不倫・愛人関係を清算したい|穏便に別れるための手切れ金の考え方
パパ活の関係が終わったあとに、相手の男性から「結婚するつもりだと信じていたのに裏切られた」「結婚詐欺だから渡した金を返せ、慰謝料も払え」と迫られる――。近年、このような相談は珍しくありません。
高額な金額を書いた通知が届いたり、弁護士名義の書面が届いたりすると、頭が真っ白になってしまう方も多いと思います。しかし、請求されたことと、支払う義務があることは別です。相手が「詐欺だ」と主張しても、法的にそれが認められるかどうかは、いくつかのはっきりした条件で判断されます。
この記事では、「結婚詐欺だ」と損害賠償を請求された女性が、何を確認し、どのような順序で対応すればよいのかを整理します。
1. 「結婚詐欺だ」という請求には、性質の違う3つの話が混ざっている
まず落ち着いて切り分けたいのが、相手が何を求めているのかという点です。実際の請求は、次の3つが混ざった形で届くことがほとんどです。
- 渡したお金を返せ(返還請求) — これまで受け取ったお金や、貸付・援助名目で受け取ったお金の返還を求めるもの
- 慰謝料を払え(損害賠償請求) — だまされて精神的苦痛を受けた、という主張に基づくもの
- 警察に被害届を出す(刑事の話) — 詐欺罪(刑法246条)で処罰を求める、という主張
この3つは、成立する条件も、必要な証拠も、対応の窓口もまったく違います。1通の書面にまとめて書かれていても、頭の中では分けて考えてください。「全部まとめて言われたとおりに払うしかない」と思い込んでしまうことが、最も避けたい状態です。
なお、渡されたお金が贈与だったのか、貸したお金だったのか、という性質の切り分けは、それ自体が大きなテーマです。
2. 民事で「詐欺」が認められるには、2つの柱が必要
相手が「結婚詐欺だ」と言うだけで、法的に詐欺が成立するわけではありません。民事で詐欺を理由に金銭を請求する場合、請求する側(男性側)が、次の2つを証拠で示す必要があります。
① だます行為があり、それによってお金が渡されたこと
「結婚する」と信じ込ませる言動があり、そう信じたからこそお金を渡した、という関係(因果関係)が必要です。パパ活は、時間を共にすることの対価として金銭を受け取る合意のもとで行われているのが通常ですから、「結婚を信じたから渡した」という説明が事実と食い違っていることも少なくありません。
② お金を受け取った時点で、だまし取る意思があったこと
ここが実務上の最大の壁です。詐欺といえるためには、最初から結婚する気も、約束を守る気もないのに、金銭を得る目的で近づいたという内心が必要とされます。
裏を返せば、次のような事情は、それだけでは詐欺になりません。
- 交際を続けるつもりだったが、途中で気持ちが変わって別れた
- 結婚の話が出たことはあったが、具体的に進める前に関係が終わった
- 相手の要求(性的な要求や独占的な交際)に応じなかったため、関係が壊れた
心変わりや関係の解消それ自体は、法律上の詐欺ではありません。 誰と交際を続けるか、続けないかは本来自由だからです。実際、相手の恋愛感情が一方的に強くなり、それが満たされなかった結果として「詐欺だ」という主張に転じているケースは多く見られます。
そして、この①②を証明できなければ、請求は認められないことになります。「詐欺ではないこと」を女性側が完璧に証明しなければならない、というものではありません。
3. 検討できる反論の柱
実際の交渉では、事案に応じて次のような反論を組み立てていくことになります。
(1)詐欺の事実そのものを争う
当初からだます意思がなかったこと、実際に交際・食事・デートといったやり取りが継続していたことなどを、メッセージ履歴などで示していく方向です。「はじめから結婚するつもりはない」と早い段階で伝えていた記録が残っていれば、有力な材料になり得ます。
(2)受け取ったお金の性質を整理する
デートや食事の対価として受け取ったお金なのか、返す約束をして借りたお金なのか、贈与として受け取ったお金なのかで、返還義務の有無は変わります。名目ではなく、渡した時点でどういう合意だったかが判断の軸になります。
(3)金額を争う
実際の授受額を大きく超えた金額が請求されることがあります。相手が記憶や感情に基づいて請求額を組み立てている場合、送金履歴などの客観的な記録と突き合わせることで、金額が過大であると示せることがあります。請求額がそのまま支払義務の額になるわけではありません。
(4)時効を確認する
不法行為に基づく損害賠償は、被害者が損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。貸金や不当利得の返還請求は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(民法166条)。かなり前のやり取りを蒸し返されている場合は、確認する価値があります。
4. 「結婚詐欺」以外の名目で請求されることもある
相手の請求は、詐欺以外の構成で出てくることもあります。混同しないよう、代表的なものを挙げておきます。
