双方が酔っていて記憶がない|アルコールと不同意の認定
万引きの取調べで、「ほかにもあるのではないか」「今回が初めてではないだろう」と聞かれることがあります。心当たりがある方にとって、その場でどう答えるかは、一人で抱え込みやすい問題です。
この記事では、答えるかどうかを決めるときに、どんな材料を手元に置いておくとよいのかを整理します。発覚を避ける方法や、取調べでの受け答えの台本を示すものではありません。また、どちらが正しいと一律に決まる問題でもなく、事件の状況によって結論は変わります。
もうひとつ先にお伝えしておきたいのは、これは本人が一人で決める前提の問題ではない、ということです。話す相手を分けて考えると、この問いの大部分は「どちらを選ぶか」ではなく「どの順番で決めるか」に置き換わります。
「余罪を聞かれている」といっても場面はひとつではない
同じ「余罪を聞かれた」でも、置かれている場面によって、その質問の意味合いは変わります。まずは自分がどこにいるのかを確かめておくと、判断の前提がはっきりします。
| いまの場面 | 聞かれ方になりやすい形 | その時点では決まっていないこと |
|---|---|---|
| 店舗で確保され、その日のうちに警察署で事情を聞かれている | 漠然と「ほかにもあるか」と尋ねられる | そもそも事件として立件されるかどうか |
| 逮捕・勾留されて取調べを受けている | 日付や店名を挙げて尋ねられることがある | 本件の処分と、余罪を立件するかどうか |
| 後日、警察から電話や呼出しを受けた | 来署の前後に「心当たりはあるか」と尋ねられる | 在宅のまま進むか、身柄の手続に移るか |
| 検察庁に呼ばれた | 警察での供述内容を前提に確認される | 起訴・不起訴・略式のいずれになるか |
日付や店名を具体的に挙げて聞かれている場合と、漠然と「ほかにもあるか」と聞かれている場合とでは、捜査機関が持っている材料の量が違う可能性があります。ここは後で改めて触れます。
話す相手はひとつではない
「正直に話すかどうか」と考えるとき、多くの方は無意識に「警察官に対して」を想定しています。しかし、実際には話す相手は少なくとも二つに分かれます。
ひとつは弁護人です。弁護士には、職務上知り得た秘密を守る義務があります(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。弁護人に対して事実を伏せたまま進めると、示談すべき相手を取りこぼしたり、処分の見通しを実際より軽く見積もったりすることになりかねません。弁護人に何を伝えるかと、捜査機関に何をどう述べるかは、別の問題として切り離せます。
もうひとつが捜査機関です。こちらは、弁護人と事実関係を共有したうえで、その事件でどうするかを検討して決められます。順序としては、先に弁護人と情報を揃え、そのうえで取調べへの向き合い方を決めるという流れになります。
なお、家族・勤務先・被害を受けた店舗は、いずれもまた別の相手です。刑事手続の中で述べたことと、周囲にどこまで説明するかは、同じ話ではありません。
答えないという選択肢があること
取調べでは、自分の意思に反して供述をする必要がない旨が告げられます(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。個々の質問に答えないことも、取調べ全体を通じて話さないことも、いずれも法律上認められた対応です。
黙っていたこと自体を、それだけで不利益な証拠として使うことは許されないと考えられています。一方で、事実関係の説明がないまま処分が判断される場面があるのも事実です。ですから、答えないという選択は「使えば有利になる手段」ではなく、決める材料が揃うまで結論を先送りにできる仕組みと捉えるほうが実際に近いと思われます。
また、取調べにあたっては、任意性に疑念をいだかれるような方法を用いてはならないこと、深夜や長時間にわたる取調べを避けるべきことが、捜査機関の内部規則にも定められています(犯罪捜査規範168条)。長時間の追及に押されて記憶にないことまで述べてしまいそうなときは、その場で弁護人に連絡を取りたいと伝えて構いません。
事実と違うことを述べた場合に起きること
被疑者・被告人本人が取調べで事実と違うことを述べても、それ自体が直ちに別の罪になるわけではありません。宣誓した証人を対象とする偽証罪(刑法169条)とは場面が異なるからです。
ただし、影響がないわけではありません。後から供述を変えると、変えた部分だけでなく供述全体の信用性が問われやすくなります。反省の姿勢が処分の判断材料になる場面でも、説明が二転三転したことが不利に働くことがあります。さらに、他人が関わっている事件で誰かをかばう内容を述べた場合には、話が別の問題に及ぶこともあります。
話したことがそのまま余罪になるわけではない
「話したらその分だけ罪が増える」と考えている方は少なくありませんが、手続の仕組みはもう少し複雑です。
