【解決事例】デリヘル利用後にキャストの怪我を主張された男性が、店舗との合意書締結で解決した事例
「一晩で数十万円、通っているうちに総額で数百万円を支払っていました。あれだけの金額が、有効な契約として通ってしまうのでしょうか」。そうしたご相談を受けることがあります。一方で店舗側からは「料金は表示していたし、注文したのはご本人だ」という説明が返ってきます。どちらの言い分にも、それぞれの理屈があります。
インターネット上では「あまりに高額な契約は公序良俗違反で無効になる」という説明をよく見かけます。この説明自体が誤っているわけではありません。ただ、裁判で無効と判断されてきた場面は、金額が大きいという一点だけで決まったものではなく、その金額に至るまでの過程に何があったかを見たうえで判断されてきました。相当に大きな金額であっても、無効とは認められなかった例もあります。
この記事では、すでに支払ってしまった代金の返還を求める場面に絞り、民法90条の公序良俗と、そこから導かれてきた暴利行為という考え方を、裁判で何を示すことになるのかという視点から整理します。まだ支払っていない売掛の請求を受けている場合の考え方、恋愛感情につけ込まれた場合の消費者契約法による取消し、改正風営法と民事の請求との関係については、それぞれ別の記事で扱っています。
「高額であること」だけでは無効になりません
出発点は契約の自由、例外の入口が民法90条
どのような内容の契約を結ぶかは当事者が自分で決められるというのが民法の原則で、飲食やサービスの価格について法律が一律の上限を定めているわけでもありません。そのため、「相場より高い」「自分の収入では支払いきれない額だった」という事情だけでは、契約が無効だという結論には直ちに結びつきません。
金額の大きさは判断の材料の一つではありますが、それ単独で結論を決める要素としては扱われてきませんでした。この点を先に押さえておかないと、話し合いでも裁判でも、かみ合わない議論が続くことになります。
例外の入口になるのが民法90条です。公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とすると定められており、2020年4月施行の改正で「事項を目的とする」という文言が削られ、契約の中身だけでなく契約に至る過程も含めて評価する余地があることが、条文の上でも読み取りやすくなりました。もっとも文言は抽象的で、当てはめの手がかりになるのが、次に説明する暴利行為という枠組みです。
暴利行為という枠組み|二本の柱で見る
柱の一つは、給付の釣り合い
古くから、相手方の窮迫・軽率または無経験を利用して著しく過当な利益を得ようとする行為は公序良俗に反すると理解されてきました。ここには二つの要素が含まれています。一つは、受け取る側の利益が提供したものと比べて著しく釣り合っていないという客観的な面です。伝票の品目と実際に提供された内容の対応関係や、短時間のうちに注文が積み上がった経過などが、この柱を支える材料になります。
もう一つは、相手の状態に乗じたかどうか
二つ目は主観的な面です。支払う側が、切迫した状況にあった、軽率に判断してしまった、その種の取引に慣れていなかったといった状態にあり、受け取る側がそれを認識したうえで利用した、という関係があるかどうかが問われます。収入や資産の状況を把握したうえで注文が勧められていた、といった事情がここに位置づけられます。
二本の柱は相関的に判断されてきました
この二つは、それぞれが独立に高い水準を満たさなければならないというものではなく、一方の程度が強ければ他方は緩やかに見るという相関的な判断がされてきました。なお2017年の民法改正の議論では、この考え方を条文として書き込む案も検討されましたが明文化は見送られ、現在も90条の解釈として扱われています。
| 柱 | 見られている内容 | 裏づけになりうる事実 |
|---|---|---|
| 給付の釣り合い | 受け取る側の利益が、提供された飲食やサービスの内容と著しく釣り合っていないか | 伝票の品目と実際に提供された内容の対応/同種の店舗の料金水準との開き/短時間に積み上がった注文の内訳 |
| 乗じた事情 | 支払う側の窮迫・軽率・無経験といった状態を知りながら、それを利用したか | 支払能力を把握したうえでの注文の勧め/年齢や社会経験/判断力が落ちる状況での注文/断りにくい関係の作られ方 |
どの入口から組み立てるかで、結論が変わります
公序良俗は、後ろに控える一般条項
民法90条は適用範囲の広い規定ですが、その分だけ要件が抽象的で、裁判所も慎重に扱う傾向があります。そのため実務では、まず個別の条文で説明がつかないかを検討し、そこに収まりきらない部分について90条を持ち出すという順序をとることが少なくありません。個別の条文としては、消費者契約法による取消し、民法96条1項の詐欺または強迫による取消し、違約金などについて定める消費者契約法9条1項1号、同法10条が候補になります。
