【不貞慰謝料】不貞慰謝料の時効|3年と20年の数え方
不倫の事実を知ったとき、相手本人ではなく、相手の親やきょうだいに伝えたいと考える方がいます。本人が話し合いに応じない、支払いに応じない、あるいは家族に知られれば態度が変わるのではないかという思いから、実家に電話をかける、手紙を送る、直接訪ねるといった行動が選択肢に上がります。
しかし、相手の家族は、法律上は請求の相手方ではありません。伝えたことで相手が動くかどうかは相手次第である一方、伝えた側には別の責任が生じる余地があり、進めていた請求そのものにも影響します。この記事では、相手の親や家族に伝えるという行動を、法律上の位置づけから整理します。なお、勤務先への連絡は別の記事で扱っていますので、ここでは家族に宛てる場合に絞ります。
「家族に伝える」といっても、宛先ごとに意味が違う
ひとくちに家族といっても、その人が置かれている法律上の立場は同じではありません。誰に伝えるのかによって、その後に生じることも変わってきます。
| 宛先 | 法律上の立場 | 伝えることで起きやすいこと |
|---|---|---|
| 相手の親・きょうだい | 請求の相手方ではない第三者 | 本人に伝わるとは限らず、家族が窓口として出てくることがある |
| 相手の配偶者(相手も既婚の場合) | 自分と同じように請求できる立場にある人 | 双方向の請求が交錯し、当事者が四人になる |
| 相手と同居している子ども | 事情を知らされる立場にない第三者 | 後日、その子ども自身との関係で問題になりうる |
| 相手が未成年の場合の親権者 | 示談の成立に関与せざるを得ない立場 | 親を外したまま話を進められない |
この記事で中心に扱うのは、一行目の「相手の親・きょうだい」です。相手の配偶者に伝えるかどうかは、請求の相手先をどう選ぶかという別の問題として整理する必要があります。
親に慰謝料の支払義務は生じない
責任は行為をした本人に生じる
不貞を理由とする慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償です(民法709条)。配偶者と不貞相手が共同で行った行為として、両名が責任を負うと整理されます(民法719条1項)。ここで責任を負うのは、あくまでその行為をした人です。家族であることは、それ自体では責任が生じる理由になりません。
「親だから」を根拠づける規定はない
民法714条は、責任無能力者が責任を負わない場合に、その監督義務者が賠償責任を負うと定めています。ただしこれは、幼い子どもなど、自分の行為の責任を理解する力がないと判断される場合の規定です(民法712条)。不貞が問題になる場面でこの条文が働くことは、通常は考えにくいといえます。相手が未成年であっても、責任を理解する力があると判断されれば本人が責任を負い、親の責任は監督との関係で別に問われる問題になります。
また、民法877条1項は直系血族と兄弟姉妹が互いに扶養する義務を定めていますが、これは家族の生活を支えるための義務であって、第三者に対する賠償債務を肩代わりさせる根拠ではありません。
それでも親が「代わりに払う」と言った場合
親に義務がないことと、親が任意に支払うことは別の話です。実際、話し合いの中で親が支払いを申し出ることはあります。ただし、その申し出がどの形をとるかによって、その後の扱いが変わります。
| 形 | どのように成立するか | 注意すべき点 |
|---|---|---|
| 第三者弁済 | 親が本人の債務として支払う(民法474条1項) | 本人の意思に反するときは効力が否定されることがある |
| 保証・連帯保証 | 親と請求する側との契約(民法446条) | 書面または電磁的記録でなければ効力を生じない |
| 併存的債務引受 | 親が本人と連帯して同じ債務を負う(民法470条) | 親自身が請求の相手方になる |
第三者弁済には制約がある
民法474条2項は、弁済について正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができないと定めています。ここでいう正当な利益とは法律上の利害関係を指し、親族であるというだけでは通常これに当たらないと解されています。つまり、本人が「自分で払うので親は関わらないでほしい」と述べている場合、親からの支払いは効力を生じないことがあります。ただし、本人の意思に反することを受け取る側が知らなかったときは、この限りではないとされています(同項ただし書)。
逆に、受け取る側が親からの支払いを断ることもできます(民法474条3項)。そして親が支払った場合には、親から本人に対して返還を求める話が別に生じます。解決したはずのお金の問題が、家族の中で改めて発生することになります。
保証は書面がなければ成立しない
親に保証人になってもらう場合、保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。その内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなされます(同条3項)。電話口で「私が払います」と言われただけでは、保証としての効力は生じないことになります。
なお、連帯保証にすると、まず本人に請求してほしいという催告の抗弁や、本人の財産から回収してほしいという検索の抗弁が認められません(民法452条・453条・454条)。親の負担は通常の保証より重くなります。
もっとも、親を保証人にするよう求める権利はありません。話し合いの条件として提案すること自体は差し支えありませんが、応じるかどうかは親の判断に委ねられます。
どの形かをはっきりさせないまま受け取らない
名目を決めないままお金だけが動くと、後になって、それが本人の債務の支払いだったのか、親からの立替えだったのか、贈与だったのかが争いになります。清算条項をどう書くか、残額をどう扱うかにも関わってきます。誰が誰に対して何を支払ったのかを、書面で残しておく必要があります。示談書に置く条項の設計については、別の記事で扱っています。
親と話がまとまっても、本人を拘束するとは限らない
見落とされやすいのがこの点です。親は、当然には本人の代理人ではありません。代理人としてした行為の効果が本人に及ぶのは、その人に代理権がある場合です(民法99条)。代理権のない人が本人の名で結んだ合意は、本人が追認しなければ本人に対して効力を生じません(民法113条1項)。