本人の自白だけを唯一の証拠として有罪とすることはできません(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項)。そのため、余罪について供述があっても、捜査機関はそれを裏付ける材料を探すことになります。万引きの場合、被害届が出ているか、店舗側の在庫データに欠品の記録が残っているか、防犯カメラの映像が保存期間内に残っているか、盗った物を売却していれば買取店の台帳やフリマアプリの履歴が残っているか、といったところが手がかりになります。
したがって、供述しても裏付けが取れずに立件に至らないことがあります。反対に、供述していなくても、店舗側から別に被害届が出ていて映像から特定されるといった経路で立件されることもあります。供述と立件は連動しているようでいて、間に裏付けという工程が挟まっているという点は、判断の前提として押さえておくとよい部分です。
判断材料① すでに把握されている範囲がどのあたりか
同じ質問でも、捜査機関がすでに材料を持っているのか、それとも心当たりを尋ねているだけなのかで、答えの持つ意味は変わります。
日付・店舗名・商品名まで挙げて確認されている場合は、被害届や映像といった材料が先にあると考えるのが自然です。一方で「ほかにもあるだろう」という漠然とした問いかけにとどまっている場合は、そこまでの材料が揃っていない可能性もあります。もっとも、これは受け答えの中から推し量るしかない部分で、本人が正確に見極めるのは簡単ではありません。
弁護人が付いていれば、捜査の進み方や、どの範囲で調書が作られているかといった情報から、ある程度の見当をつけることができます。ここは一人で判断するより、専門家を挟んだほうが精度が上がる部分です。
判断材料② 記憶がどこまで確かか
繰り返してしまっていた方ほど、いつ・どの店で・何を、という細部を正確には覚えていないものです。この状態で件数や日付を挙げて話すと、事実と違う内容が調書に残ることがあります。
いったん調書ができると、後で訂正するには手間がかかります。取調べで作られた調書は、読み聞かせや閲覧を経て、増減変更の申立てをすることができ、内容に誤りがないと申し立てたときに署名押印を求められる仕組みです(刑事訴訟法198条4項・5項)。署名押印を拒むこともできます。
したがって、話すと決めた場合でも、覚えていないことは「覚えていない」と述べるほうが、後々の整合性は保ちやすいといえます。おおよその期間や回数の見当を伝えることと、確定した事実として断定することは、意味が違います。
判断材料③ 弁償や示談ができる相手かどうか
処分を判断するにあたっては、犯罪後の情況も考慮されます(刑事訴訟法248条)。被害を受けた店舗に弁償し、示談が成立していることは、その中でも重く扱われやすい事情です。
ここで見落とされやすいのが、相手が特定できていない被害については、弁償の相手も決まらないという点です。どの店にいつ何をしたのかが分からないままでは、謝罪も弁償も届けようがありません。話すことで初めて示談の対象にできる被害がある、という側面は、判断材料のひとつとして考慮に値します。
一方で、店舗側が示談に応じるかどうかは相手次第です。方針として被害弁償は受けるが示談書は作らない、本部の決裁が必要で時間がかかる、といった対応も珍しくありません。示談の見込みは、店舗の性格や被害の内容によって変わります。
判断材料④ 時間の経過・「常習」の意味・自首の余地
どのくらい前のことか
窃盗罪の公訴時効は7年です(刑法235条の法定刑を前提に、刑事訴訟法250条2項4号)。時効が完成した分は起訴されません。ただし、時効が完成しているかどうかは行為の時期を特定して初めて判断できるもので、記憶があいまいなまま「もう時効だと思う」と考えるのは危うい部分があります。
「常習」と言われることと、常習累犯窃盗は別
取調べで「常習だ」と言われると、それだけで特別に重い罪になるのかと不安になるかもしれません。しかし、窃盗を繰り返した場合に適用されうる常習累犯窃盗(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律3条)には、その行為より前の10年内に、これらの罪について3回以上、6月の拘禁刑以上の刑の執行を受けたか、その執行の免除を得ていることという形式的な要件があります。回数が多いというだけで、この罪名になるわけではありません。要件や刑の重さについては、当事務所の別の解説記事で詳しく扱っています。
自首として扱われる余地があるか
捜査機関に発覚する前に自首したときは、刑を減軽することができるとされています(刑法42条1項)。ここでいう発覚前とは、犯罪事実と犯人が誰かが捜査機関に判明していない段階を指すと理解されており、犯人として把握されたうえで所在だけが分かっていないという状態は含まれないとされています。
