【不貞慰謝料・請求する側】交渉のゴールをどう設計するか|金額だけではない要求項目
海外の会社が運営するSNSや掲示板に、自分に関する投稿が残っている。削除を申し出たいけれども、相手が海外だから何をしても届かないのではないか。そうしたご相談をいただくことがあります。
運営者が海外にあることだけを理由に、日本から削除を求める道が閉ざされるわけではありません。ただ、国内の事業者が相手の場合と比べると、途中で止まりやすい場所がいくつかあります。止まりやすい場所を知っておくと、返事が来なかったときに次の手を選びやすくなります。
この記事では、海外にあるプラットフォームへの削除の申し出がどこで止まりやすいのかを段階に分けたうえで、届かないことを見越して先に備えておけることを整理します。
この記事で扱うことと、扱わないこと
- 扱うこと=海外の事業者が運営するSNSや掲示板に残っている、自分に関する投稿の削除の申し出です。
- 扱うこと=申し出が届かないまま止まったときに、次に何ができるかという見通しです。
- 扱わないこと=投稿した人を特定して損害賠償を求める手続の詳細です。
- 扱わないこと=サービスごとの入力画面の操作手順です。
- 扱わないこと=事業者ごとの対応の見込みや、削除される割合の予測です。
削除の申し出そのものは、ご本人でも行えます。この記事は、その前に知っておくと判断しやすい点をまとめたものです。
「海外だから消せない」ではなく、止まりやすい場所が違う
海外の事業者が相手のとき、うまく進まない理由はひとつではありません。窓口にそもそも届いていない場合、届いてはいるが判断が返ってこない場合、裁判所の手続に進んだが時間がかかっている場合では、打つ手が変わります。
次の表は、止まりやすい場面と、先に備えられることを並べたものです。ご自身の状況がどこにあるかを見当づける材料としてお使いください。
| 止まりやすい場面 | そこで起きていること | 先に備えられること |
|---|---|---|
| 申し出が窓口に届かない | 様式や送り先が違っている | 申出先と受付方法を確かめてから送る |
| 相手を取り違えている | 日本の関連会社に伝えているが権限がない | 運営主体の名称を利用規約などで確かめる |
| 判断が返ってこない | 規約に照らした検討が続いている | どの権利がどう侵害されたかを具体的に書く |
| 裁判手続に時間がかかる | 書類の取り寄せ・翻訳・海外への送達が必要 | 期限のある記録を先に確保する |
| 消え方が想定と違う | 日本からだけ見えなくなっている | どこから見えなくなったのかを確認する |
日本にある会社に伝えても動かないことがある
日本法人が窓口とは限らない
広く使われているSNSの多くは、海外の法人が運営しています。日本にも同じ名前を含む会社があることがありますが、その会社が広告や営業を担当していて、投稿の削除や発信者情報の開示に応じる立場にないことがあります。
日本の会社に連絡をしたのに話が進まないというとき、相手の対応が悪いのではなく、そもそも判断できる立場にないという場合があります。まずは、どの法人がそのサービスを運営しているのかを確かめるところから始めることになります。
運営主体の名前を先に確かめる
運営主体は、サービスの利用規約やプライバシーポリシー、ヘルプページの末尾などに記載されていることが多いものです。そこに書かれた法人名が、削除を申し出る相手であり、後に裁判手続をとる場合の相手方の候補になります。
この確認を先にしておくと、申し出の宛先を書き直す手間や、届かないまま時間だけが過ぎる事態を減らせます。
まず使えるのは、事業者自身の窓口
日本語で申し出られる窓口が求められている
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)では、利用者数などが一定の規模を超える事業者が総務大臣から指定を受け、削除の申出を受け付ける方法を定めて公表することなどが義務づけられています。指定を受けた事業者には海外の法人も含まれており、届け出られた窓口や削除の基準は総務省のサイトで確認できます。
申出を行おうとする人に過重な負担を課さないことが求められており、日本語による申出を受け付けることも省令で示されています。海外の会社だから英語でなければ受け付けてもらえない、という前提で身構える必要はないことになります。
