その場から帰してもらえない|監禁と不退去の境界
「出会い系サイト規制法」と聞くと、サイトを運営する会社を取り締まる法律という印象を持たれるかもしれません。しかしこの法律には、利用する側の一人ひとりに向けられた条文があります。そして、そこで問題になる場面の多くは、相手と会うより前の段階で完結します。
一方で、この法律が捉えているのは「掲示板に載る書き込み」という限られた場面です。書き込みをきっかけに始まった一対一のやり取りは、この法律の対象からは外れます。ただし、外れることは問題がないことを意味しません。そこから先は、児童買春に関する法律や各都道府県の条例といった別の規定に引き継がれていきます。
この記事では、どの段階でどの法律が働くのかを、条文と警察庁が公表している解釈基準にそって整理します。書き込み方を工夫する方法や、責任を軽く見せるための説明の仕方を示すものではありません。この法律が18歳未満の子どもを性被害から守るために設けられたものである以上、その趣旨に反する使い方を前提とした内容にはしていません。
この法律は誰に向けられているのか
正式名称は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」といいます。目的は、出会い系サイトの利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童を保護することにあります。ここでいう「児童」とは18歳に満たない人を指し、20歳未満という意味ではありません。
規制は大きく二つに分かれます。ひとつはサイトを運営する事業者に向けたもので、届出、利用者が児童でないことの確認、問題のある書き込みを閲覧できないようにする措置などが義務づけられています。もうひとつが、利用する側に向けた第6条です。
第6条は「何人も」という言葉から始まります。事業者や運営側に限らず、サイトを使う一人ひとりが名宛人になっているという点が、この法律を読むうえでの出発点になります。
どの「場」に書き込んだかが最初の分かれ目
第6条が禁じているのは「インターネット異性紹介事業を利用して」行う書き込みです。インターネット異性紹介事業とは、警察庁の整理では次の四つをすべて満たすものをいいます。
- 面識のない異性との交際を希望する人の求めに応じて、その人の交際に関する情報を電子掲示板に掲載するサービスであること。
- 掲載された情報を、広く公衆が閲覧できるサービスであること。
- 掲示板を見た人が、書き込んだ人と電子メールなどで相互に連絡を取れるようにするサービスであること。
- 有償か無償かを問わず、これらを反復継続して提供していること。
届出をしているかどうかで決まるわけではありません。届出のないサイトであっても、この四つを満たせば同じ扱いになります。逆に、投稿とその返答が順に並んでいくだけで一対一の連絡ができない形式の掲示板や、顔見知りだけを対象としたサービスは当てはまらないとされています。同性同士の交際だけを扱うサービスも、法律上の「異性紹介事業」には当たりません。
「出会い系ではない」と書かれていても
解釈基準は、規約で異性交際目的の利用を禁じていても、運営側がその実態を知りながら許容していると認められるときは、この事業に該当する場合があると述べています。サイトの名称や規約の文言だけで対象外と判断できるわけではありません。
禁じられている書き込みの中身
| 第6条 | どのような書き込みか | 罰則 |
|---|---|---|
| 1号 | 児童を性交等の相手方になるよう誘う書き込み | あり |
| 2号 | 児童以外の人を、児童との性交等の相手方になるよう誘う書き込み | あり |
| 3号 | お金や物を渡すと示して、児童を交際の相手方になるよう誘う書き込み | あり |
| 4号 | お金や物を受け取ると示して、人を児童との交際の相手方になるよう誘う書き込み | あり |
| 5号 | 1号から4号以外で、児童との交際の相手方になるよう誘う書き込み | なし |
1号と3号は児童に向けて呼びかける形、2号と4号は児童との交際を求める大人に向けて呼びかける形です。自分が相手を探す側なのか、間に立つ側なのかで当てはまる号が変わります。
「対償」は現金に限らない
解釈基準によれば、対償とは現金だけでなく、衣服やバッグ、時計といった物品その他の財産上の利益を含みます。金額の大小だけで決まるものではなく、児童が交際の相手方になる動機づけになる程度の具体性があるかが問われます。「お小遣いを渡す」「欲しい物を買う」といった書き方も、内容によってはここに含まれ得ます。
5号だけは罰則の対象外
5号に当たる行為は禁止されていますが、罰則は設けられていません。もっとも禁止行為であることに変わりはなく、事業者が閲覧できないようにする措置をとる対象になります。
会っていなくても、書き込みの時点で完結する
この法律でいう「誘引」とは、相手に直接身をさらすことなく、自分の意思を間接的に示して誘いかけ、相手からの申込みを待つ行為をいいます。売春防止法で使われている「誘引」と同じ意味だと説明されています。
言い換えると、返事が来たかどうか、実際に会ったかどうかは、この法律が問題にする要件ではありません。掲示板に情報が載り、公衆が閲覧できる状態になった時点で判断の対象になります。
さらに解釈基準は、客観的に見て禁止誘引行為をしたと評価できる場合、実際に児童を相手方とする意思があったかどうかは成立に関係しないとしています。実際に会うつもりのない、いわゆるサクラのような書き込みも該当するという整理です。「試しに書いただけ」「冗談のつもりだった」という説明は、この法律の下では通りにくいということになります。
掲示板を離れた後のやり取りはどうなるか