したがって、親と時間をかけて金額や条件を詰めても、後から本人が「親に任せた覚えはない」と述べれば、その合意はそのままでは効力を持ちません。追認があれば、原則として契約の時にさかのぼって効力を生じます(民法116条)。代理権がないまま合意した親自身が責任を問われる場面もありますが(民法117条)、それは請求する側が望んでいた解決ではないはずです。
親を通じて話を進めるのであれば、本人の委任状や、本人自身の署名を得ておくことが欠かせません。
相手が未成年の場合は、逆に親を外せない
相手が未成年である場合、法定代理人の同意を得ずにした行為は取り消すことができます(民法5条1項・2項)。示談を成立させるには親権者の関与が避けられず、この場合は、親に連絡すること自体が手続上必要な行為になります。
伝え方によっては、自分の側に責任が生じる
不貞をされた側であっても、伝え方によっては別の責任を問われることがあります。
- 公然と事実を告げて相手の社会的評価を下げれば、名誉毀損が問題になります(刑法230条)。内容が事実であっても成立しうる点に注意が必要です。
- 私生活上の事実をみだりに明かすことは、プライバシーの侵害として損害賠償の対象になりえます(民法709条・710条)。
- 実家を訪ねて敷地や建物に立ち入る、退去を求められても帰らないといった行為は、住居侵入や不退去にあたることがあります(刑法130条)。
家族という限られた範囲に伝えた場合でも、そこから他の人に伝わりうると評価されれば、公然性が認められることがあります。実際に、家族一人に宛てた郵便物について、名誉毀損とプライバシーの侵害の両方が認められた裁判例もあります。少人数に伝えただけだから問題にならない、とは言い切れません。
伝えた相手自身との関係でも問題が生じうる
伝える相手が高齢であるなど、伝え方や内容によっては、その家族自身が受けた不利益について責任を問われることも考えられます。相手を動かす目的で第三者に働きかける以上、その第三者との間にも新たな関係が生じるという構造になります。
なお、「家族に言う」と告げて支払いを求める場合の線引きは、正当な権利行使と脅迫・恐喝の境界という別の問題として整理しています。詳しくは別の記事をご覧ください。
請求そのものにも影響する
- 請求の仕方が行き過ぎていたと評価されると、慰謝料の額を決めるにあたって考慮されることがあります。
- 相手から別に損害賠償を請求され、支払われるべき額との間で調整が必要になることがあります。
- 著しく相当性を欠くと評価される場合には、信義則違反や権利の濫用として請求が制限される可能性もあります(民法1条2項・3項)。ただし、そのように判断されるのはまれです。
- 相手が弁護士に依頼して直接のやり取りができなくなり、かえって解決までの時間が延びることがあります。
- 証拠が十分でない段階であれば、相手に態勢を整える時間を与えることにもなります。
感情としては理解できる行動であっても、金額や解決までの早さという観点からは、逆に働くことが少なくありません。
家族が法律上の相手方になる数少ない場面
相手が亡くなった場合
相手が亡くなると、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。慰謝料の支払義務も相続の対象になるため、この場合は親や配偶者、子が相手方になります。ただし、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続を放棄することができ(民法915条1項)、放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
親が任意に保証人や引受人になった場合
前に述べたとおりです。この場合の親は、家族としてではなく、契約の当事者として責任を負います。書面の有無と内容が、そのまま結論を分けます。
親自身が関与したといえる特別な事情がある場合
交際に親が積極的に加担したといえるような事情があれば、共同不法行為として責任が問題になる余地はあります。もっとも、同居を認めていた、知りながら黙っていたという程度で認められるものではなく、実際にはごく限られた場面です。
伝える前に確認しておきたいこと
- 何のために伝えるのかを言葉にする。相手を動かすためなのか、事実を知ってほしいのか、感情を伝えたいのかで、取るべき手段が変わります。
- その目的が、家族に伝える以外の方法で達せられないかを検討する。書面による請求や代理人からの通知で足りることがあります。
- 伝える相手を絞る。同居していない親族や知人まで広げるほど、責任が生じる範囲も広がります。
- 伝える内容を必要な範囲にとどめる。行為の詳細や画像を添えることは、目的を超えた開示と評価されやすくなります。
- 伝えた記録が残ることを前提にする。送った書面もメッセージも、後に相手方から証拠として提出されます。
請求を受けた側・家族の側から見た整理
実家に連絡が来た、親が対応を求められているという立場からは、次の点が出発点になります。
- 親に支払義務はありません。応じないことが、そのまま不利益につながるわけではありません。
- 親が署名を求められている書面が、保証なのか、債務引受なのか、単なる立替えの確認なのかを確かめる必要があります。書面の表題ではなく、中身で決まります。
- 本人が支払う意思を示しているのであれば、親からの支払いは、かえって効力を争われることがあります。
- 親が「自分が話をつける」と申し出る場合でも、その合意が本人に及ぶには本人の意思が必要です。
- 伝え方が行き過ぎていたと考えられる場合、その点は交渉の中で述べることができます。ただし、それによって不貞そのものの責任が消えるわけではありません。
まとめ
相手の親や家族に伝えるという行動は、法律上は、請求の相手方ではない人に働きかける行為です。親に支払義務はなく、親と話がまとまっても本人を拘束するとは限りません。他方で、伝えた側には名誉毀損やプライバシーの侵害という別の責任が生じる余地があり、請求そのものにも影響します。
家族が法律上の相手方になるのは、相手が亡くなった場合や、親が任意に保証人・引受人になった場合など、限られた場面です。動く前に、何を実現したいのかを整理しておくことをおすすめします。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を承っています。これから請求を進める方だけでなく、すでに家族へ連絡してしまった後の立て直しについてもご相談いただけます。池袋・新橋の事務所のほか、お電話やオンラインでのご相談も承っておりますので、お一人で抱え込まずにご連絡ください。