無効と取消しでは、返る金額の決まり方が異なります
見落とされやすい点です。契約が民法90条によって無効となる場合、給付を受けた者は相手方を原状に復させる義務を負います(民法121条の2第1項)。返還を求める側から見れば出発点は全額ですが、他方で、提供を受けた飲食などの分をどう扱うかが争点として残ります。これに対して消費者契約法による取消しの場合、消費者が返還する義務を負うのは現に利益を受けている限度にとどまります(同法6条の2)。
どの入口を選ぶかは、主張が通りやすいかどうかだけでなく、通ったときに手元にいくら戻るかにも関わってきます。
| 入口 | 主な根拠 | 効果と返還の枠組み | 期間の制限 |
|---|---|---|---|
| 公序良俗・暴利行為 | 民法90条 | 契約は初めから無効。給付を受けた者は原状に復させる義務を負う(民法121条の2第1項) | 返還請求権は民法166条1項による |
| 消費者契約法による取消し | 消費者契約法4条 | 取り消せば初めから無効。消費者の返還義務は現に利益を受けている限度(同法6条の2) | 追認できる時から1年、契約時から5年(同法7条1項) |
| 詐欺・強迫による取消し | 民法96条1項 | 取り消せば初めから無効。返還の枠組みは民法121条の2 | 追認できる時から5年、行為の時から20年(民法126条) |
| 不当な取立てなどによる賠償 | 民法709条 | 損害の賠償 | 知った時から3年、行為の時から20年(民法724条) |
公序良俗を持ち出すときに現れる民法708条
自分の請求にも跳ね返りうる規定
民法708条は、不法な原因のために給付をした者はその給付したものの返還を請求することができないと定めています。ここでいう不法とは、公序良俗に反することを指すと理解されています。
契約が公序良俗に反して無効だと主張すると、店舗側から「それならば支払われた金銭も不法な原因に基づく給付であり、返還を求めることはできない」という反論が返ってくる筋道があります。公序良俗違反の主張は、返還を求める側にとって諸刃の面を持っています。
ただし書と、不法性の釣り合い
もっとも708条にはただし書があり、不法な原因が受益者についてのみ存したときは返還請求を妨げないとされています。さらに裁判では、双方に問題があった場合でも、受け取った側の不法性が支払った側のそれと比べて著しく大きいときには返還請求を認める扱いがされてきました。
また、民法90条に反するとされたことが、そのまま708条の適用に直結するわけでもありません。708条にいう不法は、単に法令に反するというだけでなく、倫理的な非難に値する程度のものを指すと理解されています。相手の状態に乗じて過大な利益を得た側と、乗じられた側とでは、この釣り合いの評価は同じにはなりません。
裁判では、何を示すことになるのか
無効を主張する側が、説明の重さを負います
契約は有効であることが出発点ですから、無効という評価を基礎づける事実は、無効を主張する側が具体的に示すことになります。金額の大きさは伝票や明細があれば示しやすい事実ですが、それだけでは足りません。
示す必要があるのは、自分がどのような状態にあり、相手がその状態をどのように扱ったのかという点です。「高すぎる」という評価を繰り返すのではなく、いつ、誰から、どのような言葉をかけられ、その直後にどの注文が入り、いくらを支払ったのか。この対応関係を、一つひとつ出来事として並べていく作業になります。
手元に残しておきたい資料
交渉の段階でも訴訟の段階でも、次のような資料が判断の土台になります。
- 伝票、領収書、請求書など、いつ、何に、いくら支払ったのかが分かるもの。
- クレジットカードの利用明細や、銀行の振込記録、送金アプリの履歴。
- 担当者や店舗とのやり取りが残っているメッセージ、通話の履歴、撮影した画像。
- 支払いのために借入れをした場合の、その契約に関する書類。
- 当時の収入や資産の状況、勤務先や生活の状況が分かる資料。
やり取りが消えると、二本目の柱を支える材料そのものが失われます。求めるかどうかを決める前でも、保存だけは先に済ませておくことをお勧めします。
全部か、まったくかの二択ではありません
契約の一部だけが無効とされることもあります。来店ごとに別の契約が成立していると整理できる場合には、特定の日の注文についてだけ効力が争われることがあります。違約金やペナルティといった名目の部分に限って効力が否定される余地もあります。実際の解決でも、一部の返還で合意して終えるという着地が現実的な選択肢になる場面があります。
訴訟を選ぶ前に確かめておきたいこと