ここが誤解されやすい部分です。解釈基準は、掲示板を見た人が書き込んだ人に対してメールを送ったとしても、それは「インターネット異性紹介事業を利用して」行ったことにはならないと明記しています。つまり、掲示板から離れた一対一のやり取りそのものは、この法律の射程外です。
ただし、射程外であることと問題がないことは別です。段階が進むにつれて、働く法律が入れ替わっていきます。
| 段階 | 出会い系サイト規制法 | 主に問題になり得る他の規定 |
|---|---|---|
| 掲示板に書き込む | 第6条の対象になり得る | - |
| 個別のやり取りに移る | 原則として対象外 | 面会を求める行為を処罰する刑法の規定など |
| 会う・性的な行為に至る | 対象外 | 児童買春・児童ポルノ禁止法、各都道府県の条例、刑法の性犯罪の規定 |
たとえば刑法には、16歳未満の人に対してお金や物を渡すと示して面会を求める行為そのものを処罰する規定があります(年齢差についての条件があります)。掲示板を離れたからといって、やり取りが自由になるわけではないという点は押さえておく必要があります。
「大人向けのサイトだから」で終わらせられない理由
事業者には、利用者が児童でないことを確認する義務があります。確認の方法は、年齢や生年月日が記載された書面の提示や画像の送信、クレジットカードなど児童が通常利用できない支払方法への同意、あらかじめ確認したうえで付与したIDの送信などです。
もっとも、これは事業者に課された義務であって、利用者が相手の年齢を確かめたことにはなりません。しかも、出会うための日時や場所、連絡先をやり取りできない形のサービスについては、年齢の自己申告による確認でも足りるとされています。画面上の「18歳以上」のボタンや、プロフィール欄の年齢は、本人の申告にとどまる場合があります。
疑うきっかけがあったとき
学校や部活動の話、帰宅時間の制約、保護者の存在をうかがわせる言葉など、相手が18歳未満ではないかと考えるきっかけが出てくることがあります。そうした事情がありながら確かめなかった場合、確かめなかったこと自体が評価の対象になります。確認しないほうが有利に働くということはありません。
書き込みはどのように把握されるのか
事業者は、自分の提供するサービス上で禁止誘引行為が行われていることを知ったときは、速やかに公衆が閲覧できないようにする措置をとらなければならないとされています。すべての書き込みを監視する義務まではありませんが、外部からの情報提供によって知った場合も含まれます。
この法律には、禁止誘引行為に関する情報を収集して事業者に提供する登録誘引情報提供機関という仕組みも設けられています。また、公安委員会は事業者に対し、閲覧できないようにする措置をとった際の記録の提出を求めることができます。
つまり、自分の端末から消しても、事業者側やサーバ側の記録は別に存在します。書き込みが残っていないことと、記録が残っていないことは同じではありません。
罰則の形と、そこで終わらない部分
第6条に違反した場合(5号を除きます)の罰則は、100万円以下の罰金です。拘禁刑の定めはありません。
ただ、罰金であっても有罪の判決には変わりなく、前科として記録に残ります。書面のやり取りだけで終わる略式の手続によることもありますが、その前提として捜査機関からの聴取は行われます。また、罰金刑しか定められていないことは、身柄の扱いが常に軽くなることを意味するものでもありません。
そして、掲示板の書き込みの先で実際に会っていた場合には、児童買春に関する法律や条例など、より重い法定刑の定められた規定が問題になります。この法律の罰則だけを見て全体の重さを判断することはできません。
心当たりがある場合に考えること
- 書き込みやアカウントの記録を、そのままの状態で残しておく。消してしまうと、証拠を隠したと受け取られるだけでなく、自分に有利な事情まで失われることがある。
- 相手や相手の周囲に直接連絡を取らない。連絡の内容が新たな問題を生むことがある。
- 書き込んだ日時、サイトの名称、やり取りの経過を時系列で書き出しておく。
- 警察や検察からの連絡、呼出しを放置しない。放置は事態を長引かせる方向にしか働かない。
- 聴取を受ける前の段階で弁護士に相談し、何がどこまで問題になっているのかを確認する。
- 同じ書き込みを繰り返さない。継続していること自体が評価に影響する。
まとめ
- この法律の「児童」は18歳未満を指し、第6条は「何人も」を名宛人としているため、利用する側も対象になる。
- 対象となるのは、四つの要件を満たすインターネット異性紹介事業の掲示板への書き込みで、届出の有無は関係しない。
- 禁じられているのは1号から5号の誘引行為で、罰則の対象は1号から4号である。
- 対償は現金に限らず、物品その他の財産上の利益を含む。
- 返事の有無や実際に会ったかどうかは要件ではなく、実際に会う意思がなかった場合でも該当し得る。
- 掲示板を離れた一対一のやり取りはこの法律の対象外だが、そこから先は別の法律が引き継ぐ。
- 年齢確認は事業者の義務であって、利用者が相手の年齢を確かめたことにはならない。
- 罰則は100万円以下の罰金だが、罰金でも前科は残り、会っていた場合はより重い規定が問題になる。
この法律は、18歳未満の子どもを性被害から守るために設けられたものです。書き込みの段階で線が引かれているのも、被害が生じる前に止めるという考え方によります。心当たりがある場合や、すでに連絡を受けている場合には、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士には守秘義務があり、相談した内容が外部に伝わることはありません。


