ラブホテル・ビジネスホテルでの撮影|「公共の場所」ではない場所の扱い
「売掛の支払いが遅れたところ、担当者から一日に何十件も連絡が来るようになり、実家や職場に行くと言われている」。「返せないなら風俗で働けばいいと持ちかけられた」。売掛金の取立てをめぐるご相談では、支払義務そのものよりも、求め方の激しさに参ってしまっているという声を多くうかがいます。ご本人ではなくご家族からご相談をいただくこともあります。
2025年6月に施行された改正風営法によって、悪質な取立てに刑事罰が設けられたという説明を目にした方も多いと思います。この説明自体は誤りではありません。ただ、この規定がどの店の、どの行為に、どこまで及ぶのかは条文の作りが細かく、「取立てが違法になった」という要約だけでは、ご自身の場面に当てはまるのかまでは分かりません。また、この規定に触れる取立てがあったからといって、売掛金の支払義務がその場で消えるわけでもありません。
この記事では、取立てを受けている客側の立場から、22条の2が何を禁じているのか、刑事罰が現実に使える場面はどこか、ほかにどのような物差しがあるのかを整理します。支払義務の有無や、すでに支払った金銭を取り戻せるかという論点は別の記事に譲り、取立ての「やり方」に絞ってお伝えします。
規制されているのは売掛そのものではなく、取立ての態様です
はじめに、よくある誤解を整理しておきます。
売掛(ツケ)自体は禁止されていません
飲食代金を後払いにする仕組みそのものは、改正風営法でも禁止されていません。売掛を禁じる条例の制定が検討された地域はありますが、成立には至っていません。一部の店舗が売掛を取りやめると表明した例もありますが、これは業界内の取決めです。
刑事罰の対象になったのは、売掛の存在ではなく、支払わせるための求め方です。ここを取り違えると、「売掛があるのだから強く言われても仕方がない」という受け止めにも、「売掛はもう違法だから払わなくてよい」という受け止めにも傾いてしまいます。どちらも正確ではありません。
対象になるのは接待飲食営業を営む者です
風営法22条の2の名宛人は、同法2条1項1号の営業、いわゆる接待飲食営業を営む者です。ホストクラブ、キャバクラ、ラウンジ、料理店などが含まれます。条文は「営む者」と書かれており、許可を受けているかどうかを問わない書きぶりです。一方、性風俗店やメンズエステの料金をめぐる取立ては対象外で、後述する条例や刑法の枠組みで考えることになります。
風営法22条の2が禁じている2つの行為
22条の2は、1号と2号で異なる場面を扱っています。
1号 支払わせる目的で客を威迫して困惑させること
1号は、客に注文等をさせ、または料金の支払等をさせる目的で、その客を威迫して困惑させることを禁じています(風営法22条の2第1号)。ここでいう威迫は、行政の解説では、脅迫にまでは至らないものの、言葉や動作によって気勢を示し、相手に不安の念を生じさせることと説明されています。刑法の脅迫罪よりも手前の段階を含む概念だとお考えください。
見落とされやすいのが「料金の支払等」の定義の広さです。条文は、料金の支払だけでなく、財産上の給付、財産の預託、さらにこれらに充てるために行われた金銭の借入れに係る債務の弁済まで含めています。「借りてでも返せ」と迫る場面や、借りた後の返済を迫る場面も射程に入り得るということです。
2号 威迫または誘惑して有害な稼ぎ方を求めること
2号は、客に対し、威迫し、または誘惑して、料金の支払等のために客が次のような行為で金銭などを得ることを要求することを禁じています(同条2号)。条文が挙げているのは、売春防止法その他の法令に違反する行為、対償を受けて不特定の相手方と性交類似行為等をすること、性風俗関連特殊営業で異性の客に接触する役務に従事すること、いわゆるAVへの出演、外国での売春です。
1号との最大の違いは、2号が威迫だけでなく誘惑でも成立し得る点です。声を荒らげたり詰め寄ったりしなくても、「その仕事なら短期間で返せるよ」と穏やかに持ちかけるかたちであっても、2号に触れる可能性があります。取立てが強圧的でなかったことを理由に諦めてしまう方がいらっしゃいますが、2号についてはその前提が当てはまりません。
罰則と、罰せられるのは誰か
違反した場合の罰則は、6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科です(同法53条2号)。あわせて両罰規定が置かれており、従業者が業務に関して違反行為をしたときは、実際に行為をした本人が罰せられるほか、法人にも罰金刑が科され得ます。担当者個人が取立てをしていた場合でも、その担当者が処罰の対象から外れるわけではありません。
なお、この規定の名宛人は営業者側であり、取立てを受けている客の側がこの条文で処罰されることはありません。
| 比べる点 | 1号 | 2号 |
|---|---|---|
| 禁じられる行為 | 支払等をさせる目的で客を威迫し、困惑させること | 支払等のために有害な方法で金銭を得るよう要求すること |
| 手段 | 威迫に限られる | 威迫のほか誘惑も含む |
| 困惑させたことが必要か | 必要 | 条文上は要求で足りる |
| 典型的な場面 | 詰め寄る、押しかける、借入れを迫る | 性風俗店での就労やAV出演を求める |
改正後には、売掛金の回収を目的として客に性風俗店での勤務を求めたとして、店の経営者が同条違反の疑いで逮捕されたと報じられた例もあります。実際に適用され始めている段階だとご理解ください。
