同棲中に飼っていたペットはどちらが引き取る?ペットの帰属トラブル
「一度きりの関係だったのに、慰謝料を請求されるのか」「たった1回でも、慰謝料を請求できるのか」。不貞をめぐるご相談では、回数の話が最初の争点になることが少なくありません。慰謝料を請求する側からも、請求を受けた側からも、同じ「一度きり」という言葉が出てきます。
もっとも、「一度きり」という事実は、どの場面の話をしているかによって働き方が変わります。責任が生じるかどうかを決める場面ではほとんど意味を持たない一方、金額を考える場面では意味を持ち、事実を立証する場面ではかえってご自身に不利に働くこともあります。この記事では、その効き方の違いを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。なお、離婚そのものの手続(財産分与や親権など)は扱いません。
「一度きり」という言葉が指しているもの
実際のご相談では、「一度きり」という言葉が指す中身が、人によって異なります。まず、次の3つを区別しておくと、その後の話が整理しやすくなります。
- 会ったのも関係を持ったのも1回で、その後は連絡も取っていない場合。
- 関係を持ったのは1回だが、その前後のやり取りや交際自体はしばらく続いていた場合。
- 「1回だけのつもり」だったが、結果として複数回に及んだ場合。
このうち、評価が最も軽くなりやすいのは1つ目です。2つ目は、肉体関係の回数こそ1回でも、家庭に与えた影響という観点では別の評価を受けることがあります。3つ目は、そもそも「一度きり」とはいえません。ご自身の状況がどれに当たるのかを最初に確認しておくことが、その後の見通しを立てるうえで役に立ちます。
回数は、責任が生じるかどうかを分ける基準ではない
不貞を理由とする慰謝料請求は、民法709条と710条の不法行為に基づく損害賠償請求として行われます。故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害したこと、それによって精神的な損害が生じたことが問われる仕組みであり、ここに「何回以上」という要件は置かれていません。
最高裁判所昭和48年11月15日判決は、離婚原因としての「不貞な行為」について、配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思にもとづくものであるかどうかは問わない、としています。この定義にも回数は含まれていません。1回の関係であっても、他の要件が満たされていれば、慰謝料請求の対象になり得ます。
回数と関係なく責任が生じない場合はある
もっとも、回数が理由ではなく、別の理由で請求が通らないことはあります。代表的なものは次の3つです。
- 請求を受けた側に、相手が既婚者であることについての故意も過失も認められない場合。
- 不貞の時点で、すでに夫婦の関係が破綻していたと評価される場合。
- 消滅時効の期間が経過し、相手方から時効が援用された場合。
これらは回数とは別の論点であり、1回でも複数回でも同じように問題になります。それぞれの判断の枠組みは、別の記事で詳しく扱っています。
場面によって「一度きり」の効き方は変わる
「一度きり」という事実は、どの場面の話をしているかによって、意味が大きく変わります。整理すると、次のようになります。
| 場面 | 「一度きり」の効き方 | そう考えられる理由 |
|---|---|---|
| 責任が生じるかどうか | ほとんど効かない | 回数は不法行為の要件になっていないため |
| 慰謝料の金額 | 効くことがある | 回数は精神的苦痛の程度を測る事情の1つであるため |
| 事実の立証 | 双方に影響する | 「1回はあった」と述べれば、その1回の存在は認めたことになるため |
| 示談書などの書面 | 効き方が後から現れる | 対象を1回に限定するかどうかで、清算の範囲が変わるため |
話がかみ合わないときは、双方が別の場面のことを話していることが少なくありません。「1回なのだから支払義務はない」という主張と、「1回でも金額は変わらない」という主張は、いずれも場面の取り違えを含んでいます。
金額の場面で回数が果たす役割
慰謝料の額は、精神的な苦痛の程度に応じて決まります。苦痛それ自体は目に見えないため、実務では客観的な事情を積み上げて判断していきます。回数はその事情の1つであり、回数が少ないことは、金額を抑える方向に働くことがあります。
ただし、考慮される事情は回数だけではありません。次のような事情が同時に見られます。
- 婚姻期間の長さと、不貞の前の夫婦関係の状況。
- 不貞が発覚した後に、離婚や別居に至ったかどうか。
- 未成年の子がいるかどうか。
- 関係を持つに至った経緯と、どちらが積極的だったか。
- 妊娠など、家庭に具体的な影響が及ぶ事情があったかどうか。
- 発覚後の対応として、事実を認めたか、関係を断ったか、繰り返していないか。
「1回だから低い」とも「1回でも同じ」とも言い切れない
1回の関係であっても、それをきっかけに夫婦関係が壊れ、離婚や別居に至った場合には、金額が抑えられるとは限りません。反対に、回数が1回にとどまり、夫婦関係も維持されている場合には、金額を抑える方向に働きやすくなります。回数は、全体を見るための手がかりの1つであり、それだけで結論が決まるものではありません。
