未成年の被害者と示談する|親権者の同意と書面の当事者
「軽い気持ちだった」「本人に見せるつもりはなかった」。他人の名前や写真を使ってSNSのアカウントを作ってしまい、後から不安になって調べ始める方は少なくありません。
ところが「なりすまし アカウント 罪」と検索して出てくるのは、被害に遭った側に向けた記事がほとんどです。削除の求め方、相手の特定方法、慰謝料の請求方法。作ってしまった側が知りたいのは、そこではないはずです。自分の行為がどの条文に触れるのか、どこから線を越えるのか、いま何をしておけばよいのか。
この記事では、なりすましアカウントを作った側の立場から、問われうる責任の全体像を整理します。
「なりすまし罪」という条文は置かれていない
まず前提として、日本の法律に「なりすまし罪」という罪名はありません。他人の名前を名乗ること自体を正面から処罰する条文は、刑法にも特別法にも置かれていないのが現状です。
ただし、これを「だから何も起きない」と読むのは早計です。実務では、なりすましという行為そのものではなく、そのアカウントで何をしたかを分解して、個別の条文にあてはめていきます。同じ「なりすましアカウントを作った」でも、作り方、投稿の中身、相手とのやり取りによって、動く条文はまったく変わります。
責任が生じうる場面を段階で分けると、次のように整理できます。
| 段階 | 問題になる場面の例 | 関係しうる法律 |
|---|---|---|
| 作る | 他人の氏名・顔写真・プロフィールをそのまま使う/本人のIDでログインする | 不正アクセス禁止法/著作権法/民事上の肖像権・人格の同一性 |
| 発信する | 本人が言ったかのような投稿/第三者への中傷/企業を装った告知 | 名誉毀損罪/侮辱罪/信用毀損罪・業務妨害罪 |
| やり取りする | 金銭や商品を受け取る/決済に使う/資格や肩書きを名乗る | 詐欺罪/電子計算機使用詐欺罪/軽犯罪法/資格の名称を定める各法律 |
以下、この順番で見ていきます。
「新しく作った」のか「本人のアカウントに入った」のか
最初の分かれ目は、認証をどう通したかです。同じ「なりすまし」という言葉でくくられていますが、法律上はまったく別の話になります。
自分の連絡先で新しく作った場合
自分のメールアドレスや電話番号を使って、他人の名前と写真を掲げたアカウントを新規に開設した場合、他人のIDやパスワードを入力する場面がありません。不正アクセス禁止法が禁じているのは、他人の識別符号を電気通信回線を通じて入力し、本来は使えないはずの機能を使える状態にする行為ですから、新規作成型では同法の問題は生じないのが通常です。
もっとも、これは「不正アクセス禁止法には触れない」というだけのことで、以下で述べる責任は別に残ります。
本人のアカウントに入った場合
他人のIDとパスワードでログインした、いわゆる乗っ取り型は、不正アクセス禁止法が正面から問題になる場面です。同法違反の法定刑は3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金とされています。パスワードを不正に取得する行為、保管する行為も、それぞれ別に処罰の対象とされています。
見落とされやすいのが、その中間にある経路です。新しくアカウントを作ったつもりでも、認証コードを受け取るために本人のメールアカウントにログインしていた、という場合には、その部分について同法の問題が生じます。どの時点で他人の認証情報を通ったのかは、早い段階で自分なりに整理しておきたいところです。
発信した内容によって動く条文
次に、そのアカウントで何を発信したかです。
本人が言ったことになる投稿
なりすましの典型は、本人になりきって「自分は◯◯をした」という趣旨の投稿をする形です。閲覧した人が本人の発言だと受け取る状態で、本人の社会的評価を下げる具体的な事実が示されれば、なりすまされた本人に対する名誉毀損の問題になります。書いた内容が事実であるかどうかは、成立の判断を左右しません。
具体的な事実の摘示がなく、本人を貶める表現にとどまる場合は、侮辱の問題として扱われます。どちらも親告罪とされており、告訴期間は犯人を知った日から6か月です。ただし、告訴は起訴のための条件であって捜査を始めるための条件ではないため、告訴がない段階で捜査が動くことはあります。
第三者に向けた投稿
なりすましたアカウントから別の人を中傷した場合、責任は二方向に生じます。中傷された第三者に対する責任と、「そういう発言をする人物だ」と受け取られたなりすまされた本人に対する責任です。裁判例にも、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば本人の投稿だと誤認されるとしたうえで、本人が他者を根拠なく侮辱する人物であるかのような誤解を与えたとして、本人の社会的評価の低下を認めたものがあります。