18条の3との違い 刑事罰のない規定もあります
改正法の解説では22条の2と18条の3がまとめて紹介されがちですが、効果は異なります。18条の3は、料金についての虚偽の説明や、恋愛感情の誤信に乗じて客を困惑させて飲食させることなどを定めた遵守事項で、刑事罰の定めがなく、公安委員会による指示や営業停止といった行政処分の対象になります。取立ての場面で問題になるのは主に22条の2のほうです。なお、行政処分は店の営業に対する処分であって、個々の客の債務を消したり返金を命じたりする手続ではありません。
取立てを測る物差しは4つあります
取立てと一口に言っても、根拠となるルールは複数あり、対象になる相手も場所も異なります。ご自身の場面にどれが当てはまるかを確かめてください。
| 物差し | 対象になる相手 | 場所の限定 | 罰則 |
|---|---|---|---|
| 風営法22条の2 | 接待飲食営業を営む者 | なし | 6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 東京都のぼったくり防止条例4条2項 | 何人も | 指定区域内の営業に限る | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 貸金業法21条1項 | 貸金業を営む者と委託先など | なし | 2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
| 刑法 | 誰でも | なし | 罪名により異なる |
東京都のぼったくり防止条例
東京都の条例は、粗野もしくは乱暴な言動を交えて、または預かった所持品を隠匿するなど迷惑を覚えさせるような方法で、料金や違約金等を取り立てることを禁じています(同条例4条2項)。この規定は「何人も」と書かれており、経営者に限らず、担当者や取立てを委託された第三者にも直接及びます。罰則は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金で(同11条2項3号)、両罰規定も置かれています。
ただし対象は、公安委員会の告示で丁目単位に定められた指定区域内の営業に限られます。歌舞伎町や池袋の一部を含む30を超える区市が対象ですが、区域外の店には及びません。同種の条例は他の道府県にもありますが、内容は自治体ごとに異なります。
売掛が借入れに置き換わったとき
借金の取立てのルールとして知られる貸金業法21条1項は、人を威迫し、または私生活や業務の平穏を害するような言動によって困惑させることを禁じ、夜間の取立てなども制限しています。違反の罰則は2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科です(同法47条の3第1項3号)。
注意していただきたいのは、この規定が適用されるのは貸金業を営む者やその委託を受けた者であって、店が自分の飲食代金を取り立てる場面には直接は適用されない点です。借金の取立てに関する記事に書かれた時間帯の制限などが、そのまま売掛の取立てに当てはまるわけではありません。もっとも、売掛金が借用書で貸金のかたちに書き換えられていたり、債権が回収業者に譲渡されていたりする場合は話が変わります。誰から請求されているのかによって、使える物差しが変わります。
刑法が前に出る場面
態様によっては刑法が正面から問題になります。害を加えると告げて金銭を交付させようとすれば恐喝(刑法249条)、告知だけであれば脅迫(同222条)、義務のないことを行わせれば強要(同223条)に当たり得ます。帰らせない状態が続けば逮捕監禁(同220条)、退去を求めても出ていかなければ不退去(同130条)の問題になります。風営法や条例の範囲から外れる場面でも、刑法は場所や業態を問わず働きます。
どのような取立てが問題になりやすいか
問題として取り上げやすい場面
次のような取立ては、上記のいずれかの物差しに触れる可能性があります。
- 複数人で取り囲んで支払いを求める。
- 自宅や実家に押しかけ、退去を求めても居座る。
- 勤務先や家族に知らせると告げて支払いを促す。
- 支払いが済むまで店や事務所から帰らせない。
- 借入れの申込みに同行し、その場で契約させる。
- 性風俗店での就労やAV出演を返済方法として持ちかける。
- 所持品や身分証を預かったまま返さない。
評価が分かれやすい場面
一方で、連絡の回数や時間帯そのものを制限する規定は、風営法には置かれていません。「支払わなければ裁判を起こす」と告げることも、本来の権利の行使として述べられている限り、直ちに違法とはいえません。もっとも、告げる内容が権利の範囲内であっても、告げ方や場面の作り方によっては別に評価されることがあります。深夜に連絡を重ねる、複数人で取り囲む、帰れない状況を作るといった要素が加わったときに線を越えていく、という理解が実態に近いところです。
違反があっても支払義務は当然には消えません
ここは正直にお伝えしなければならない部分です。
行政取締法規という位置づけ
風営法も条例も、営業を取り締まるための法令です。この種の法令に違反したからといって、取引の私法上の効力が当然に失われるわけではないというのが、古くからの最高裁の考え方です。取立てが22条の2に触れる態様であっても、それだけで支払義務が消滅するという結論にはなりません。支払義務を争えるかどうかは、契約の成立過程、金額の根拠、時効、保証の有無といった別の観点から検討します。
それでも取立ての違法性が意味を持つ2つの場面