金額の水準そのものの考え方については、別の記事で扱っています。
立証の場面では「一度きり」が逆に働くことがある
手続の中で認定されるのは、証拠によって証明できた範囲です。実際に何回あったのかということと、認定される回数とは、必ずしも一致しません。
この点は、請求する側にとっても重要です。手元にある証拠が何回分の事実を示しているのかを確認しないまま「継続的な関係だった」と主張しても、その部分は認められないことがあります。配偶者からの「1回だけだ」という説明も、それ自体が事実の裏づけになるわけではなく、客観的な資料と突き合わせて確認していくことになります。
「一度だけです」と伝えることの二面性
請求を受けた側が「一度だけです」と述べると、それは回数を限定する主張であると同時に、その1回があったことを認める意味を持ちます。金額を抑えるつもりの発言が、事実の存否についてはご自身に不利に働く、という構造です。
やり取りの残り方にも注意が必要です。裁判例には、当事者間のメッセージのやり取りが和解契約の成立にあたると判断され、認めた不貞行為が1回にとどまるとしても、そこで約束した慰謝料額の支払義務が認められたものもあります。正式な書面を交わしていないから約束にはならない、とは限りません。
慰謝料を請求する側が確認しておきたいこと
- 手元の証拠が、いつの、どの事実を示すものかを時系列で整理する。
- 配偶者の説明だけを前提にせず、客観的な資料と突き合わせる。
- 回数のほかに、金額を基礎づける事情(婚姻期間、子の有無、発覚後の経過)を書き出しておく。
- 相手方の氏名や連絡先など、請求先を特定できる情報を確認する。
- いつ、何を知ったのかを記録に残し、時効の期間を意識する。
慰謝料を請求された側が確認しておきたいこと
- 請求書に書かれている事実(日時、場所、回数)が、ご自身の認識と一致しているかを確かめる。
- その場で金額に同意したり、示された書面に署名したりしない。
- 返信の文面で、認める事実と認めない事実を切り分けて書く。
- 相手が既婚者であることをいつ知ったのか、知る手がかりがあったのかを整理する。
- 金額だけでなく、清算の範囲や求償の扱いといった条件も含めて検討する。
解決するときは、書面の対象範囲に注意する
話し合いがまとまった場合には、示談書や合意書を作成します。このとき、「一度きり」であることを前提に、対象を特定の日の1回に限定して書くと、後から別の日の事実が明らかになったときに、その分は清算されていないと解釈される余地が残ります。
反対に、対象を広く書けば、請求する側から見ると、まだ把握していない事実まで含めて解決することになりかねません。どちらの書き方が望ましいかは、立場と事案によって異なります。清算条項の考え方については、別の記事で詳しく扱っています。
よくあるご質問
1回だけなら、慰謝料を支払わなくてよいのでしょうか
回数が1回であることだけを理由に支払義務がなくなる、という扱いにはなっていません。支払義務の有無は、故意や過失の有無、夫婦関係の状況、時効といった、回数とは別の事情によって判断されます。
配偶者が「1回だけだ」と説明しています。信用してよいのでしょうか
説明の内容と客観的な資料が一致しているかを、あわせて確認することをおすすめします。回数についての説明が後から変わることは珍しくなく、その場合には、金額を検討する前提も変わってきます。
相手が既婚者だと知らなかった場合はどうなりますか
知らなかったという事実に加えて、知らなかったことについて落ち度がなかったといえるかどうかが問われます。これも回数とは別の論点です。
1回の関係でも、配偶者と相手方の両方に請求できますか
双方が責任を負う場合には、いずれに対しても請求することができます。ただし、二人に請求したからといって、受け取れる総額が増えるわけではありません。請求先の選び方は、別の記事で扱っています。
まとめ
- 不貞を理由とする慰謝料請求に、回数についての要件はない。
- 1回の関係でも、他の要件が満たされていれば請求の対象になり得る。
- 回数が意味を持つのは、主に金額を考える場面である。
- 1回でも、離婚に至るなどの事情があれば、金額が抑えられるとは限らない。
- 「一度だけです」という説明は、回数を限定する主張であると同時に、事実を認める意味を持つ。
- 示談書では、清算の対象をどの範囲にするかを、立場に応じて検討する。
不貞慰謝料についてお悩みの方へ
「一度きり」という事情は、たしかに慰謝料の話に影響します。ただしそれは、支払義務そのものをなくす事情ではなく、金額や解決の条件を考えるときの材料の1つです。どの場面の話をしているのかを取り違えたまま交渉を進めると、請求する側は本来の事情を主張しきれず、請求を受けた側は必要以上の条件で合意してしまうことがあります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求される方、請求を受けた方のいずれのご相談にも対応しています。すでに書面が届いている場合や、相手方に弁護士が就いている場合も含め、事実関係の整理から書面の内容の検討まで、状況に応じてお手伝いいたします。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。


