押さえておいてよいところです。特に、店長が採用や出勤の可否を握っている関係では、「断ったら働けなくなる」という心配そのものが、意思を示しにくい事情として考慮される可能性があります。

講習で本番に及んだ場合、自分が罪に問われるのか

 「本番をしてしまった自分も悪いのでは」と不安になり、相談をためらう方もいます。売春防止法は売春を禁じていますが、売春をした本人を処罰する規定は置いておらず、処罰の対象は勧誘や周旋、場所の提供、管理といった周辺の行為です。店から求められた講習で行為に及んだことについて、求められた側が刑事責任を問われることは考えにくいといえます。講習の名目で本番行為をさせる店であれば、むしろ店の運営そのものに問題がある可能性があります。

講習中の撮影は、それ自体が問題になる

 「プロフィール用」「指導の確認のため」などと言われ、講習の様子を撮影されることがあります。性的姿態撮影等処罰法は、正当な理由なくひそかに撮影する場合だけでなく、刑法176条1項の各事由によって同意しない意思を示すことが困難な状態で撮影する場合も処罰の対象としています(同法2条1項)。撮影された画像や動画を第三者に渡す行為は、提供の罪としてさらに重く扱われます。

 撮影されたかもしれないときは、撮影に使われた機器や日時、その場にいた人を記録し、削除と第三者への不提供を求めることを検討します。どのような姿が保護の対象になるかは「性的姿態」とは何か|撮影罪の保護対象の範囲で、画像をもとに脅されている場合の動き方は盗撮・性的画像で脅された場合の対処法|「撮影そのもの」が犯罪にあたることがありますで解説しています。

その日から残しておきたいもの


  1. 講習の日時、場所(店の個室、事務所、ホテルなど)、相手の名前や呼び名、その場にいた人を、記憶が新しいうちに書き出し、作成した日付が分かる形で保存します。
  2. 店長やスタッフとのLINE、ショートメッセージ、求人サイト上のやり取りを削除せずに残します。「講習あり」などと書かれた求人ページや店のサイトも、画面を保存しておきます。
  3. 講習の後に友人や家族へ送ったメッセージがあれば、消さずに残します。早い段階で誰かに打ち明けた記録は、後で経緯を説明する手がかりになります。
  4. 当日の衣類や下着は洗わずに紙袋に入れて保管します。体を洗う前に受診できれば、証拠の採取につながることがあります。
  5. 妊娠や感染症の不安があるときは、早めに医療機関を受診します。緊急避妊薬は、性交からおおむね72時間以内の服用が目安とされています。
  6. 給料明細や出勤の記録、店から渡された誓約書や規約なども手元に残します。


 すべてがそろっていなくても、残っているものから経緯を組み立てていくことはできます。

相談先と、それぞれでできること


相談先主にできること
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)医療機関の紹介や、警察・弁護士への同行など、被害の直後からの総合的な支援
警察の性犯罪被害相談電話(#8103)各都道府県警察の相談窓口につながり、被害届や捜査について相談できる
法テラス 犯罪被害者支援ダイヤル(0120-079714)利用できる制度の案内や、被害者支援に携わる弁護士の紹介
弁護士被害届・告訴の準備、店や相手方との交渉、損害賠償の請求、撮影データの削除の求め


 風俗店で働いていたことを話すのに抵抗を感じる方もいますが、職業によって相談の受付や被害の扱いが変わるものではありません。警察に相談したものの話が進まないと感じたときは、被害届を受理してもらえない|断られたときにできることも参考にしてください。

費用の負担を抑えて弁護士の支援を受ける制度

 2026年1月13日から、法テラスの「犯罪被害者等支援弁護士制度」の運用が始まっています。不同意性交等罪などの性犯罪の被害者は対象になり得る制度で、本人と配偶者の現金・預金などの合計がおおむね300万円以下であれば、原則として法テラスが費用を負担し、被害届や告訴状の作成、加害者側との交渉、損害賠償の請求などについて弁護士の支援を受けられます。利用できるかどうかは、まず犯罪被害者支援ダイヤルで確かめることができます。