申し出れば消えるという制度ではない
もっとも、この法律は、申出があった投稿を削除するよう事業者に義務づけるものではありません。義務づけられているのは、窓口を設けて公表すること、削除の基準を定めて公表すること、調査の結果を申出をした人に知らせることなどです。
したがって、窓口に届いたとしても、事業者の基準に照らして削除しないという結論になることはあります。その場合に理由が示されていれば、どこが足りないと判断されたのかを読み取り、資料を足して申し出をやり直すか、裁判所の手続に進むかを検討することになります。
裁判所の手続に進む場合、海外だと何が変わるか
書類の取り寄せと翻訳
日本の会社を相手にするときは、登記事項証明書を添えて申し立てます。海外の法人で日本に登記がない場合は、本国で発行される資格証明書を取り寄せ、日本語の訳文を付けることになります。その分の費用と日数が加わります。
近年は、主要なプラットフォーム事業者が日本で外国会社としての登記をしている例があり、その場合は日本の法務局で登記事項証明書を取得できるため、取り寄せと翻訳の負担が軽くなります。相手が誰かによって、必要な準備が変わるということです。
書類が相手に届くまでの時間
仮処分は、通常の訴訟よりも早く結論が出る手続です。ただ、相手が海外にあると、申立書や決定の書類を海外に送る必要が生じ、期日の設定が国内の事案より先になることがあります。
急いでいる方にとっては、この待ち時間が気がかりだと思います。だからこそ、後で述べるように、待っている間に消えてしまう記録を先に確保しておくことが実際上の意味を持ちます。
日本の裁判所で扱えるかどうか
相手が外国の法人である以上、日本の裁判所がその事件を扱えるのかという点も問題になります。この点については、日本国内の利用者に向けて日本語で使えるサービスを提供していることなどから、日本での業務に関するものといえるとして、日本の裁判所で審理できるとした裁判例が重ねられてきました。近時の裁判例には、この要件を形式的に判断するのは適切でなく、利用の実情に即して考えるべきだという考え方を示したものもあります。
また、外国の法人が相手でも、日本の法律を基準に判断されているのが実務の状況です。海外の会社が相手だから日本の物差しが通用しない、という単純な話ではありません。
時間が問題になるのはなぜか
海外の事業者が相手だと、どうしても日数がかかります。その間に失われるものがあるため、順序を意識しておく必要があります。
削除と特定は別のルート
投稿を消すことと、投稿した人を突き止めることは、別々の手続です。そして、通信の記録は事業者側で一定期間が過ぎると残らなくなるとされ、おおむね3か月から6か月程度といわれています。
投稿が消えると、それ自体は望んだ結果ですが、後から誰が書いたのかをたどる材料も同時に失われることがあります。特定や賠償の請求まで視野に入れている場合は、消してもらう前に、後述する記録を残しておくことが重要になります。
「消えた」の中身を確認する
海外の事業者が相手のときに特有なのが、「消えた」といっても中身がひとつではないという点です。たとえばXでは、有効な法的請求を受けた場合などに、その国の中でだけ投稿の表示を制限し、ほかの国からは引き続き見られる状態にする扱いがあることが公表されています。
| 表示の変化 | 意味 | 残っている可能性があるもの |
|---|---|---|
| 投稿そのものの削除 | そのURLの投稿が見られなくなる | 転載・引用・保存された画像 |
| 日本国内からの非表示 | 日本からは見えないが他国からは見える | 海外からの閲覧、経由サービスでの閲覧 |
| アカウントの停止 | そのアカウントの投稿がまとめて見られなくなる | 別のアカウントでの再投稿 |
| 検索結果からの非表示 | 検索からたどり着きにくくなる | 投稿そのもの |
自分のスマートフォンから見えなくなったことをもって完了と考えず、どの範囲で見えなくなったのかを確かめておくと、その後の判断がしやすくなります。
届かないことを見越した記録の残し方
申し出が通らなかった場合や、手続に日数がかかった場合に備えて、先に手元へ残しておきたいものがあります。