「本人を攻撃したつもりはない」という説明が、そのままでは通りにくいのはこのためです。
企業や店舗を装った場合
企業や店舗の公式アカウントに似せたアカウントから、告知や謝罪を装った投稿をした場合、その内容が虚偽であれば信用毀損や業務妨害の問題になります。ここで妨害の中身として見られるのは、売上の減少だけではありません。問い合わせ対応、事実確認、注意喚起の告知といった、本来しなくてよかった作業に人手と時間が割かれたこと自体が、業務への支障として評価されます。
名乗った肩書きが別に問題になる場合
意外に見落とされやすいのが、プロフィール欄に書いた肩書きです。
経歴や職業に嘘を書くこと一般が犯罪になるわけではありません。ただし、法令が定めた称号は別の扱いを受けます。軽犯罪法は、官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号を詐称した者や、資格がないのに法令で定められた制服・記章などを用いた者を、拘留又は科料に処すると定めています。警察官を名乗った事案について、その場の座興といえる程度を超えていれば成立を妨げないとした裁判例もあります。
さらに、資格を定める個別の法律に、無資格者がその名称を使うことを禁じる規定が置かれていることがあります。たとえば弁護士法は、弁護士でない者が弁護士や法律事務所の標示・記載をすることを禁じ、違反した場合に100万円以下の罰金を定めています。医師についても、医師でない者が医師や紛らわしい名称を用いることが禁じられ、罰金が定められています。こうした個別法の規定がある分野では、実務上はそちらが先に検討されます。プロフィールに書いた一行が、投稿の中身とは別に問題になりうるということです。
相手とのやり取りの結果で動く条文
なりすましたアカウントで他人とやり取りし、金銭や商品を受け取った場合には、詐欺の問題になります。本人だと信じ込ませた点が人を欺く行為にあたり、それによって相手が財物を交付したという流れがつながれば、成立が認められます。
注意したいのは、受け取っていなくても未遂として処罰の対象になりうることです。「結局お金は振り込まれなかった」という事情は、事件化しない理由にはなりません。
また、本人のアカウントに結び付いた決済手段やポイントを使った場合には、人ではなく機械に虚偽の情報を与えたものとして、電子計算機使用詐欺の問題として扱われることがあります。
刑事の条文に当たらなくても民事の責任は残る
この記事でとくにお伝えしたいのが、ここから先の部分です。刑事の条文にあてはまらない場合でも、民事上の損害賠償の対象になることは珍しくありません。
人格の同一性に関する利益
名誉毀損にもプライバシー侵害にも当たらないような形のなりすましについて、裁判例は「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」という考え方を認めてきました。いわゆるアイデンティティ権と呼ばれるものです。
当初の裁判例は、なりすまされた人が平穏な日常生活を送ることが困難になるほどの精神的苦痛を受けた場合、という限定的な言い方をしていました。その後の大阪地方裁判所の裁判例では、人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかという枠組みに整理されており、要件としては緩やかになった方向です。「本人の悪口は書いていない」という事情だけでは、責任を免れる理由になりません。
顔写真を使ったこと
プロフィール画像に本人の顔写真を使った場合、プライバシー侵害という構成は通りにくいとされています。本人が自ら公開していた写真であれば、第三者がアクセスできる領域に置かれていたものとして、私生活上の秘密には当たらないと判断されるためです。
もっとも、これで終わりではありません。肖像は人格の象徴であり、みだりに利用されない権利があるとされており、使用の目的、必要性、態様などを総合して受忍限度を超えるかどうかが判断されます。なりすましのために無断で使ったという事情は、目的が不当で必要性もないと評価されやすい方向に働きます。
加えて、その写真を撮影した人の著作権の問題も残ります。本人が自分で撮影してプロフィール画像にしていた写真を無断で複製した事案で、著作権侵害を認めた裁判例があります。
なりすまされた側は、名誉権、肖像権、著作権、人格の同一性といった構成を並べて主張します。ひとつが通らなくても他が残る組み立てになっているため、「この点は当たらないはずだ」という部分的な反論だけでは、話は終わりません。
アカウントを消しても終わらない理由
心当たりのある方が最初にしてしまいがちなのが、アカウントの削除です。しかし、削除は責任を消すための手続きではありません。