裁判で認められる見通しと、話し合いで返金に応じてもらえるかどうかは別の問題です。返還についての合意そのものは有効ですから、裁判では厳しい見通しの事案でも、交渉の余地が閉ざされているとは限りません。
費用と時間、そして相手の資力
訴えを起こす際の手数料は請求する金額に応じて決まり、これに弁護士費用が加わります。審理では主張と証拠のやり取りを重ね、必要に応じて当事者や関係者の尋問が行われます。
そして、判決を得ることと、実際にお金が戻ってくることは別の段階です。相手方に支払う資力がない場合や、店舗の実体がつかめない場合には、判決を得ても回収が進まないことがあります。請求先を店舗とするのか、担当者個人とするのか、その双方とするのかという検討も、この段階で必要になります。
権利には期間の制限があります
不当利得としての返還請求権については民法166条1項、不法行為に基づく損害賠償請求については民法724条、取消権については民法126条や消費者契約法7条1項に、それぞれ期間の定めがあります。支払いから時間が経つほど、資料の保存期間や記憶の面でも不利になります。
かえって不利になりやすい行動
返還を求める過程で、次のような行動は避けたほうがよい場面が多くあります。
- 店舗や担当者のもとに押しかけ、その場で返金を求め続けること。
- 腹立ちまぎれに、伝票の写真やメッセージのやり取りを消してしまうこと。
- 店名や担当者名を挙げて、経緯をSNSに書き込むこと。
- 警察に届ける、勤務先に知らせるといった言葉を、返金を引き出すための材料として使うこと。
- 内容を確かめないまま、清算をうたう書面に署名すること。
民事の争いのつもりで行ったことが、刑事の問題として立場を入れ替えてしまうことがあります。不退去や脅迫、恐喝に関する規定が問題になる場面です。また、いったん清算条項を含む書面に署名すると、その後に返還を求めることが難しくなります。
よくあるご質問
料金が相場よりかなり高いと感じます。それだけで無効になりますか
金額の大きさだけを理由に無効と判断されることは、実際には多くありません。判断の枠組みが二本の柱で成り立っている以上、相手が自分の状態をどう扱ったのかという部分を、具体的な出来事として示せるかどうかが分かれ目になります。
支払ってから何年も経っています。もう請求できませんか
期間の制限はありますが、その起算点は権利の種類によって異なります。支払った日から一律に数えるとは限らず、事情を知った時点が基準になる場合もあります。年数だけで判断せず、経緯とあわせて確認することをお勧めします。
担当者個人に手渡した現金も、同じように返還を求められますか
店舗との契約に基づく代金と、担当者個人に渡した金銭とでは法律上の枠組みが変わります。後者は贈与として整理されることがあり、すでに引き渡した部分については原則として撤回できないとされています(民法550条ただし書)。ただし、渡すに至った意思表示そのものに問題があれば、別の検討の余地が残ります。
まとめ
- 契約の内容は当事者が決めるのが原則で、金額が大きいという一点だけで無効になるわけではありません。
- 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とされます(民法90条)。
- 暴利行為は、給付の著しい不均衡と、相手の窮迫・軽率・無経験に乗じたことという二つの要素を、相関的に見て判断されてきました。
- 無効の場合、給付を受けた者は原状に復させる義務を負います(民法121条の2第1項)が、消費者契約法による取消しでは、消費者の返還義務は現に利益を受けている限度にとどまります(同法6条の2)。
- 公序良俗違反を主張すると、不法な原因のために給付をした者の返還請求を制限する規定(民法708条)が反論として現れることがあり、ただし書と不法性の釣り合いが争点になります。
- 違約金やペナルティの名目で受け取られた部分については、消費者契約法9条1項1号や10条が問題になることがあります。
- 返還を求める権利には期間の制限があります(民法166条1項、724条、126条、消費者契約法7条1項)。
支払った代金の返還をご検討中の方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルや繁華街での金銭トラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。支払った金額や経緯によって、どの入口から組み立てるのが適しているかは変わります。
すでに支払ってしまった方も、これから請求を受けそうだという方も、資料が手元に残っているうちにご相談いただくことで、選べる方法の幅が広がります。どこまで求められるのか、費用や時間に見合うのかという点を含めて、見通しを一緒に整理いたします。


