風俗トラブルの全体地図|「刑事」「民事」「発覚」の3つの時計で整理する

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店でのトラブルは、当事者からすると「ひとつの出来事」に見えます。しかし実際には、性質の異なる三つの時間が同時に進んでいます。警察や検察が動く時間、お金のやり取りが動く時間、そして「誰に知られるか」が動く時間です。

 この三つを一本の線だと思い込むと、「もう終わった」と考えた後に別の連絡が届き、対応が後手に回ることがあります。この記事では、風俗トラブルを出来事の名前ではなく進み方の違いで整理し、自分がいまどの時間の中にいるのかを確かめるための地図をお示しします。

 対象は、風俗店を利用する側(客側)です。相手が18歳未満である可能性がある場合や、すでに逮捕・勾留されている場合は、状況によって判断が変わりますので、個別に弁護士へご相談ください。

「本番」「盗撮」「ぼったくり」で分けるだけでは足りない理由


 風俗トラブルを説明する記事の多くは、出来事の名前で分類します。本番、盗撮、料金、恐喝といった具合です。分類としては分かりやすいのですが、実際に対応する場面では足りません。同じ「盗撮」でも、刑事の話と、お金の話と、知られるかどうかの話は、別々の相手が、別々の速さで進めるからです。

 そこで本記事では、三つの「時計」に分けて考えます。

  • 刑事の時計=警察・検察・裁判所が動く時間
  • 民事の時計=請求と支払い、つまりお金が動く時間
  • 発覚の時計=家族・勤務先・インターネットなどに情報が伝わる時間


 よくあるご相談を当てはめると、次のようになります。

  • 本番行為をめぐるトラブル=三つとも動き得る
  • 盗撮・撮影をめぐるトラブル=三つとも動き得る(データが残るため発覚の時計が長くなりやすい)
  • 料金・ぼったくり・返金=主に民事の時計
  • 「罰金」や高額な示談金の請求=民事が中心だが、恐喝・脅迫の問題として刑事が動くこともある
  • 店やキャストからの脅し・情報の拡散=自分が被害を受ける側になる場面


 重要なのは、この三つが連動しておらず、止められる人もそれぞれ違うという点です。ひとつが終わっても、残る二つは動き続けることがあります。

時計動かすのは誰か進み方終わり方
刑事捜査機関(最終的な判断は検察官)身柄事件は法律上の期限があり速い。在宅事件は法律上の期限がなく遅くなりやすい不起訴・略式命令・公判での判決
民事相手方(店・キャスト本人・代理人)相手のペース。ただし書面が届くと期限が生まれる合意(示談)・支払い・時効
発覚特定の誰か一人ではない一方通行で、時期がずれて表れることがある明確な終わりがない


刑事の時計|起点は「行為の時」ではなく「知られた時」


 刑事の時計は、行為の時点ではなく、捜査機関がその出来事を知った時点から事実上動き始めます。被害届や通報に限らず、店側からの相談、防犯カメラ、別の事件の捜査などから把握されることもあります。公訴時効そのものは行為の時から進みますが、「時間が経ったから安全」とも「連絡がないから終わった」とも言い切れません。

 進み方には二つの相があります。逮捕された場合は、警察の持ち時間48時間、検察官の持ち時間24時間、勾留10日と延長10日という法律上の枠組みの中で進み、身柄の拘束期間には上限があります。これに対して在宅で捜査が進む場合は、いつまでに処分を決めなければならないという法律上の期限がありません。数か月動きがなく、忘れたころに連絡が来ることもあります。

 止めるのは自分でも相手でもなく、検察官です(刑事訴訟法248条)。被害者との示談は判断材料として重視されますが、2017年の法改正で性犯罪の多くが非親告罪となったため、被害届の取下げや「許す」という意思表示があっても、それだけで手続きが自動的に終わるわけではありません

 終わり方は、不起訴、略式命令(罰金)、公判請求のいずれかです。なお、不起訴であっても、捜査を受けた記録(前歴)は残ります。どの行為がどの罪名にあたり得るか、その重さがどの程度かは、別のコラムで一覧にしていますので、そちらをご覧ください。

民事の時計|動かしているのは相手方


 民事の時計は、相手方が動かす時計です。まず確かめたいのは、請求してきているのが誰かということです。店なのか、キャスト本人なのか、本人の代理人を名乗る第三者なのか。この三者は法律上まったく別であり、店に支払っても、キャスト本人との間の清算にはなりません。後から本人名義で請求が届く余地が残ります。

 速さは相手のペースに左右されますが、書面が届いた時点で性質が変わります。相手が一方的に書いた「三日以内に支払え」という期限そのものに、法律上の効力はありません。一方、裁判所から支払督促や訴状が届いた場合は、決められた期間内に異議や答弁書を出さないと、不利な内容が確定し得ます。相手が言っているだけの期限か、法律上の期限かは、必ず区別してください。