弁護士が関わる場合の進め方

 刑事手続で責任を問うか、民事で賠償を求めるか、あるいは店との関係を整理することを優先するかは、ご本人の希望に合わせて選べます。どれか一つに決めなければならないものでもありません。

  • 刑事手続を望む場合は、経緯を整理したうえで、被害届や告訴状を準備し、警察への相談に同行します。
  • 民事で責任を問う場合は、行為をした店長やスタッフ本人に加え、講習を行わせていた店の経営者に対しても、使用者責任(民法715条)などを根拠に損害賠償を求めることを検討します。
  • 撮影データがある場合は、削除と第三者への不提供を書面で約束させることを求めます。
  • 店との連絡の窓口を弁護士に移し、退店の手続や未払いの給料、罰金の扱いもあわせて整理します。


 刑事事件として立件されなかった場合でも、示談交渉によって解決に至ることがあります。立場の差を背景にした性被害について、交渉で解決金を受け取った例として、【解決事例】職場の上司からの性被害|刑事事件化が見送られても示談交渉で解決金約160万円を受け取った事例があります。

時間がたってからでも動ける

 改正法により、公訴時効は不同意性交等罪で15年、不同意わいせつ罪で12年に延びています(刑事訴訟法250条3項)。民事の損害賠償請求にも期限があり、損害と加害者を知った時から3年、生命や身体を害された場合は5年とされています(民法724条・724条の2)。「何年も前のことだから」とあきらめる前に、期限がどこにあるかを確かめておく意味があります。期限の数え方は、風俗トラブルの時効早見表|公訴時効と民事の消滅時効はいつ終わるのかで整理しています。

18歳未満の方が講習を求められた場合

 18歳未満の方を性風俗店で働かせること自体が、法律で禁じられています。18歳未満の子どもに淫行をさせる行為は児童福祉法違反(34条1項6号)として重く処罰され、16歳未満の方に対する性的な行為は、同意の有無にかかわらず不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の対象になります(13歳以上16歳未満の場合は、相手が5歳以上年長のとき)。被害を受けたときに18歳未満であった場合、公訴時効には18歳になるまでの期間が加えられます。警察のほか、児童相談所(189)にも相談できます。

よくあるご質問


面接の段階で「講習あり」と聞き、了承していました。それでも被害を訴えられますか

 了承したのが手順の説明を受けることだったのか、性的な行為まで含むものだったのかは、そのときの説明の内容によって変わります。また、事前に了承していたとしても、行為の時点で嫌だと感じ、それを示せない状況に置かれていたのであれば、同意があったとは言えない場合があります。事前の了承があったことだけで、訴えられないと決まるわけではありません。

店を辞めずに解決することはできますか

 在籍を続けながら、相手と接触しない形での勤務を求めたり、交渉を進めたりすることも考えられます。ただ、同じ立場の人の下で働き続けることの負担は小さくありません。退店するかどうかも含めて、ご本人の生活や希望に合わせて方針を決めていきます。

まとめ


  1. 店で働くことを選んでも、店長やスタッフとの性的な行為に応じる義務はありません。
  2. 抵抗しなかったことや断る言葉を言わなかったことだけで、同意があったと扱われるわけではありません。採用や出勤を握る立場からの求めは、意思を示しにくい事情として考慮される可能性があります。
  3. 講習中の撮影は、それ自体が性的姿態撮影等処罰法の問題になり得ます。
  4. 求人の記載、店とのやり取り、当日の衣類などは、できるだけ早く残しておきます。
  5. ワンストップ支援センター(#8891)、警察(#8103)、法テラス、弁護士など、相談先は複数あり、費用の負担を抑えて弁護士の支援を受けられる制度もあります。


 講習の名目で求められた行為について、「自分で選んだ仕事だから」と一人で抱え込む必要はありません。刑事手続を使うか、賠償を求めるか、まずは店との関係を断つかなど、取れる道は一つではなく、どれを選ぶかはご本人が決めることができます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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