実務では、自ら進んで申告したという自発性も求められます。そのため、「ほかにもあるか」と尋ねられて答えた場合は、自首としては評価されにくい一方、捜査機関がまだ把握していない別の店舗の件を自分から申告した場合には、自首が成立する余地があります。もっとも、42条1項は減軽が「できる」という定め方で、減軽が保証されるものではありません。
| 判断材料 | 確かめておきたいこと | 判断への効き方 |
|---|---|---|
| 把握されている範囲 | 日付・店名まで挙げて聞かれているか | 供述の持つ意味が変わる |
| 記憶の確かさ | 期間・回数・商品を特定できるか | 調書の正確さに直結する |
| 弁償の相手 | どの店かを特定できるか | 示談の可否につながる |
| 時間の経過 | いつごろの行為か | 時効の判断の前提になる |
| 前刑の有無 | 過去10年内の刑の執行があるか | 適用される罪名に関わる |
| 申告の経緯 | 尋ねられて答えたのか、自分から述べたのか | 自首の評価に関わる |
立件されなかった余罪は、量刑でどう扱われるのか
起訴されていない犯罪事実を、実質的にそれを処罰する趣旨で量刑の資料として考慮し、重く処罰することは許されないとされています。起訴された事実についてのみ審理し判断するという原則があるからです。この点は、昭和41年の最高裁大法廷判決が示しています。
他方で、同じ判決は、被告人の性格・経歴・動機・目的・方法といった情状を推し量るための資料として余罪を考慮することまでは禁じられない、としています。翌年の昭和42年の大法廷判決では、余罪の期間・回数・被害金額がいずれも具体的に認定されていることなどから、実質的に処罰する趣旨で重い刑を科したものと認めざるを得ないとして、違法と判断されました。
つまり、立件されなかった余罪の件数が、そのまま刑に上乗せされていく仕組みにはなっていないということです。ただし、繰り返していたという事実が、その人の事情を見るときの材料として考慮されることはあります。
まとめて処分されるときの見え方
余罪も含めて起訴された場合、複数の罪は併合罪の関係になります。2個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、最も重い罪の長期に2分の1を加えたものが長期となり、それぞれの罪の長期の合計を超えることはできません(刑法47条)。罰金は各罪の多額の合計以下となります(同48条2項)。刑の枠が広がるという意味であって、件数分の刑が単純に足し算されるという意味ではありません。
身柄の手続としては、余罪を理由に改めて逮捕手続が取られること(再逮捕)や、あとから同じ検察官のもとに事件が送られること(追送致)があります。ただ、実際には複数の被害をまとめて捜査し、一度の手続の中で処理することも多く見られます。
反対の方向に働く仕組みもあります。被害が軽微で一定の要件を満たす場合に、警察限りで手続を終える微罪処分や、検察官が諸事情を考慮して起訴しない起訴猶予です。これらは余罪の有無だけで決まるものではなく、被害の程度、弁償の状況、生活状況などを含めて判断されます。
繰り返してしまう背景があるとき
経済的に困っていたわけではないのに繰り返してしまう、やめようと思ってもやめられない、といった状態が続いている場合、法律の手続だけを整えても同じことが起きかねません。医療機関や相談機関につながることが、生活を立て直すうえでも、手続の中で説明できる材料を作るうえでも意味を持つことがあります。
この場合、支援を受ける側には、いつごろからどのような状態が続いていたのかを正確に共有することが前提になります。刑事手続の中で何をどこまで述べるかとは別に、自分の状態を把握するための整理は、早い段階から始めておける部分です。
誤解されやすい点
最後に、よく行き違いが起きる点を挙げます。
・答えないこと自体は、法律上認められた対応であり、それだけで罪が加わるわけではない
・話したからといって、裏付けが取れなければ立件されるとは限らない
・話していなくても、店舗側の被害届や映像から立件されることはある
・繰り返していたというだけで、常習累犯窃盗という罪名になるわけではない
・立件されなかった余罪の件数が、そのまま刑に加算されていく仕組みではない
まとめ
・「正直に話すか」は、相手・内容・段階に分けると、順序の問題に置き換えられる
・弁護人には守秘義務があり、そこで事実関係を揃えたうえで取調べへの向き合い方を決められる
・供述と立件の間には裏付けという工程があり、両者は自動的には結びつかない
・記憶があいまいなまま断定すると、事実と違う調書が残ることがある
・弁償や示談ができるのは、相手を特定できた被害に限られる
余罪をどう扱うかは、事件の内容、これまでの経過、被害を受けた店舗の対応方針によって答えが変わります。取調べの場で一人で結論を出す必要はなく、弁護人と事実関係を共有したうえで方針を決めるという進め方が取れます。当事務所では、こうした場面でのご相談も承っています。