- 投稿のURLを、投稿ごとに一覧にして控えます。
- 画面全体のスクリーンショットを、URLと表示日時が画面に写る形で保存します。
- 投稿された日時と、自分が見つけた日時を、それぞれ記録します。
- 同じ内容が転載されている場所を、見つけるたびに一覧に足していきます。
- 自分が受けた影響を、日付とともに簡単に書き留めておきます。
- 事業者とのやり取りは、送信した内容と返信をそのまま保存します。
海外の事業者が相手の場合、時差の関係で表示される日時が日本時間と異なることがあります。何時基準の表示なのかを併せて控えておくと、後で説明する際に食い違いを避けられます。
申し出が通らなかったときの次の手
一度断られたことが、そこで終わりを意味するわけではありません。方向を変える余地があります。
- 示された理由を読み、資料を足して申し出をやり直します。
- 投稿そのものが残っていても、検索結果の側に削除を申し出る道があります。
- 第三者の立場から削除を促す通知を行う窓口として、セーファーインターネット協会の誹謗中傷ホットラインがあります。
- 削除依頼の方法について相談できる窓口として、総務省の支援事業である違法・有害情報相談センターがあります。
- 脅迫や執拗な連絡を伴う場合は、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署への相談も選択肢になります。
これらを試したうえで、なお残る投稿について裁判所の手続を検討する、という順序で進めることが多くあります。
避けたい進め方
- 記録を残す前に削除だけを急ぐことは、後の手立てを狭めることがあります。
- 投稿した本人に直接連絡を取ることは、やり取りが新たな争いに発展することがあります。
- 同じ場で反論を投稿することは、投稿を目にする人を増やす結果になることがあります。
- 高額な費用を提示する削除代行の申し出に、内容を確かめないまま応じることは避けたいところです。
- 放置している間に転載が広がると、申し出をする相手先が増えていきます。
よくあるご質問
日本の法律は、海外の会社にも通用するのですか
日本の裁判所が事件を扱えるかどうかは、そのサービスが日本での業務といえるかなどから判断されます。日本語で利用できるサービスが日本国内の利用者に提供されている場合には、日本の裁判所で審理できるとされた例が重ねられており、判断の物差しにも日本の法律が用いられています。
英語で書かなければ受け付けてもらえませんか
総務大臣の指定を受けた事業者については、日本語による申出を受け付けることが求められています。指定を受けていないサービスでは英語での対応が必要になることもありますが、まずは窓口の案内を確認してみてください。
削除されたのに、別の人の画面ではまだ見えるようです
日本国内からの表示だけが制限され、ほかの国からは見える状態になっていることがあります。どの範囲で見えなくなっているのかを確かめたうえで、残っている経路について改めて申し出るかどうかを検討することになります。
まとめ
- 運営者が海外にあることだけを理由に、削除を求める道が閉ざされるわけではありません。
- うまく進まないときは、窓口に届いていないのか、判断が返ってこないのか、手続に時間がかかっているのかを分けて考えます。
- 日本にある関連会社が、削除や開示に応じる立場にないことがあります。
- 総務大臣の指定を受けた事業者には、日本語で申し出られる窓口の公表などが義務づけられています。
- ただし、申し出があれば削除する義務を定めた制度ではありません。
- 裁判所の手続では、資格証明書や翻訳、海外への送達のために日数が加わります。
- 消えたように見えても、日本からだけ見えなくなっている場合があります。
- 記録を先に残しておくことが、届かなかったときの次の一手を支えます。
海外の事業者が相手の場合、どこに何を申し出るのかを決めるまでに時間を要することがあります。転載が広がる前に手を打てるかどうかで、その後の負担は変わってきます。当事務所では、どの相手に何を申し出るのが現実的か、裁判所の手続まで進める意味があるかといった見通しの部分から、ご相談を承っています。手元の記録の整理からご一緒しますので、まずはお気軽にご連絡ください。