では意味がないのかというと、そうではありません。
- 警察や公安委員会が動くための根拠になります。民事のトラブルとして扱われて終わりになりやすい場面で、刑事や行政の入口を開くことができます。
- 民事の主張を支える評価材料になります。強迫を理由とする意思表示の取消し(民法96条1項)や不法行為に基づく損害賠償(同709条)を組み立てるうえで、取立ての態様は重要な事実になります。
記録として何を残すか
22条の2にせよ条例にせよ、判断の中心は「どのような言い方をされたか」です。金額の記録は残りやすい一方で、言い方や場の状況は、意識して残さないと後から再現できません。
残しておきたいもの
可能な範囲で、次のものを残してください。
- メッセージアプリやメールのやり取りは、削除せず画面ごと保存します。送信取消しがされることがあるため、受け取った時点での保存が有効です。
- 着信履歴は、日時と件数が分かるかたちで記録します。
- 対面や電話でのやり取りは、自分が当事者である会話であれば録音しておきます。
- 訪問を受けた場合は、日時、場所、人数、所要時間をその日のうちにメモします。
- 借入れをさせられた場合は、契約書、明細、店に渡した金額と日付を残します。
なお、店内の防犯カメラの映像、入店記録、伝票などは店側が保有しており、時間の経過とともに失われます。必要になりそうな場合は、早い段階で保全を検討することになります。
どこに相談するか
窓口によって、できることが異なります。
警察と公安委員会
緊急でない相談は警察相談専用電話の#9110、取立てそのものについては所轄警察署の生活安全課が担当します。被害届の提出だけでなく、情報提供というかたちで事実を伝えておくことにも意味があります。公安委員会は立入りや指示、営業停止の権限を持っており、返金の手続ではありませんが、取立てを止める方向には働きます。契約や返金に関することは消費者ホットライン188も利用できます。
弁護士に窓口を移す
弁護士が代理人として通知を出すと、以後の連絡は代理人宛てになります。連絡が直接来なくなること自体が、日常を取り戻すうえで大きな意味を持つ場面があります。あわせて、支払義務の有無や金額の妥当性、分割の可否を整理し、刑事や行政の手続と並行して進めるかを判断します。
ご家族が肩代わりを求められている場合
家族であることを理由に他人の債務を負うという仕組みは、法律上ありません。保証をした場合は別ですが、保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされています(民法446条2項)。口頭で「私が払います」と述べた段階と、書面に署名した段階とでは意味が大きく異なります。
よくあるご質問
取立てをされている自分も、何か罪に問われることはありますか
22条の2の名宛人は接待飲食営業を営む者であり、客の側は処罰の対象ではありません。支払いが遅れていること自体も、当初から支払う意思がなかったといった事情がない限り、犯罪になるものではありません。
担当者個人からの取立てでも、風営法は使えますか
22条の2は営業に関して行われる行為を対象としており、両罰規定によって、実際に行為をした従業者本人も処罰され得ます。もっとも、店を離れた個人的な貸し借りとして構成されている場合は、条文の適用が難しくなることがあります。売掛の経緯と、誰の名前で請求されているのかの整理が出発点です。
録音がなくても相談できますか
録音がなくても相談は可能です。メッセージの履歴、着信の頻度、借入れの記録など、複数の事実が積み重なることで取立ての態様が浮かび上がります。手元にあるものだけをお持ちいただければ、何が足りないかを一緒に確認します。
まとめ
- 売掛の仕組み自体は禁止されておらず、規制されているのは支払わせるための求め方です。
- 風営法22条の2第1号は、料金の支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させる行為を禁じ、借入れの弁済を迫る場面まで射程に含みます。
- 同条2号は威迫だけでなく誘惑でも成立し得るため、穏やかな持ちかけ方であっても対象になることがあります。
- 罰則は6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で(同法53条2号)、両罰規定により行為者と法人の双方が対象になり得ます。
- 18条の3は刑事罰のない遵守事項であり、行政処分の対象にとどまる点で22条の2と異なります。
- 東京都のぼったくり防止条例4条2項は「何人も」を対象としますが、適用は指定区域内に限られます。貸金業法21条1項は貸金業者向けの規定で、店の売掛の取立てには直接は適用されません。
- 違反があっても支払義務は当然には消えませんが、警察や公安委員会が動く根拠となり、民法96条1項の取消しや同709条の請求を支える材料になります。
売掛金の取立てにお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗・ナイトワークに関わるトラブルのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。取立てを受けている方からも、請求する側の店舗の方からも、双方の立場のご相談をいただいております。
連絡が続いている状況では、落ち着いて判断すること自体が難しくなります。支払義務の見通しと、取立てを止めるために何ができるかは、分けて考えることができます。ひとりで抱え込まず、早い段階でお声がけください。