- 貞操権の侵害 — 結婚する意思がないのに結婚をほのめかして性的関係を持った場合、性的な自己決定を侵害したとして慰謝料が問題になることがあります(民法709条・710条)。金銭をだまし取ったといえなくても争点になり得る点で、詐欺とは別の枠組みです。
- 婚約破棄の慰謝料 — 婚約が成立していたと評価される場合の話です。婚約は口約束でも成立し得ますが、指輪・両家の顔合わせ・式場の予約など、客観的な裏づけが重視されます。パパ活の関係で、この裏づけが整っているケースは多くありません。
- 相手の配偶者からの不貞慰謝料 — 相手が既婚者だった場合、男性本人ではなくその配偶者から請求が来ることがあります。これは上記のいずれとも別のルートです。
5. 刑事の話になったら
「警察に被害届を出す」と言われることがあります。詐欺罪は刑法246条1項に定められ、10年以下の拘禁刑とされています(2025年6月1日の拘禁刑への一本化を反映)。罰金刑の定めがない、重い類型の犯罪です。
もっとも、民事と同じく、捜査機関も「最初からだます意思があったか」を検討します。金銭のやり取りがあっただけで直ちに事件として扱われるわけではなく、まずは電話や書面での連絡を受け、任意の事情聴取という形で話を聴かれるのが通常です。
ここで大切なのは、次の2点です。
- 連絡を無視しない。 呼び出しを放置すると、かえって状況が悪くなるおそれがあります。
- 事情聴取の前に弁護士に相談する。 説明の仕方や、供述調書の内容の確認方法など、事前に知っておくと違いが出ます。納得できない内容の調書に署名を求められた場合は、その場で署名せず、訂正を求めることができます。
一方で、事実として虚偽の口実(実在しない事業資金、実際にはかかっていない治療費など)を告げてお金を受け取っていた場合は、責任が生じ得ます。そうした事案でも、早い段階で弁護士が入り、相手方との話し合いや返済の協議を進めることで、結論が変わってくることがあります。不利な事実があるからこそ、自己流で対応せず専門家に相談する意味があります。
6. 初動でやらないほうがよいこと・やっておきたいこと
避けたい対応
- ブロックする、LINEやメールの履歴を削除する
- 怖くなって消してしまう方は多いのですが、そのやり取りには自分に有利な内容が含まれていることがあります。どういう約束でお金を受け取っていたのかを示す記録は、反論の中心になり得ます。消してしまうと、後から取り戻すことは容易ではありません。
- その場で「ごめんなさい、返します」と答える
- 謝罪や返金の約束は、債務を認めたもの、あるいは詐欺の事実を認めたものと受け取られるおそれがあります。撤回は簡単ではありません。
- とりあえず一部だけ払う
- 一部の支払いも、義務を認めた行為と評価されることがあります。また、一度応じたことで請求が止まるとは限りません。
- 感情的に直接やり合う
- 当事者同士だと対立が深まりやすく、脅しやつきまといに発展することもあります。
- 裁判所からの書類を放置する
- 支払督促や訴状が届いた場合、期限内に対応しないと、相手の言い分どおりの結論が確定してしまうおそれがあります。
やっておきたいこと
- 請求の中身を書き出す — 誰が(本人か代理人か)、何を根拠に、いくらを、いつまでに求めているのか
- 記録を保存する — メッセージ、送金履歴、日時のわかるスクリーンショット。自分から消さない
- 回答期限を確認する — 期限までに、まず相談する
- 窓口を一本化する — 弁護士に依頼すれば、以後の連絡はすべて弁護士が受けます
7. 請求が度を越えている場合
「家族や職場にバラされたくなければ払え」「警察に言われたくなければ示談しろ」といった形で金銭を求められることがあります。害悪を告げて金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)や脅迫罪(刑法222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)にあたり得ます。
ただし、権利があると考えて請求すること自体が直ちに違法になるわけではなく、正当な請求との線引きは微妙です。自己判断で「これは恐喝だ」と決めつけて対応するのは危険なので、やり取りを保存したうえで弁護士に相談してください。
なお、身バレを恐れて相談をためらう方がいますが、成人同士の関係を前提にすれば、相談したこと自体で不利益を受けるわけではありません。弁護士には守秘義務があります。
8. まとめ
- 相手の「結婚詐欺だ」という主張は、返還請求・慰謝料・刑事の3つに分けて考える
- 民事で詐欺が認められるには、だます行為と当初からだます意思の証明が必要で、その責任は請求する側にある
- 心変わりや関係の解消は、それだけでは詐欺にならない
- 請求額がそのまま支払義務の額とは限らない
- 履歴を消さない、その場で認めない、放置しない――この3つが初動の要
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間の金銭トラブルについてのご相談をお受けしています。請求書面が届いた段階、あるいは「訴える」と言われた段階でも、早いほど取れる選択肢は多くなります。一人で抱え込まず、ご相談ください。