なりすまされた側は、投稿の画面を保存したうえで、プロバイダに対して発信者情報の開示を求める手続きを取ることができます。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法のもとで、裁判所を通じた開示命令の手続きが用意されています。この過程で、プロバイダから発信者本人に意見照会書が届くことがあります。心当たりのある方が事態を知るのは、この書面が届いたときであることが少なくありません。
アカウントを消しても、通信の記録は一定期間プロバイダ側に残ります。それに、削除したこと自体が後から不利に評価される場面もあります。
心当たりがあるときに控えたほうがよい対応
- なりすまされた本人に直接連絡して、事情を説明したり謝罪したりすること。感情的なやり取りになり、別の問題が生じることがあります。
- やり取りの記録や画像を消してしまうこと。自分に有利な事情まで一緒に消えてしまいます。
- 届いた意見照会書を放置すること。回答の期限があり、答えないまま手続きが進みます。
- 新しいアカウントを作り直して様子を見ること。同一の利用者であることは記録から結び付けられます。
- インターネット上の情報だけで「これは犯罪にならない」と判断してしまうこと。多くの記事は被害者側に向けて書かれています。
整理しておきたいこと
- アカウントをいつ、どの連絡先で作ったか。認証の過程で他人の情報を使っていないか。
- プロフィールに何を書いたか。氏名、写真、肩書きの出所はどこか。
- どのような投稿をしたか。本人になりきった発言か、第三者に向けた発言か。
- 金銭や商品のやり取りがあったか。あった場合は、その金額と経路。
- 本人や第三者から、すでに連絡や通知が届いているか。
弁護士に相談する意味
なりすましの事案では、相手方が一人とは限りません。なりすまされた本人、投稿で名指しされた第三者、やり取りをした相手方と、対応すべき相手が複数になることがあります。誰に、どの順序で、どの範囲の話をするかによって、その後の展開は変わります。
また、名誉毀損や侮辱は親告罪ですから、告訴がされる前の段階で本人との間に解決の形をつくれれば、事件化しないまま終わる可能性があります。開示手続きの途中で意見照会書が届いた段階も、対応を検討できる時点のひとつです。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、24時間受付で初回のご相談を無料でお受けしています。
よくある質問
本人の許可を得て作った場合はどうなりますか
本人が了解していれば、その本人との関係では問題になりにくくなります。ただし、了解の範囲は限られているのが通常です。アカウントの開設を認めたことと、そこから第三者を中傷することを認めたことは別ですし、投稿で名指しされた第三者との関係では、本人の了解は理由になりません。
パロディやファンのアカウントだと書いていれば問題ないですか
本人ではないとひと目で分かる表示があるかどうかは、閲覧者が本人の発言と受け取ったかを判断するうえで意味を持ちます。多くのSNSも、パロディやファンのアカウントについて本人と誤認されない表示を求めています。もっとも、表示があっても、投稿の中身が本人や第三者の評価を下げるものであれば、その部分は別に評価されます。
実在しない人物のアカウントはどうですか
実在しない人物を設定しただけであれば、なりすまされた本人がいないため、名誉毀損や人格の同一性の問題は生じにくくなります。ただし、その架空の人物を使って金銭を受け取れば詐欺の問題になりますし、企業や店舗を装えば業務妨害の問題になります。架空かどうかだけで責任の有無が決まるわけではありません。
すぐに削除した場合は考慮されますか
被害の拡大を防いだという事情は、処分や賠償の場面で有利な事情として説明できる余地があります。ただし、いったん生じた責任がなくなるわけではありません。削除の前に、自分がした行為の記録をどう扱うかは、弁護士に相談したうえで決めることをおすすめします。
まとめ
- なりすましそのものを処罰する条文はなく、アカウントで何をしたかを分解して個別の条文にあてはめる形になります。
- 新しく作った場合と本人のアカウントに入った場合とで、不正アクセス禁止法の適用は分かれます。認証の経路が分かれ目です。
- 本人になりきった投稿は本人への名誉毀損、第三者を中傷した投稿は二方向の責任という形で問題になります。
- 法令が定めた称号や資格の名称を名乗ると、投稿の中身とは別に、軽犯罪法や個別の法律の問題が生じます。
- 金銭を受け取っていなくても、詐欺の未遂として扱われる場面があります。
- 刑事の条文に当たらない場合でも、人格の同一性、肖像権、著作権といった民事の構成が残ります。
- アカウントを削除しても記録は残り、開示手続きの中で意見照会書が届くことがあります。
なりすましの事案は、軽い気持ちで始めたつもりでも、相手方が複数になり、刑事と民事の両方が同時に問題になりやすい類型です。心当たりのある段階で状況を整理しておくことが、その後の選択肢を広げます。ひとりで抱え込まず、早い段階でご相談ください。