 終わり方は、合意(示談)、支払い、時効のいずれかです。ここで注意したいのは、一部だけ支払う、分割の念書を書くといった行為が、支払義務を認めたものとして時効の進み方に影響し得ることです。「とりあえず少しだけ」という対応が、後の交渉の前提を変えてしまうことがあります。

 なお、店が誓約書や料金表で定める「罰金」は刑罰の名称であり、私人が刑罰を科すことはできません。請求された金額が、そのまま支払義務のある金額になるわけでもありません。落ち度があるかどうか、支払義務があるかどうか、金額が相当かどうかは、それぞれ別の問題です。この見分け方は、不当請求を扱ったコラムに譲ります。

発覚の時計|誰も完全には止められない


 三つのうち最も誤解されやすいのが、発覚の時計です。刑事も民事も、最後は誰かが判断して終わります。しかし発覚の時計には、明確な終わりがなく、動かしている人も一人ではありません

情報が伝わる四つの経路


  1. 手続きに伴うもの(長期間の不在、書面の宛先、自宅や職場での捜索)
  2. 相手方の行動(自宅や勤務先への連絡、インターネットへの書き込み)
  3. 報道とその後の記録(記事や書き込みが残り続ける)
  4. 自分の行動(急な出金や借入れ、不自然な説明、周囲への相談)


 制度の面では、勾留された場合の通知の仕組みが法律で定められており、弁護人がいるときは弁護人に通知されます(刑事訴訟法79条)。また、警察が勤務先へ連絡しなければならないという一般的な決まりはありません。もっとも、長期間の不在そのものを隠すことはできませんし、裁判所や捜査機関が発する書面の宛先を自由に変えられるわけでもありません。

 発覚の時計には、時期がずれて表れるという特徴もあります。前科と前歴では残り方が違い、照会される場面も異なります。子どもに関わる職種については、こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)による確認の仕組みが始まる予定で、対象となる職種や確認できる期間は制度ごとに定められています。

 そして最も気をつけたいのが、発覚を止めようとした行動が、他の二つの時計で不利に働くことがあるという点です。データを消す、相手に直接連絡する、呼び出しに応じない、用意できない額を借りてでも即金で払う。いずれも「知られたくない」という動機から出やすい行動ですが、刑事や民事の評価を悪くする方向に働き得ます。

三つの時計はどこで交差するか


 三つは独立していますが、まったく無関係でもありません。ある行動が、ある時計には効き、別の時計には効かないという形で交差します。

場面・行動主に効く時計効かない・逆に働き得る時計
被害者本人との示談刑事と民事の両方発覚(すでに伝わった事実は戻らない)
店への支払い民事の一部刑事、キャスト本人との清算
記録やデータの削除効く時計はない刑事(証拠隠滅と見られ得る)
相手本人への直接連絡効く時計はない刑事(接触と評価され得る)、民事(言質になる)
身柄を拘束される刑事(急に速く進む)発覚(不在により一気に進む)


 この表でお伝えしたいのは、「三つ全部にいちばん良い一手」は、多くの場合存在しないということです。だからこそ、順番と優先順位を決める必要があります。

自分がいまどの時計の話をしているのか


 現在地を確かめるには、次の四つを紙に書き出すのが早道です。

  1. 連絡してきているのは誰か(捜査機関/店/キャスト本人/第三者)
  2. 求められているのは何か(出頭・説明・金銭・署名)
  3. 示された期限は法律上のものか、相手が言っているだけか
  4. 知られたくないのは何で、その経路は三つのどれにあたるか


 書き出してみると、三つの時計それぞれで最善を目指すと、どこかで矛盾することが見えてきます。たとえば、家族に知られたくないという理由で急いで高額を支払えば、民事では不利な前提を作ることになり、刑事の結論が決まるわけでもありません。どれを優先するかは価値判断であり、法律だけで決まるものではありません。だからこそ、決める前に材料をそろえることに意味があります。

よくある五つの誤解


  • 示談すれば手続きは終わる……処分を決めるのは検察官で、示談は重要な判断材料の一つです
  • 店に払えば終わる……キャスト本人との関係は残り得ます
  • 警察から連絡が来ないから終わった……在宅のまま進んでいることがあります
  • 不起訴なら何も残らない……前歴は残ります
  • 時間が経てば全部消える……三つの時計で、消え方も残り方も違います


まとめ


 風俗トラブルを整理するときは、出来事の名前ではなく、刑事・民事・発覚という三つの時計に分けて考えると、いま何を決めるべきかが見えやすくなります。三つは連動しておらず、止められる人も、終わり方も違います。

 早く動けば必ず良い結果になる、というものではありません。ただ、早い段階ほど、選べる手段が多く残っていることは確かです。三つの時計のどれかが動き始めていると感じたら、何かを決めてしまう前に、弁護士に事実関係を整理してもらうことをおすすめします。責任を免れるためではなく、自分が負うべき責任の範囲を正しく確定させるためです。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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